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アンモニア燃料 社会導入

アンモニア燃料 社会導入

2025/04/17

アンモニア燃料 社会導入 窒素循環 健全性に責任

日刊工業新聞寄稿記事「技術で未来拓く」
    KeyPoint産総研では、将来の産業ニーズを見据えた目的基礎研究を通じて、革新的な技術シーズの創出に挑戦しています。
    こうした最先端の成果を、日刊工業新聞で連載しています。産総研マガジンでもご紹介していますので、ぜひご覧ください。
    ※本記事は、日刊工業新聞社の許諾を得て掲載しています。著作権は日刊工業新聞社に帰属します。

    CO2フリー

     アンモニア(NH3)は、燃焼時にCO2を排出しない「CO2フリー燃料」として、石炭火力発電所での混焼や船舶燃料に転用可能である。特に、再生可能エネルギーで水を電解して得た水素を用いた「グリーンNH3」は、エネルギー供給の低炭素化に貢献すると期待されている。一方、ハーバー・ボッシュ法の発明以来、NH3は一世紀以上にわたり肥料や化学原料として広く利用されてきたため、窒素循環に大きな影響を与え、「地球の限界」を脅かす要因となった。産総研は、NH3燃料の技術開発と環境影響評価を並行して研究を進めてきた。本稿では、NH3燃料の社会導入に伴う環境リスクと持続可能な利用に向けた課題を紹介する。

    対処療法に限界

     アンモニア燃料の導入は窒素循環に影響を与え、環境汚染や健康影響、生物多様性損失など複数の対抗リスクが連鎖的に生じる懸念がある。そのため、目標リスクへの対症療法的な対応であった従来の技術政策には限界がある。産総研は、こうしたリスクトレードオフの構造を可視化する評価研究を行ってきた。例えば、関東地域の火力発電所におけるNH₃混焼率20%のシナリオでは、大気中のNOX・NH3・SO2の排出量の増減に伴うPM2.5濃度の変化、その変化に伴う健康リスクや社会コストを定量的に評価した。また、大気中のNOX・NH3・SO2の濃度比率や気象条件を考慮し、PM2.5削減対策や発電所立地の評価を行った。さらに、将来のNH3燃料導入を見据え、全国河川のNH3濃度解析や水質環境基準設定、窒素沈着量の増加と森林樹種の消失との関係を調査してきた。

    窒素循環の視点からのリスクトレードオフの考え方、環境健康への影響や窒素循環のかく乱、アンモニア燃料の社会導入など

    持続可能な利用

     アンモニア燃料は脱炭素化の「切り札」となり得るが、その導入には窒素循環の健全性との両立が前提となる。このため、ハーバー・ボッシュ法の代替技術開発、環境排出を最小限に抑える低環境負荷化技術、環境排出後の資源化や無害化技術の促進が求められる。また、窒素循環やリスクトレードオフの視点からの技術政策評価も不可欠である。社会は、技術開発や基準策定、政策連携を一体的に進め、環境リスクを最小化しつつ持続可能な利用を図るべきである。人類は「窒素の恩恵」を享受するだけでなく、その循環に責任を持つ時代に入ったのである。

    安全科学研究部門
    リスク数理解析研究グループ
    上級主任研究員

    林 彬勒

    LIN Bin-Le

    林 彬勒(りん ひんろく)上級主任研究員

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