バイオエコノミーとは?
バイオエコノミーとは?

2026/01/14
バイオエコノミー
とは?
―自然資本と経済社会の深い関わり―
科学の目でみる、
社会が注目する本当の理由
バイオエコノミーとは?
バイオエコノミーとは、生物資源(バイオマス)やバイオテクノロジーを活用し、持続可能な循環型の経済発展を目指す政策のことです。2009年に経済協力開発機構(OECD)がその概念を提唱し、日本では政府が2019年にバイオエコノミー社会実現に向けた「バイオ戦略」を策定しました。さらに2024年には具体的な施策を盛り込んだ「バイオエコノミー戦略」へと改訂されています。2030年には、国内外で100兆円規模のバイオエコノミー関連市場の創出を目指しています。
石油・石炭などの石化資源※1から脱却した循環型社会を目指す「バイオエコノミー」が近年注目されています。日本政府は、資源循環と新産業創出、産業競争力強化の取り組みを推進。生物由来の素材を用いてものづくりを行う「バイオものづくり」などに約1兆円の予算を計上しています。産総研では2025年4月に「バイオものづくり研究センター」を設置し、バイオエコノミー社会実現に向けて研究開発を進めています。バイオエコノミーの現状と課題、具体的な取り組みについて、バイオものづくり研究センターの油谷幸代研究センター長に聞きました。
バイオエコノミーとは
生物資源やバイオテクノロジーを活用するバイオエコノミーは、再生可能資源への転換やカーボンリサイクルの形成、農業や林業の発展と新たな産業の創出など、持続可能な資源循環型社会の経済活動を可能にする概念です。気候変動や地球温暖化など、地球環境への危機感が増す中で、環境負荷を低減しながら経済成長を実現するための技術開発がますます重要になってきています。
バイオエコノミーの国内外の動向
環境先進国の欧州では、いち早くバイオエコノミーへの意識が醸成され、環境配慮型の製品などが高く評価されてきました。2023年、欧州は「欧州再生可能エネルギー指令」を改訂し、サーキュラーバイオエコノミー(循環型バイオエコノミー)の実現に向けて、バイオ資源の活用やリサイクル率の義務化などの具体的な規制を打ち出しています。米国でも2024年に国家バイオ戦略の下、国内にバイオ製造の基盤を整える方針を示しました。日本では国際競争力を高めるため、バイオエコノミー戦略を推進し、特に遺伝子技術を活用して微生物や植物から物質を生産する「バイオものづくり」に力を入れています。(産総研マガジン「バイオものづくりとは?」)
バイオエコノミーが広がる多様な分野と市場規模
農業、医療、エネルギー、化学産業など、バイオエコノミーは幅広い分野に及んでいます。国際市場は現時点で4~5兆米ドルとされ、バイオエコノミーが一般化した2050年には最大約30兆米ドル、世界経済のおよそ3分の1に達するとの試算もあります。
こうした成長が見込まれる一方で、日本も注力するバイオものづくり市場は、バイオ転換コストの高さから、多くの分野では国内外を問わず安定した産業としてはまだ確立していません。そのため、現状では高コストでも需要が見込める医薬品原料など、限られた分野での実用化にとどまっています。
最大の課題であるコスト低減に向けて、研究現場では微生物の探索や設計による生産効率の向上、原材料費やエネルギー消費を抑える取り組みが進められています。また、環境負荷の低いバイオ製品を選ぶ消費者意識の醸成や、バイオ製品の信頼度向上につながる評価制度の導入も、重要な解決策の一つになっています。
循環型バイオものづくりを支える新研究センターの挑戦
産総研は2025年4月、北海道とつくばを拠点とする「バイオものづくり研究センター」を新設しました。未利用資源の活用から物質生産、廃棄物処理、リサイクルまでを一貫して行う、循環型の研究開発拠点としての役割を果たしています。主な研究は、①微生物や植物を対象にしたものづくり技術、②コンピューターを活用した宿主デザインと情報解析、③廃水や廃棄物の処理、④未利用微生物の探索です。
