INTERVIEWインタビュー

リサイクルから食材まで、
「ソフトマター」で
未来をつくる。

  • 博士卒
  • 大学講師経験
  • 博士研究員経験
  • キャリア
  • パーマネント型研究員
  • 研究職材料・化学領域 機能化学研究部門
  • 武仲 能子たけなか よしこ博士卒
武仲 能子さんの写真

〝いい研究〟になるかどうかは、
私の努力で決まる。

武仲 能子さんの写真

博士号取得後、大学の講師や公的研究機関の博士研究員を経て、産総研に2011年入所。博士課程から現在まで、一貫してソフトマターをテーマに研究を続ける。液晶の新機能開発といった基礎研究をはじめ、食品のカプセル化やプラスチックリサイクルプロジェクトなど、社会実装にも積極的に携わる。
(取材日:2024年4月)

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“いい研究”ができるかどうかは、
自分が決める

顕微鏡をのぞいた時、その美しさにすっかり魅了されてしまったんです。まだ大学で何を専攻するか迷っていたころ。高分子を扱う研究室を見学した時のことでした。高分子とは、数千以上の原子が共有結合してできた巨大な分子のこと。ゴムやプラスチック、タンパク質などが高分子化合物ですね。それまで、高分子にはあまり興味がなかったのですが、顕微鏡で見てみると、六角形や三角形が並んだ構造がとてもきれいで……。「なんて美しいんだろう」と専攻を決めてから、現在に至るまでずっと高分子をはじめとするソフトマターをテーマに研究しています。
博士課程修了後、企業への就職は考えていませんでした。企業のいち研究者という立場ではなく、「研究者・武仲」として、個人の名前を出して研究がしたいと思ったんです。大学の講師や、公的研究機関の博士研究員を経て、募集を見つけたのが産総研でした。ただ、産総研に行くかどうかは、ぎりぎりまで悩みましたね。当時、私が携わっていたのは基礎研究。産総研は応用研究のイメージでしたから、自分がやりたい研究ができるのか不安で。そこで、大学で指導教官だった先生に相談したら、「 “いい研究”をしていれば大丈夫」と背中を押してくれて。“いい研究”になるかどうかは、周りの環境に関係なく、私の努力で決まるもの。なんだ、結局私が頑張ればいいだけか、と気が楽になって、産総研に入所することを決めました。

研究器具の写真

プラスチックはもっと
生まれ変わることができる

現在はいくつかのプロジェクトが並行して動いています。全体の5割がプラスチックリサイクルのプロジェクト、3割が企業との共同研究、残りの2割がソフトマターの基礎研究、といったバランスですね。
プラスチックリサイクルのプロジェクトは、私が所属する機能化学研究部門が主導して行っているもの。一口に「プラスチック」と言っても様々な種類があり、その素材や性能に見合った再生技術が開発されています。ただ、今のリサイクルの仕組みでは、回収した時点で素材などが分からないことが多いんです。本来は高品質なプラスチックに生まれ変わる廃材でも、情報がないため、低品質なリサイクルに回さざるをえないのが現状。もったいないですよね。そこで、2022年に始動したのがこのプロジェクトです。プラスチックの分析評価などを行う技術開発チームと、回収や流通の仕組みを向上するコンセプトチームがあり、私は後者のリーダーを務めています。
リサイクルは、1社だけで完結するものではありません。私たちの目標は、研究所という中立的な立場から、企業同士を結びつける「ハブ」となること。約60社から聞き取った現場の声をもとに、リサイクルの一連の流れを組み立てているところです。技術開発チームともよく会話をするので、高分子の知識が生かされる場面は多いですし、自分の研究が社会と繋がっていると感じますね。社会において、リサイクルは待ったなしの課題。1日でも早く実装できたらと、チーム一丸となって取り組んでいます。

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「液晶の代わりに
醤油を入れられませんか?」

社会実装しつつあるもので思い入れがあるものは、食品のカプセル化ですね。私にとって初めて取り組んだ社会実装課題で、鳥取県産業技術センターと開発したもの。共同研究では、各地域の公設試験研究機関(公設試)と、地元企業に共通の課題解決にも取り組んでいるのです。
アイデアが生まれたのは、鳥取で開いた研究交流会で「液晶のカプセル化」について話していた時でした。液晶をマイクロメートル単位の小さなカプセルに詰め込むと、通常では見られない光学特性を示すんですね。これを未来の光学材料として研究していて……という話をしたら、「液晶の代わりに醤油を入れられませんか?」という話になりまして。鳥取にはピンク色の醤油を作っている会社があり、人工いくらみたいな商品が作れたら面白いのではと。そこで醤油に限らず、様々な液体の調味料や飲料をカプセル化する技術について、公設試と共同研究を始めました。カプセルの大きさや皮の厚さなど試行錯誤を繰り返し、完成品は最終的に特許も取得しました。
当時感じたのは、頭を使う部分が全然違うということ。基礎研究は、目の前の現象を解き明かそうと、じっくり追求していくのがメイン。対して社会実装は、時間や予算など制約があるなかで、今できるベストを目指すのが大事。最初は切り替えが大変でしたが、次第に「どちらも面白い」と思えるようになりました。基礎研究には、研究そのものの面白さが詰まっていて、社会実装には、あらゆる手段を駆使してゴールを目指す楽しさがある。産総研だからこそ、この両方の「いいとこ取り」ができるのだと感じます。

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自分で動いた先に、
楽しさが待っている

入所8年目の時には、1年間スロベニアに滞在し、現地の研究機関で共同研究をしていました。海外でも液晶の研究をしたくて、自分で行き先を決めて希望したんです。その後もほぼ毎年1~2ヵ月間は、スロベニアに行って研究を続けています。産総研に来る前は、「やりたい研究ができないのでは」と悩んでいましたが、基礎研究も社会実装も、海外との共同研究もできています。産総研はできることの選択肢が広く、「これをやりたい」と動けば叶えられる環境。今では、学生の指導をしたり、大学の客員准教授も務めていたりします。やっぱり自分で“いい研究”を続けていれば大丈夫なんだな、と実感しているところです。
産総研に来てよかったことの一つに、「同期ができた」というのもありますね。産総研は採用規模が大きく、様々な分野の研究者と同期として知り合えたのは、今でも私の財産です。音楽が趣味の同期とユニットを組んで、コンサートもしているんですよ。私の担当はフルート。音楽を通じて横のつながりができれば、共同研究にも発展しやすいのではと、つくば市の他の研究機関で活動する音楽サークルの人たちと毎年イベントも行っています。
リーダーを務めるのも、イベントを作るのも、自分から積極的に動くと楽しくなってきますね。ただ待っているのは苦手。気付くと体が動いていますし、失敗すら楽しんでしまいます。ようやく「研究者・武仲」として、学会でも名前が通るようになってきたので、これからも産総研での研究を楽しんでいきたいですね。せっかく覚えてもらった名前を忘れられないように、地道に努力を積み重ねていきたいと思っています。

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