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部下のやる気を引き出すには

部下のやる気を引き出すには

2025/09/08

部下のやる気を引き出すには 関心持つこと、信頼の原点

日刊工業新聞寄稿記事「講壇」

    産総研理事長 石村和彦による日刊工業新聞「講壇」への寄稿コラムです。産総研の経営方針やそれを受けた具体的なアクション、自身の経験やマネジメント論、社会・技術動向への考えなど、石村の視点から複数のトピックを取り上げています。
    ※記事の版権は日刊工業新聞社にあり、許諾を得て掲載しています。

    経営者として歩む中で、マネジメントの本質は「部下に関心を持つ」ことだと見いだした。対話を重ね、目標を共有し、努力を認めることで信頼関係が生まれる。信頼関係を築くことこそが組織を動かし、やる気を引き出す原点だ。

    私が社員との「1on1ミーティング」を始めた頃、この言葉はまだ一般的ではなかった。今でこそマネジメント理論でよく推奨されるが、当時の私にとっては、必要に迫られ、経験から編み出したものだった。

    きっかけはAGC勤務時代、46歳で山形県米沢市の子会社の社長に就任した時だ。それまで私は生産技術の現場で長く過ごしてきた。現場では誰よりも業務内容に詳しい自負があり、「俺についてこい」がマネジメントスタイルだった。

    だが米沢で初めて経営者となり痛感したのは、「自分の知っていることは組織運営全体の中ではほんの一部に過ぎない」ということだった。社長として何をすべきか考えるために、まずは部長や課長に直接話を聞いて回った。すると、自分一人の知見やトップダウンでは会社は到底回らず、マネジメントスタイルを大きく変える必要があるという現実が見えてきた。

    その頃、「エンパワメント」という言葉を知った。部下と上司が目標を共有し、達成に必要な資源(人・金・モノ)を明示し、期限を区切って評価する。人からやる気を引き出すにはその繰り返しが大事だという。実際に経営を担ってみると、これがどれほど重要かを思い知らされた。

    講話をする男性
    子会社社長時代に自分のスタイルを確立した(写真右奥が石村和彦理事長)

    目標を設定したら、進捗を確認しなければならない。そこで自然と、定期的に部下と話す場、1on1ミーティングを始めた。ミーティングを繰り返す中で「人は自分に甘い」ということが分かってきた。

    自己評価が過剰だったり、失敗への言い訳が多かったりする。ただ、「甘い」と頭ごなしに指摘しても改善は望めない。日々のやりとりの記録から、どこに改善要素があるのかを証拠に基づいて説明すれば、彼らの甘さを指摘しても人間関係が悪化することはなかった。
    また、評価して待遇を上げるだけでは、社員の本当のモチベーション向上にはつながらない。一番うれしいのは「自身の価値が認められること」である。そこで、高評価を受けた社員の家族に感謝の手紙を送るようにしたところ、多くの家族が喜んでくれた。家族からも認められることで社員のモチベーションも上がる。この取り組みは、今も続けている。
    上司にとって重要なことは、部下に関心を持つことだ。褒めることや叱ることは本質ではない。私は子会社の経営方針を説明した後は社員から感想を提出してもらい、必ずコメントを返した。社長からのフィードバックを予想していなかった社員は、自分を見てくれていると感じ、本気になる。

    最も避けるべきは、無関心であることだ。普段は知らん顔で、何か起こった時だけ口を出すようでは、人や組織は動かない。関心を持つことで部下と上司の間に信頼関係が生まれる。

    振り返ると、私が直感的に実践してきた1on1ミーティングや評価を工夫することは、結果的に今のエンゲージメント論に合致していたように思う。成長の機会を示し、目標を共有し、関心を寄せる。その積み重ねが人のやる気と組織の力を引き出すのではないだろうか。部下と向き合い、関心を持ち続けて接することは、いつの時代でも変わらない大切なことだ。

    理事長 兼 最高執行責任者

    石村 和彦

    ISHIMURA Kazuhiko

    石村和彦理事長の写真

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