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発表・掲載日:2011/09/27

世界初の高品質ゲルマニウムプラットフォーム基板を実現

-ゲルマニウム単結晶層のさまざまな基板への転写技術-

ポイント

  • 高品質ゲルマニウム単結晶層の剥離と任意の基板への転写技術の開発
  • 容易に高性能ゲルマニウムデバイスと既存デバイスとの集積化、混載化が可能
  • エレクトロニクスとフォトニクスを融合した新機能デバイスへの展開に期待


概要

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 野間口 有】(以下「産総研」という)ナノエレクトロニクス研究部門【研究部門長 金丸 正剛】新材料・機能インテグレーショングループ 安田 哲二 研究グループ長、前田 辰郎 主任研究員、板谷 太郎 主任研究員らは、住友化学株式会社【代表取締役社長 十倉 雅和】 (以下「住友化学」という)と共同で、ゲルマニウム(Ge)プラットフォーム基板作製技術を開発した。

 今回、産総研の基板貼り合わせ技術とデバイス作製技術、住友化学の結晶成長技術というそれぞれの強みを生かし、高品質Geプラットフォーム基板の実用化に向けた、(1) ヒ化ガリウム(GaAs)基板上への高品質Geおよびヒ化アルミニウム(AlAs)層のエピタキシャル成長技術、(2) エピタキシャルリフトオフ法による薄膜Ge層の剥離技術、(3) 高品質薄膜Ge層を任意の基板に貼り合わせる技術を開発した。

 今回開発した技術によりGeをベースにエレクトロニクスフォトニクスを融合した新デバイスの開発や機能集積化が期待される。

 なお、この技術の詳細は、最先端のデバイス技術が報告される “2011 International Conference on Solid State Devices and Materials” (SSDM 2011) (2011年9月28日~30日、名古屋) で発表される。

高品質ゲルマニウム単結晶薄膜の画像
ガラス基板(18x18mm)上の高品質ゲルマニウム単結晶薄膜(10x10mm)

開発の社会的背景

 Geはフォトニックデバイスや高効率太陽電池用材料として用いられるだけでなく、近年、ポストシリコン世代の高性能トランジスタにおけるチャネル材料としても精力的に研究が進められており、エレクトロニクスとフォトニクスを融合するための新たなプラットフォーム基板の材料として注目されている。単結晶Ge基板は高価で割れやすく、デバイス化に必要な高品質Ge単結晶層を安価で取り扱いやすいシリコン、ガラス、プラスチックなどの基板上に形成する技術の実現が求められていた。

研究の経緯

 産総研と住友化学は、平成20年よりハイブリッド半導体技術開発の共同研究を進めており、シリコン系で培われた高性能半導体チップとフォトニック材料としてさまざまな機能をもつGe、III-V族半導体デバイスとの融合を図る基盤研究に取り組んできた。今回、産総研の世界屈指のGe系デバイスの試作技術、住友化学の商用レベルのGeおよびIII-V半導体エピタキシャル成長技術を利用し、さまざまなデバイスの機能集積化に適した高品質Geプラットフォーム基板の作製に成功した。

研究の内容

 図1に今回開発したGe プラットフォーム基板の作製方法を示す。GaAsもしくはGe基板上にAlAs 層を挟んで高品質なGe層(Epi-Ge)をエピタキシャル成長させる。Ge、GaAs、AlAsは、格子整合性に優れているため良質な薄膜Ge単結晶層を得ることができる(図1(a))。次に、高品質Ge層を成長させた基板をシリコン基板や、透明なガラス、プラスチック基板など任意の基板に貼り合わせる(図1(b))。その後、AlAs層をフッ酸(HF)系の溶液で選択的に溶解させることで、GaAsもしくはGe基板を剥離し(図1(c))、任意の基板に高品質な薄膜Ge層を転写(トランスファー)する(図1(d))。このような手法をエピタキシャルリフトオフ法と呼び、剥離後の高価なGeAs(Ge)基板を再利用できるという利点がある(図1(a)’)。

高品質Ge層のトランスファー方法の図
図1 高品質Ge層のトランスファー方法

 図2に高品質Ge層を透明ガラス基板やフレキシブルなプラスチック基板にトランスファーした例を示す。Ge層の面積は10mm x 10mmで、さまざまなチップ、デバイスを作製、集積化するのに十分な大きさである。また、100μmレベル以下の微細なパターンに加工された高品質Ge層のトランスファーにも成功しており(図3)、高品質Ge層を必要な場所に必要な大きさ、形状で作製できる。

