変革につながるアイデアは、きっと研究の最前線にある。日本最大級の公的研究機関・産総研の公式ウェブマガジン。

新材料、AIで見付けるだけでは不十分

新材料、AIで見付けるだけでは不十分

2025/12/01

新材料、AIで見付けるだけでは不十分 社会実装へ生産実現カギ

日刊工業新聞寄稿記事「講壇」

    産総研理事長 石村和彦による日刊工業新聞「講壇」への寄稿コラムです。産総研の経営方針やそれを受けた具体的なアクション、自身の経験やマネジメント論、社会・技術動向への考えなど、石村の視点から複数のトピックを取り上げています。
    ※記事の版権は日刊工業新聞社にあり、許諾を得て掲載しています。

    2025年ノーベル賞は量子と材料技術の可能性を示した。産業技術総合研究所は今後もアカデミアと協調して、日本の強みである材料分野の研究成果を社会実装し、世界に挑戦し続ける。

    25年のノーベル物理学賞は、ジョン・クラーク氏、ミシェル・デヴォレ氏、ジョン・マーティニス氏の3氏が受賞した。電気回路における量子トンネル現象とエネルギー量子化の制御を実証し、量子を工学的に扱う新しい可能性を切り開いたことが評価されたという。
    彼らの成果は、量子コンピューターや量子センシングなど、次世代の中核技術の礎となっている。

    ノーベル化学賞を受賞したのは、北川進氏、オマー・ヤギー氏、リチャード・ロブソン氏の3氏だった。構造設計が可能な金属有機構造体(MOF)は、脱炭素分野に新しい解決手段をもたらす可能性を秘めている。

    実は、物理学賞を受賞したマーティニス氏は現在、産総研の量子・AI(人工知能)融合技術ビジネス開発グローバル研究センター(G-QuAT)のアドバイザーを務めていただいている。北川氏も、かつて産総研のMOF関連の研究に顧問として参画いただいていた。

    花束を受け取る男性の写真
    花束を受け取る京大の北川特別教授(前列右、10月9日)

    ゆかりのあるお二人が同時に受賞したことは、理事長としてとても喜ばしい。また、産総研の応用研究・社会実装研究と、アカデミアにおけるノーベル賞級の基礎研究がお互いの強みを生かして協調することが重要だとあらためて考えた。

    特に北川氏の受賞は、日本がまだ競争力を保っている化学産業に希望をもたらすものだ。
    近年、材料の設計にAIなど情報学の知見を活用するMI(マテリアルズ・インフォマティクス)が盛んである。これは、蓄積されたデータを基に、新たな材料の探索や開発を加速させる強力なツールだ。ツールとなるAIの開発を進めることは国際競争のために不可欠で、産総研としても力を入れているところだ。

    ただ、筆者はそれだけでは日本は勝てないと考える。最終的に価値を生むのは「モノ」であることに注目したい。つまり、AIなどのツールを活用し結果として生まれる新材料の生産や新材料を利用した製品などのフィジカルなアウトプットが重要である。

    MIによるデータ上での材料探索だけでなく、PI(プロセス・インフォマティクス)も用いることで実際の生産工程へ接続することが、真に社会に普及するかどうかの勝敗を分けると考えている。

    25年のノーベル化学賞の栄誉は、かつて日本が得意としていた「材料で世界をリードする」という道を再び照らした。この機会をうまく捉えて、AIをデータ処理ツールとして活用するだけでなく、実際の生産プロセスにつなげることができるかどうかが、化学業界のみならず日本全体の技術の真価が試される正念場であろう。

    今回は北川氏のみならず、医学・生理学賞でも坂口志文氏が受賞した。日本の科学技術が世界最高水準にあることを示した意義のある受賞である。産総研は今後もアカデミアの最先端の知と連携しながら、技術の社会実装を推進し、社会課題の解決や日本の産業競争力強化に貢献していく。

    理事長 兼 最高執行責任者

    石村 和彦

    ISHIMURA Kazuhiko

    石村和彦理事長の写真

    この記事へのリアクション

    •  

    •  

    •  

    この記事をシェア

    • Xでシェア
    • facebookでシェア
    • LINEでシェア

    掲載記事・産総研との連携・紹介技術・研究成果などにご興味をお持ちの方へ

    産総研マガジンでご紹介している事例や成果、トピックスは、産総研で行われている研究や連携成果の一部です。
    掲載記事に関するお問い合わせのほか、産総研の研究内容・技術サポート・連携・コラボレーションなどに興味をお持ちの方は、
    お問い合わせフォームよりお気軽にご連絡ください。

    国立研究開発法人産業技術総合研究所

    Copyright © National Institute of Advanced Industrial Science and Technology (AIST)
    (Japan Corporate Number 7010005005425). All rights reserved.