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植物由来芳香族系高分子リグニンを白色・透明化する技術を開発

植物由来芳香族系高分子リグニンを白色・透明化する技術を開発

2026/03/06

植物由来芳香族系高分子リグニンを白色・透明化する技術を開発

研究者の写真
    KeyPoint 着色のために用途が限られていた植物資源リグニンを、白色・透明な高機能素材へ――化学プロセス研究部門 敷中一洋上級主任研究員は、リグニンの光吸収を分子間相互作用で抑制する「溶媒制御型カプセル化」技術を開発。これにより、リグニンを恒久的に白色化し、透明膜や耐熱性向上フィラーとして利用可能にしました。従来の「時間が経つと着色する」課題を解決し、樹脂複合材や接着材など幅広い産業応用に道を開きます。

    研究の背景:着色リグニンが抱える課題

     脱炭素社会の実現には、石油由来材料から植物資源への転換が不可欠です。リグニンは植物バイオマスに豊富に含まれる芳香族高分子で、再生可能資源由来の芳香族化学品として期待されています。しかし、現状では抽出されたリグニンの大半が燃料用途に回り、素材利用はほとんど進んでいません。その大きな理由は「濃い着色」です。わずか数%混ぜただけで樹脂や複合材が茶~黒色に着色し、意匠性を求める市場では使うことが難しい状況でした。また、従来の漂白や部分修飾では一時的に色を薄くできても、保存中に再び着色する課題がありました。

    得られた成果:恒久的な白色化を実現する新技術

     化学プロセス研究部門 敷中一洋上級主任研究員は、リグニンの分子間相互作用を制御し、光吸収そのものを抑えることで、恒久的な白色化・透明化を目指しました。開発したのは「溶媒制御型カプセル化(Solvent-Controlled Encapsulation, SCE)」という技術です。混合溶媒による反応場の極性調整を通じ、かさ高い置換基でリグニン分子を包み込み、光吸収を抑えました。その結果、リグニンは白色粉末化し、透明膜を形成可能となり、膜条件下で総光透過率91 %を確認しました。また、室内での保存試験で白色状態が2年以上維持され、従来技術の「時間が経つと再び着色する」問題を解消しました。この恒久的な白色化技術は、石油依存からバイオマス利用への転換を促し、リグニンの用途を大きく広げる可能性を秘めています。

    今後の展望:量産化と市場拡大へ

     次のステップは、耐候性向上などの高機能化とベンチスケールでの生産実証です。長期紫外光照射下での変性抑制や蛍光発光能を例とした新規機能付与を進め、各種素材用途で信頼性データを積み上げます。市場への波及効果も大きく、着色のために用途が限られていたリグニンが白色・透明の設計材に変わることで、樹脂複合材で数十万トン規模の新規需要が期待されます。並行して、製造工程の最適化や品質保証の標準化を進め、企業が短期間で導入できるパッケージ化を目指します。
     目指すのは、石油由来の“黒”から植物資源の“白”へ。意匠性と機能性を両立したバイオマス高機能材料で、日本発のサステナブル素材を世界市場へ届け、脱炭素と国際競争力強化の両立を実現します。


    受賞論文:Functional “permanently whitened” lignin synthesized via solvent-controlled encapsulation
    Kazuhiro Shikinaka and Yuichiro Otsuka
    Green Chemistry Vol. 24, No. 8, pp. 3243-3249, 2022
    https://doi.org/10.1039/d1gc04810d
    参考論文:Lignin Whitening and Deploying Lignin-based Functional Materials
    Kazuhiro Shikinaka 
    Lignin Vol. 6, pp. 11-19, 2025
    https://doi.org/10.62840/lignin.6.0_11

    化学プロセス研究部門
    高分子機能応用研究グループ
    上級主任研究員

    敷中 一洋

    Shikinaka Kazuhiro

    敷中 一洋上級主任研究員の写真
    産総研
    材料・化学領域
    化学プロセス研究部門

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