変革につながるアイデアは、きっと研究の最前線にある。日本最大級の公的研究機関・産総研の公式ウェブマガジン。

細胞糖鎖解析の新技術

細胞糖鎖解析の新技術

2025/06/05

細胞糖鎖解析の新技術 再生医療の安全性向上

日刊工業新聞寄稿記事「技術で未来拓く」
    KeyPoint産総研では、将来の産業ニーズを見据えた目的基礎研究を通じて、革新的な技術シーズの創出に挑戦しています。
    こうした最先端の成果を、日刊工業新聞で連載しています。産総研マガジンでもご紹介していますので、ぜひご覧ください。
    ※本記事は、日刊工業新聞社の許諾を得て掲載しています。著作権は日刊工業新聞社に帰属します。

    移植時混入防ぐ

     再生医療では、あらゆる細胞の元となる人工多能性幹細胞(iPS細胞)や間葉系幹細胞などから治療用細胞を製造し、患者にそれを移植する細胞治療の開発が進んでいる。しかし、治療用細胞の製造において意図しない造腫瘍性細胞の混入がわずかでもあれば、移植後に腫瘍を形成する恐れがある。混入細胞を精度よく検出して治療用細胞の品質を管理する技術が、細胞治療の安全性の確保には必要である。

     細胞表面を覆う糖鎖は、細胞の検出に用いられる生体物質である。単糖が鎖状に連なった物質であり、ヒトでは10種類程度の単糖がさまざまに組みあわされている。糖鎖の構成は細胞の状態に応じて変化するため、糖鎖は細胞の種類やがん化、炎症などを判別する目印(マーカー)として用いられている。その場合、細胞の種類や状態と糖鎖情報とを紐づける必要がある。

    レクチンに着目

     細胞の糖鎖解析には多くの手法が存在する。従来法では、解析に100~10万個程度の細胞が必要であり、治療用細胞に混入する微量の細胞の糖鎖情報を取得することは困難だった。この問題を解決するため、産総研は新技術scGR-seqを開発した。これは、遺伝子発現と糖鎖情報を細胞一つひとつに対して解析できる。特定の糖鎖構造に結合するタンパク質は、レクチンと総称されている。

     本法では、レクチンであるタンパク質30種類ほどをDNAバーコードで標識し、細胞の糖鎖と反応させて糖鎖を検出する。糖鎖やレクチン自体は増幅できない。しかし、DNAバーコードは容易に増幅できるため、単一細胞に結合したレクチンをDNAバーコードにより検出が可能である。また、RNAも同時に増幅、測定することで遺伝子発現の情報も取得できる。これにより、細胞の種類や状態および糖鎖の情報の取得が可能となり、混入細胞に特徴的な糖鎖マーカーを簡便に探索できる。

    1つの細胞の糖鎖とRNAシークエンシング法

    機能制御にも

     本技術により、iPS細胞から製造した種々の治療用細胞や間葉系幹細胞の糖鎖マーカー探索を実施している。糖鎖はマーカーになるだけでなく、細胞の機能にも重要な役割を果たしている。本技術で発見した糖鎖マーカーについて、機能を明らかにすることで、糖鎖を基軸とした細胞機能の制御法の開発が期待できる。

    細胞分子工学研究部門
    多細胞システム制御研究グループ
    主任研究員

    小高 陽樹

    ODAKA Haruki

    小高 陽樹主任研究員の写真

    この記事へのリアクション

    •  

    •  

    •  

    この記事をシェア

    • Xでシェア
    • facebookでシェア
    • LINEでシェア

    掲載記事・産総研との連携・紹介技術・研究成果などにご興味をお持ちの方へ

    産総研マガジンでご紹介している事例や成果、トピックスは、産総研で行われている研究や連携成果の一部です。
    掲載記事に関するお問い合わせのほか、産総研の研究内容・技術サポート・連携・コラボレーションなどに興味をお持ちの方は、
    お問い合わせフォームよりお気軽にご連絡ください。

    国立研究開発法人産業技術総合研究所

    Copyright © National Institute of Advanced Industrial Science and Technology (AIST)
    (Japan Corporate Number 7010005005425). All rights reserved.