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製品単体の差別化に警鐘

製品単体の差別化に警鐘

2025/06/23

製品単体の差別化に警鐘 「生産システム」こそ競争力

日刊工業新聞寄稿記事「講壇」

    産総研理事長 石村和彦による日刊工業新聞「講壇」への寄稿コラムです。産総研の経営方針やそれを受けた具体的なアクション、自身の経験やマネジメント論、社会・技術動向への考えなど、石村の視点から複数のトピックを取り上げています。
    ※記事の版権は日刊工業新聞社にあり、許諾を得て掲載しています。

    企業の競争力は差別化にあり、特に模倣困難な生産システムの差別化が有効である。製品単体の差別化は限界があり、プロセス・設備技術を含めた生産システム全体の秘匿化が持続的競争力につながる。アウトソーシング(外部委託)への依存はその妨げとなる。

    企業の競争力の源泉は他社との差別化にある。私は過去の著作『差別化戦略のための生産システム』で、差別化を「強い製品」「先行製品」「圧倒的な生産能力」「ニッチ製品」「生産物+サービス」「差別化された生産システム」の6類型にまとめた。しかし、これらの差別化による優越は確たるものではなく、常に競合に追い抜かれる危機感を持っておく必要がある。

    その中で、「差別化された生産システム」は他社の追随が難しく、差別化の持続性の点で優れる。製品そのものが差別化のポイントとなる場合、他社はそれを入手して分析することで、同じものにたどり着いてしまう恐れがある。しかし生産システム自体が差別化されていれば、製品構造が明らかになっても、他社はそれを再現できず、市場に投入できない。
    例えば村田製作所は、積層セラミックコンデンサー(MLCC)で世界シェア1位を占めているが、この生産プロセスは完全に秘匿されている。私が社長・会長を務めたAGCでも、製品製造ラインをブラックボックス化し、他社による模倣を防いできた。さらに、重要なのは生産技術だけでなく、設備技術そのものをブラックボックス化することである。

    1.強い製品、2.先行製品、3.圧倒的な生産能力、4.ニッチ製品、5.生産物+サービス、6.差別化された生産システム
    競争力の源となる差別化された生産システム

    私はプロセス技術と設備技術を、「生産システム」という一体で考え、そこに競争力の源泉を見いだした。AGCではかつて、設備技術者をアウトソースすればいいという考え、「設備部門不要論」が流行したことがあった。設備部門が必要なのは工場の立ち上げ時だけで、生産が始まったら不要である、という発想だった。これは生産システムでの差別化の可能性を自ら放棄する愚策といえよう。

    AGCで生産設備の開発担当者を担っていたころ、他社から設備を買うか、自社で製造するかの判断に迫られた。社内での議論の後、他社に委ねるのではなく自社開発を選んだ。これが結果的に奏功し、これによって独自の生産システムによる差別化の必要性を社内でも理解されるようになった。

    製造設備はアウトソースで良いという考え方が企業の危機を招いた例を紹介したい。競合に比べ優位性を持つ製品を製造するA社と、そこに製造設備を納めるB社があった。2社は当初、B社は設備を他社に販売しない条件で共同開発を進めていたが、A社はその装置の値下げを要求し、代償として製造設備が他社にも供給されるようになった。すると、他国メーカーが生産技術を獲得して急成長し、A社の優位性は失われてしまった。A社は製品に強い自信を持っていたが、その製造設備を自社で抱えず外部に依存したことで、差別化の持続性を失った。製品の競争力があっても、生産システムの競争力がなければ、優位性は維持できない。

    AGCの経営を退き、経済同友会の幹部や産業技術総合研究所の理事長も経験する中で、さまざまな製造業や生産技術に触れてきたが、この考えは変わらないばかりか、むしろ深まっている。日本の製造業が自らの中に差別化した生産システムを持つことが、日本全体の産業競争力向上につながるだろう。

    理事長 兼 最高執行責任者

    石村 和彦

    ISHIMURA Kazuhiko

    石村和彦理事長の写真

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