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光学顕微鏡の進化

光学顕微鏡の進化

2025/12/18

光学顕微鏡の進化 生命現象を定量解析

日刊工業新聞寄稿記事「技術で未来拓く」
    KeyPoint産総研では、将来の産業ニーズを見据えた目的基礎研究を通じて、革新的な技術シーズの創出に挑戦しています。
    こうした最先端の成果を、日刊工業新聞で連載しています。産総研マガジンでもご紹介していますので、ぜひご覧ください。
    ※本記事は、日刊工業新聞社の許諾を得て掲載しています。著作権は日刊工業新聞社に帰属します。

    「見る」→「測る」

    光学顕微鏡は17世紀に誕生して以来、微生物や細胞の観察に欠かせない道具として発展してきた。だが、近年その役割は「見る」から「測る」へと広がりつつある。特に再生医療やバイオテクノロジーの分野では、生きた細胞やエクソソームのような微粒子の機能の評価は、従来の光学顕微鏡だけでは難しい。そこで、細胞やその内部構造の大きさ、形態などを数値化することにより、性質や分化状態を定量解析して、客観的に評価できる新しい顕微鏡が求められている。そうなれば、治療などに使う細胞の品質を正確に判断できるようになる。

    妥当性を追求

     蛍光顕微鏡や超解像顕微鏡など、光学顕微鏡を基盤とした測定法が広がりを見せている。それと共に、得られた画像をデータベース化し、AI(人工知能)などでビッグデータ解析を行う取り組みも進んでいる。一方、測定法とデータの「精度管理」や「信頼性」の確保が、産業利用の観点からは欠かせない。

     産業技術総合研究所(産総研)は、共焦点蛍光顕微鏡によるリボ核酸(RNA)の1分子定量法において、自らが開発した認証標準物質を用いて、測定値の妥当性を保証する技術を確立した。これにより、顕微鏡による測定結果の分析化学的な検証が可能となった。この技術は、基準物質の測定により、使用する顕微鏡を校正するため、異なる顕微鏡で得られたデータや他の日に得られたデータについて、相互比較と互換性を容易にする。現在、1分子定量法のみならず、顕微鏡による測定全般に展開が可能な精度管理の技術を開発している。

    標準物質を利用した蛍光顕微鏡の概要図

    標準化の重要性

     国際標準化機構(ISO)のバイオテクノロジー専門委員会TC 276では、標準光源を使った発光強度の測定データの比較およびデータ互換性の向上、ならびに光学顕微鏡画像を用いた細胞形態の定量解析に関する国際規格づくりが進められてきた。近年は3次元の対象物の顕微鏡画像についても、医療分野だけでなく産業分野でも定量解析技術の重要性が増している。そのため、撮像および解析に関する国際的に共通する規格の策定が望まれている。

     こうした議論と技術開発によって、光学顕微鏡は単なる「見る」装置から精密な「測る」機器へと進化している。光学顕微鏡を用いた「生命現象の定量」が、産業や医療に広く応用されることを期待している。

    モレキュラーバイオシステム研究部門
    バイオアナリティカル研究グループ
    研究グループ長

    佐々木 章

    SASAKI Akira

    佐々木 章研究グループ長

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