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機械刺激でイオン排出

機械刺激でイオン排出

2025/11/27

 

機械刺激でイオン排出 がん転移・侵潤性を左右

日刊工業新聞寄稿記事「技術で未来拓く」
    KeyPoint産総研では、将来の産業ニーズを見据えた目的基礎研究を通じて、革新的な技術シーズの創出に挑戦しています。
    こうした最先端の成果を、日刊工業新聞で連載しています。産総研マガジンでもご紹介していますので、ぜひご覧ください。
    ※本記事は、日刊工業新聞社の許諾を得て掲載しています。著作権は日刊工業新聞社に帰属します。

    病変進行のカギ

     がんは、周囲の正常な組織を破壊しながら広がる「浸潤」や、原発巣から離れた組織や臓器に移動して新たな病巣を形成する「転移」によって、病変が拡大・進行する悪性疾患である。浸潤・転移の過程で、がん細胞は変形しながら間隙を遊走し、その際に機械的刺激を受ける。細胞にはこのような機械的刺激を生体信号に変換する機械刺激受容体(メカノセンサー)が存在し、とくに細胞膜の伸展により活性化して細胞内外のイオンの透過を制御する「機械刺激受容イオンチャネル」が、がんの転移や浸潤性を左右する分子として注目される。

    「CLIC1」

     産業技術総合研究所(産総研)では、転移性の高いがん細胞で発現が上昇する塩化物イオンチャネル「CLIC1」に着目し、その機能を解析している。細胞膜上のCLIC1は細胞容積の調節にも関与する。細胞は低浸透圧刺激で膨張すると、破裂を防ぐためにカリウムイオンや塩化物イオンを排出し、水分子の流出を促して体積を戻す。この機構が転移過程でがん細胞が受ける機械刺激によって誘発され、CLIC1の作用によりイオンと水分子が排出されることで細胞体積が減少し、間隙を通過しやすくなって浸潤が促進されると考えた。

     産総研では、原子間力顕微鏡とフラットチップカンチレバーを用い、CLIC1高発現かつ高転移性の乳がん細胞に外力を加えた際の塩化物イオン排出を測定した。塩化物イオンと結合すると消光する蛍光分子を細胞に導入して観察すると、外力印加直後に細胞内の蛍光強度が上昇した。外力でイオンが排出されることから、CLIC1は機械刺激受容チャネルとして機能することが示された。

    細胞圧入時の塩化物イオン排出能評価の図

    判別にも応用

     さらに、CLIC1低発現かつ転移性の低い乳がん細胞では、外力印加時の塩化物イオン排出能が低く、CLIC1による塩化物イオン排出とがん浸潤性の相関が確認された。外力印加によるイオン排出量の測定は、がん細胞の検出や悪性度評価にも応用できる。産総研は、細胞が排出したイオンを簡便かつ高感度に測定できる新規デバイスも開発中で、がん判別技術への展開を目指している。この新規デバイスは、CLIC1を標的とした薬剤のスクリーニングや創薬支援技術への応用も期待できる。

    細胞分子工学研究部門
    AIST-INDIA機能性資源連携研究室
    主任研究員

    山岸 彩奈

    YAMAGISHI Ayana

    山岸 彩奈主任研究員

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