ホットスポットのピーク温度比較図
図2 プラスチック基板(左)および透明ガラス基板(右)上の高品質Ge単結晶層
 
微細加工した高品質Ge単結晶パターンのトランスファーの図
図3 微細加工した高品質Ge単結晶パターンのトランスファー

 さらに、この技術は、単なる高品質Ge層のトランスファーだけでなく、Geをベースとしたデバイスのトランスファーにも有効である。図4は、実際にガラス基板上にトランスファーされたゲート長4μmのGeトランジスタの特性とその写真である。成長したGe層はデバイス動作するのに十分な品質であるだけでなく、ガラス基板にトランスファー後もその特性に変化がない事から、この技術の有効性がわかる。本技術により、GeトランジスタやGeを基にした太陽電池など多彩なデバイスを成長基板上に作製し、任意の基板に必要に応じて多数並べたり、積層させることで、従来デバイスとの集積化、混載化が可能となる。

ガラス基板上にトランスファーされたゲート長4μmのGeトランジスタ特性とその写真
図4 ガラス基板上にトランスファーされたゲート長4μmのGeトランジスタ特性とその写真

今後の予定

 現在、Geを用いたデバイスはさまざまな分野で活用されているが、この技術により、さまざまな高品質Ge単結晶層基板もしくは転写可能なGeデバイスが供給されることで、高性能Geデバイスの新たな用途拡大が考えられる。例えば、エレクトロニックデバイスとフォトニックデバイスのワンチップ化、太陽電池の軽量化など、従来の技術では不可能であった新機能の集積化、多機能化、高性能化などへの貢献が期待される。今後はそうした用途に応じたGeプラットフォーム基板を提供していく予定である。


用語の説明

◆ゲルマニウム(Ge)
ゲルマニウムは原子番号32の元素。元素記号はGe。シリコンより狭いバンドギャップ(0.66eV)をもつ半導体である。初期のトランジスタにはゲルマニウムが使われ、安定性に優れるシリコンが登場するまではトランジスタ技術の主流だった。現在でも、狭バンドギャップ半導体としてダイオードや、光および放射光検出器、また高効率太陽電池基板として多方面で用いられている。[参照元へ戻る]
◆プラットフォーム基板
エレクトロニクス、フォトニクスの機能を動作させるために必要となる基板のこと。これまでのLSIを中心としたエレクトロニクスではシリコンがプラットフォーム基板であった。[参照元へ戻る]
◆エピタキシャル成長
薄膜結晶成長技術のひとつ。基板となる結晶の上に結晶成長を行い、下地の基板の結晶面にそろえて配列する成長の様式である。エピタキシャル成長が起こるには格子定数のほぼ等しい格子整合性に優れた結晶を選ぶ必要がある。 [参照元へ戻る]
◆エピタキシャルリフトオフ法
犠牲層を挟んで、格子整合性に優れた目的の材料をエピタキシャル成長させ、成長後、犠牲層を選択的にエッチングすることで、目的の材料を剥離する方法である。[参照元へ戻る]
◆エレクトロニクス、フォトニクス
エレクトロニクスは半導体中の電子(エレクトロン)現象を用いる工学、フォトニクスは光子(フォトン)の機能を活用する光工学のこと。将来のコンピュータや集積回路においては、省電力化、高速化、ダウンサイズ化の限界が存在する。この限界を打破するためには、エレクトロニクスとフォトニクスを融合したエレクトロフォトニックデバイス(光電子デバイス)の実現が不可欠である。[参照元へ戻る]
◆ポストシリコン
LSIに用いられるトランジスタは、寸法の微細化が回路性能の向上につながるため、より微細な素子の実現を目指して、激しい開発競争が続いている。特に、2020年頃に量産が開始される10nm技術世代以降では、従来のシリコン(Si)をチャネルとするトランジスタでは物理的な性能限界に突きあたる。その解決には、シリコンよりも移動度の高いゲルマニウムやIII-V半導体、グラフェンなどをチャネル材料とすることが挙げられるが、これまでのシリコンテクノロジーとの整合性からゲルマニウムが最も有望視されている。[参照元へ戻る]
◆トランスファー
ある基板の上にある材料を任意の基板に転写することである。[参照元へ戻る]

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