カーボンニュートラルの実現に向けてCO2から次世代燃料をつくる
カーボンニュートラルの実現に向けてCO2から次世代燃料をつくる

2026/04/22
カーボンニュートラルの実現に向けて CO2から次世代燃料をつくる
カーボンニュートラルを目指して、国内外でさまざまな技術開発が進められています。その中で、重要となる技術の一つとして期待されているのが、二酸化炭素と水素から製造される液体合成燃料「e-fuel」です。産総研はこの液体合成燃料を一貫製造するベンチプラントを開発し、連続運転に成功。再生可能エネルギーを活用したクリーンな燃料製造技術開発に取り組み、カーボンニュートラルの実現に向けて貢献していきます。
電気化学と触媒化学を組み合わせた日本初の製造プロセスを開発
カーボンニュートラルを進めるうえで、航空機、船舶、大型自動車のようにエネルギー源をすべて電気に転換するのが難しいモビリティがあります。そこから排出される二酸化炭素をどのような方法で減らしていくかを検討していく中で、液体合成燃料製造のプロジェクト(NEDO「次世代FT反応と液体合成燃料一貫製造プロセスに関する研究開発」事業:2020〜2024年度)が立ち上がり、関連企業、大学、機関と共同で取り組んでいます。プロジェクトの意義を、玄地裕は次のように述べます。
「従来の化石燃料と比べて、環境負荷が小さく将来的に限りなくゼロに近づくことを担保しながら液体合成燃料の製造プロセスを開発することが求められています。そうした技術が日本にあること、大規模に製造できる仕組みをつくっておくことが非常に重要です」
二酸化炭素を資源として再利用し、再生可能エネルギー由来の水素を用いて製造した液体合成燃料はe-fuelとも呼ばれます。今回の研究開発において重要となる技術について、高木英行が説明します。
「液体合成燃料にはさまざまな作り方がありますが、大きく2つの工程に分けられます。それは、合成ガス(一酸化炭素と水素の混合ガス)を作る工程と、その合成ガスを燃料に転換する工程です。既存の技術では、この2つの工程を、触媒反応を使って行いますが、産総研では、再生可能エネルギーを活用した環境負荷の小さい製造技術の開発に向けて、前者を電気化学、後者を触媒化学という異なるシステムを直接組み合わせた新しい一貫製造プロセスを構築しました。液体合成燃料の課題であるコスト低減に向けて、既存技術に比べて効率の高い革新的技術の開発を目的としています」
SOEC共電解で効率的に合成ガスを作り省電力によるコスト削減を実現
まず合成ガスを作る工程について、望月剛久に聞きました。
「非常に安定な二酸化炭素を、反応性の高い一酸化炭素と水素の混合ガスに変換するためには、どうしてもエネルギーが必要になります。一般的なのは、二酸化炭素と水素を反応させて一酸化炭素を得る方法(逆水性ガスシフト反応)ですが、多くのエネルギーを投入しなければなりません。そこで、より効率的な方法として着目したのがSOEC(固体酸化物形電解セル)共電解です。これは、二酸化炭素と水蒸気を同時に高温で電気分解することで、一酸化炭素と水素の合成ガスを作ることができる技術です。これにより大幅な省電力に加え、プロセスを簡略化できるメリットもあります」
液体合成燃料の製造コストの多くを占めるのが合成ガスを得る工程です。カーボンニュートラルに向けては、再生可能エネルギー由来の電力を使わなければならず、エネルギー効率をどこまで上げられるかがコスト低減に向けて重要となってきます。
ハイブリッド触媒を使ったFT合成で狙った燃料を多く得ることが可能に
次に、合成ガスを燃料に転換し、ガソリン、軽油、ジェット燃料などを得る工程です。ここで用いられるFT(フィッシャー・トロプシュ)合成は古くからある触媒反応ですが、メタンからワックスまで幅広く生成してしまう反応でもあります。そこで望月は、目的とする液体合成燃料をできるだけ多く得るための触媒開発に取り組み、FT合成触媒に酸触媒を組み合わせたハイブリッド触媒を3年がかりで開発しました。
「私たち触媒研究者にとって、世界最高レベルの触媒性能を求めて開発をするのは当然のことです。しかし今回は、ベンチプラントで用いると触媒の性能が高すぎて目的とする生成物が多く得られない状況に直面したため、敢えて触媒の活性を少し落とす形でカスタマイズした経緯があります。ラボレベルで使う触媒の量は1ミリリットル程度ですが、ベンチプラントになると約2リットルと2000倍にもなります。そうなると得られる生成物が変わったり、副生成物が増えたりする問題が起き、反応条件の再検討や副生成物を抑える工夫が必要となりました。また、2リットルの量を流すにはある程度の空間が必要なため、ペレット化できるような触媒の調製手法も念頭に置いて開発しています」
燃料としての性能や環境価値を評価し社会実装するための道筋をつける
これらSOEC共電解装置とFT合成装置を組み合わせ、液体合成燃料を一貫製造するベンチプラントを構築。安全確保にも十分な対策を施し、連続運転を達成しました。2024年12月に発表すると報道、学会発表、講演依頼など大きな反響があり、半年以上経っても技術相談や見学依頼がひっきりなしに来ています。
製造された液体合成燃料の評価について、高木は「評価には2つあって、1つは燃料としての品質です。これはプロジェクトでのテーマの一つとして、JPEC(カーボンニュートラル燃料技術センター)はじめ他機関と連携しながら取り組んでいます。もう1つは、カーボンニュートラルに向けた環境価値に関する評価です。これは経済産業省主導で実施されている官民協議会でも議論されており、玄地と私が技術の専門家の立場で参加しています」と語ります。
また、将来的な液体合成燃料の導入について、玄地は次のように見ています。
「化石資源である原油などから燃料を製造するよりも、化学的に安定な二酸化炭素を燃料に変換する場合、多くのエネルギーが必要となります。カーボンニュートラルのために液体合成燃料を製造するのですから、化石燃料よりも二酸化炭素の排出が多くなっては意味がありません。そのために再生可能エネルギーなど二酸化炭素の排出の少ないエネルギーによる合成を行うこと、社会制度として二酸化炭素排出量の削減が担保されていることが重要です。社会制度としては、航空業界が2020年から二酸化炭素の総排出量を一定にする取り決めをするなど、一部の業界では取り組みが進みつつあります。また、液体合成燃料製造にはプラントが必要であり、製造技術ができあがっても、すぐ明日から提供することはできません。そのため私たちは、2050年に向けてバックキャストでロードマップを構築し、先回りして製造できる仕組みを研究開発しているところです」
CCUS実装研究センターのセンター長を兼務する玄地にとって、この技術を社会実装する道筋をつけるのがミッションです。それに向けて、コスト評価ツールやライフサイクルアセスメントなどをセットにしたトータルシステムとして提供しようと取り組んでいます。領域融合の研究体制が整い、企業をつなぐ立場に立てる産総研だからこそ、次世代燃料の分野でできることがたくさんあり、カーボンニュートラルに貢献することができます。
本記事は2025年9月発行の「産総研レポート2025」より転載しています。
エネルギー・環境領域
副領域長
研究戦略本部
CCUS実装研究センター
研究センター長
玄地 裕
GENCHI Yutaka
エネルギー・環境領域
エネルギー・環境領域研究企画室
研究企画室長
高木 英行
TAKAGI Hideyuki
研究戦略本部
CCUS実装研究センター
合成燃料製造・評価研究チーム
研究チーム長
望月 剛久
MOCHIZUKI Takehisa