例えば、植物にタンパク質や抗体などをつくらせる技術は、動物細胞に比べて副作用のリスクが低く、医薬品原料の生産に適しています。さらに、農業残渣(ざんさ)など従来は廃棄されてきた未利用資源を微生物の栄養源として利用したり、PET原料製造時の廃水を微生物の働きで効率的に処理する技術の開発も進めています。また、新しい微生物の探索において、産総研は世界でもトップクラスの実績と知見を持っており、これらをもとに新たなバイオものづくりへと発展させています。
宿主デザイン・情報解析では、DBTL(Design-Build-Test-Learn)サイクルを用いて、従来の計算機では扱いきれなかった数千規模の遺伝子情報を最新の量子計算機で解析し、設計精度を高めています。産総研は十分なデータを取得できる設備と解析能力を併せ持っており、この規模で運用できる唯一の研究機関としての強みを発揮しています。
バイオものづくり研究センターの概要
企業との連携で実現するバイオものづくりの実用化
産総研とナガセダイアグノスティックス株式会社(旧社名:旭化成ファーマ株式会社)との共同研究では、体外診断用医薬品の原料酵素であるコレステロールエステラーゼの生産効率を、スマートセル技術※2によって従来の微生物(野生株)の30倍以上に高め、製品化を実現しました(産総研マガジン「ナガセダイアグノスティックスと産総研がスマートセル技術の実用化に成功!」)。カネカ社と神戸大学との連携では、海水中でも分解しやすい循環型バイオプラスチックの性能向上に成功し、実用化を視野に入れて開発を進めています(産総研マガジン「環境循環プラスチックの誕生」)。また、コニカミノルタ株式会社と共同で設立したバイオプロセス技術連携研究ラボでは、生分解性プラスチックの一種であるポリヒドロキシ酪酸を効率的に生産する大腸菌を、高精度で検出できるシステムの開発に成功しました。(2025/04/23 コニカミノルタ株式会社プレスリリース※産総研外のウェブサイトにリンクします)
このような共同研究を通じて、各企業のバイオものづくりにまつわるさまざまなニーズや提案、困りごとなどに対して産総研の設備や解析力を活用し、技術が使えるかどうかを具体的に検討する取り組みを進めています。
産総研とナガセダイアグノスティックス株式会社の共同研究では、スマートセル技術で生産能の向上とCO2排出量の削減を実現(2021/02/25 プレスリリース)
バイオエコノミー社会の実現に向けて、産総研が果たす役割
バイオエコノミーは、地球温暖化や脱炭素の世界的な流れの中で、「第5次産業革命」と呼ばれるほどに今後の成長が見込まれる分野です。日本としても、CO2の削減や産業競争力の維持を目指すことはもちろん、各地域に眠る未利用資源を活用することで地域経済を活性化できる可能性があります。また、原料の海外依存を減らし、国内で安定的に供給できる体制づくりにもつながります。
ただし、現在はまだ過渡期のため、技術の進展だけでは十分ではありません。社会に受け入れてもらうための理解の醸成や、企業の優遇施策などの整備を同時に進めることが、持続可能な成長につながります。
産総研では、独自の最新技術や設備を産業界に利用してもらい、新たな製品や技術の創出を後押ししています。特にバイオものづくり分野は、採算の見通しが立ちにくく、企業にとって設備投資のハードルが高い場合もあります。そうしたときには、まず産総研の設備を使って試作や検討を行い、事業化の可能性を見極めてほしいと考えています。企業とともに歩みながら、これからのバイオエコノミー社会の発展に貢献していく考えです。
※1石化資源:石油、石炭、天然ガスなどの化石由来の資源を指す。主にエネルギー源や化学製品の原料として利用されている。[参照元へ戻る]
※2スマートセル技術:生物の細胞を人工的に改変し、酵素やタンパク質の生産能力を向上させることで、工業製品の素材や医薬品の原料を効率的に生産する技術。(産総研マガジン 「スマートセルとは?」)[参照元へ戻る]