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海洋地質図とは?

海洋地質図とは?

2026/01/07

#話題の〇〇を解説

海洋地質図

とは?

科学の目でみる、
社会が注目する本当の理由

  • #エネルギー・環境制約対応
  • #国土強靭化・防災
30秒で解説すると・・・

海洋地質図とは

海洋地質図とは、直接見ることのできない海底や、その下に広がる地層や堆積物を、物理探査や試料採取のデータに基づいて可視化した地図のことです。船から曳航したエアガンから発した音波の反射や、重力・磁気の異常を測定する物理探査、さらに海底から採取した堆積物や岩石の分析結果などを組み合わせることで、海底の地質構造、堆積物の分布を描き出します。産総研地質調査総合センター(GSJ)では、日本の基盤情報として「20万分の1海洋地質図」を整備しており、各区画に「海底地質図」と「表層堆積図」の2種類から構成されます。これらの地図は、資源やエネルギー探査、海洋構造物の敷設における海底地盤の評価や災害のポテンシャルの評価に不可欠な基盤情報となっています。

日本は四方を海に囲まれ、経済水域と延長大陸棚を含めると国土面積の約13倍の海域を有しています。この広大な海域を安全かつ持続的に利用・管理するためには、海底資源・エネルギー、海底地盤の安定性、海域の断層活動による地震や津波、さらにはマイクロプラスチックなどの汚染物質の拡散・堆積など、海域の地質と物質移動といった地質現象を正確に把握することが不可欠です。産総研では、日本で唯一の「地質の調査」に関するナショナルセンターである地質調査総合センター(GSJ)を中心に、日本周辺海域の地質情報の整備・利活用促進を推進しています。本記事では、海洋地質図にかかる取り組みについて取り上げた産総研マガジンの記事を紹介します。

Contents

海洋地質図とは?

海洋地質図のつくり方

 光も届かない海の底は目で直接みられないため、どんな地層が広がっているのか、どこに岩や砂があるのかは簡単にはわかりません。そこでつくられているのが「海洋地質図」です。海洋地質図は、海底の形や地層の重なり方、堆積物の分布などを、さまざまな観測データをもとに可視化した地図です。

 産総研では、日本周辺の海底の地質を調べて「海洋地質図」を作成しています。調査では、音波を使って海底や海底面下を調べます。例えば、水深1,500 mの海底面にぶつかって音波が戻ってくるには、約2秒かかります。海底や海底面下から戻ってくる時間と波の振幅を解析することで、海底面下の地層の重なり方を知ることができます。さらに、円筒ドレッジという装置で海底の岩石を実際に採取し、岩石のできた詳しい地質を調べています。このような調査によって海底の地質構造を示すことができる「海底地質図」を作ります。

円形ドレッジと研究者の写真
円筒ドレッジ。海底面をひっかいて岩石を集め、海底の地質を調べる。

 海底は海中を浮遊する粒子や浅海域から流れによって運ばれてきた粒子が堆積物としてたまる環境になっています。そのような現在の堆積物によって覆われている海底表層では、海底の地質が見えません。そこで、グラブ採泥器などを使って実際の堆積物をたくさん取ってきて海底に積もる堆積物の分布を示す「表層堆積図」を作っています。見えない海底を想像しながら、研究者は今日も船に乗り込み調査を続けています。(産総研マガジン「海洋地質図作成の現場」)

海から引き上げられるグラブ採泥器の写真
グラブ採泥器。ワイヤー1本で海底表層の堆積物を取得して表層堆積図を作成する。

海洋地質図の応用

 海洋地質図の応用範囲は広範です。海域利用の用途が広がるほど、海洋地質図の重要性は増してきます。この地質情報は、海域利用や防災・減災の基盤資料として重要な役割を果たします。例えば、洋上風力発電、海底ケーブル、海底トンネルなど、海底に構造物を敷設する際の判断を支えるために、海洋地質図は不可欠です。

 また、防災・地震対策の観点でも重要な役割を果たします。浅い海域や沿岸域では、海底下に断層や過去の地殻変動の痕跡が存在することがあります。こうした情報を海洋地質図で明らかにすることで、地震や津波のリスクを評価し、沿岸地域の安全対策やインフラのレジリエンス確保に役立てられます。近年は、海域だけでなく沿岸と陸域をまたぐシームレスな地質情報の整備が進み、地域は限られますが、海と陸のつながりを含めた地質の全体像を把握できるようになっています。これらの情報を元に、活断層の位置や形状だけではなく、活動の履歴をシームレスに検討することが重要なのです。

GSJで公開している海洋地質図。現在、95区画の海洋地質図を掲載している。

海洋地質図が切り開く未来の可能性

海洋地質図が活用される主な分野

1. 地震・津波に関する海域のリスク評価

 海底には活断層や地殻変動の痕跡が存在し、これらは地震や津波と深く関係します。海洋地質図を用いて地層のずれや構造的特徴を把握することで、海域のリスクを評価し、防災対策や沿岸地域の安全確保に活用できます。(産総研マガジン「陸と海から読み解く地質情報で地震対策を支える」)

 近年、GSJにおいては海域にとどまらず、人口の集中する沿岸から陸域まで連続した地質情報が整備を行っています。活断層の連続性、海岸侵食、地すべり、液状化など、海と陸の連動を考慮した広域リスク評価がしやすくなっています。能登半島地震でも港湾の大きな隆起が起こっていますが、港湾整備や海岸保全にも活用できます。

2. 海域利用創出のための基盤資料

 海洋地質図から海底の起伏や堆積物の厚さを知ることで、調査地点や調査方法を合理的に計画できます。海底地盤の安定性評価にも有効で、海域利用に不可欠な基礎データとなります。海洋地質図は、海域の地質を総合的に示す「海域の基盤情報」として整備され、海域利用の安全性や持続可能性を検討する共通の基板を提供し、研究・産業・行政など幅広い場面で参照されています。(2018/12/06プレスリリース

注目を集めている海洋地質図の活用方法

 海洋地質図のさらなる活用方法として近年、注目を集めているのは洋上風力発電や海底ケーブルなど海上インフラの適地選定です。洋上風力発電や海底ケーブル敷設、海上プラットフォームやそれを留めるための錨の設置など、海底に構造物を設置する際には、土台となる海底地盤の性質を事前に把握することが必要です。事前の調査不足により、施工段階で想定外の硬い地盤に遭遇すれば、工法の変更や位置の再検討など工期の遅延や多大な追加コストが発生しかねません。海洋地質図を活用することで、こうした『見えないリスク』を可視化し、海底の硬さや地層の重なり方、堆積物の種類を知ることで、安全かつ効率的に建設可能な場所を判断できます。また、断層などの情報も把握でき、海底崩壊の可能性の把握など数十年以上の持続的な構造物の維持にも貢献できます。GSJでは、洋上開発を加速させるカギとなり得る海洋地質図と研究者の知見を織り交ぜ、浮体式洋上風力や海底ケーブル開発に貢献しています。

 このように海洋地質図は、直接見ることのできない海底やその下の地質を可視化し、海域の特性を総合的に理解するための地図であり、幅広い分野で活用されています。こうして海底地盤や海底活断層の分布、現在の海底環境の把握することは、防災対策や沿岸地域の安全確保だけでなく、周辺海域の海域利用・開発を加速させ、豊かな社会づくりに貢献するものとして、今後ますます重要になっていくと考えています。

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