メタマテリアルとは?
2024/09/18
メタマテリアル
とは?
―次世代通信やセンシングで進む実用化―
科学の目でみる、
社会が注目する本当の理由
メタマテリアルとは?
物質や材料を意味する"マテリアル"に、“超越した”を意味するギリシャ語の“メタ”の付いたメタマテリアル。「自然界にある物質を超える機能を示す物質」のことです。この言葉が使われるようになった2000年ごろには、構造を工夫することで入射してくる光に対してこれまでにない操作ができる物質を意味していました。現在ではその定義は拡張され、可視光を含む電磁波だけでなく、音波や地震波などの波動現象に影響を与える物質も含まれるようになっています。さらに最近では、センシングや次世代通信用途で実用化が進んでいます。
メタマテリアルは、「負の屈折率」を示す物質や「透明マントができる夢の光技術」として名前を知られるようになりました。現在では、ディスプレイやレンズ、センサーやアンテナへの応用が始まっています。「構造をデザインすることで、機能をデザイン」できるメタマテリアルには、操りたい現象や実現したい機能に合わせた高度な設計・製造・評価技術が求められます。その技術が進展し、さまざまな可能性の広がっている今、メタマテリアルへの注目が再び大きくなってきました。メタマテリアルへの期待と現状を製造技術研究部門 機能表面研究グループ穂苅遼平主任研究員に聞きました。
メタマテリアルとは何か
「メタマテリアル」は「自然界にある物質を超える機能を示す物質」です。こういう構造でこういう機能が得られるものという明確な定義は現在ありませんが、共通の認識はあります。例えば「光のメタマテリアル」ならば、光に影響を与えて自然界にない機能を発揮する物質のことを指し、具体的には普通では曲がらない方向に光を曲げる「負の屈折率」を示す物質などが存在します。
メタマテリアルの最初は、ヴィクトル・ヴェセラゴが、「負の屈折率を作り出したら何が起こるか」について論文発表したことだとされています。2000年以降になって、ジョン・ペンドリーらが負の屈折率による完全レンズを提唱。デイヴィッド・R・スミスらは、可視光領域よりも波長の長いマイクロ波領域で負の屈折率物質を実現し、その後「マイクロ波領域での透明マント」を実現させました。そのインパクトは非常に大きく、世界中でメタマテリアルのブームが起こりました。
現在では、可視光やマイクロ波などの電磁波に対する光学的機能を発揮する物質だけでなく、音波や地震波などの波動現象に影響を与える物質もメタマテリアルと呼ばれるようになってきました。そして今、再びブームが訪れているのは、こうしたメタマテリアルが実用化のフェーズに入ったからです。
メタマテリアルを実現する高度な製造技術
メタマテリアルはどうして、自然界にはない現象を起こせるのでしょうか? メタマテリアルでは、基本的に成膜する材料の選択とそれを形作る微細加工技術によりさまざまな構造を作り込みます。
例えば、メタマテリアルとして代表的な「スプリットリング共振器」は、基板の上に金や銀を使って「C」の字のような構造を作る微細加工を施すことによって機能を得ています。この微細な「C」の字の構造は、入射する光の波長より小さく作られているので、実効的には均質な媒質として振る舞うことがポイントです。例えば可視光用の「スプリットリング共振器」を作るためには、その構造のサイズを200ナノメートル以下程度に小さくしなければなりません。このような構造を作るのが非常に難しく、可視光に対して負の屈折率を示す物質の実現に時間がかかりましたが、微細加工技術が得意な研究グループが研究開発に多く参入してきたことで、可視光のメタマテリアル研究も加速しました。
このように「構造をデザインすることで、機能をデザイン」できるメタマテリアルでは、操りたい現象や実現したい機能によって、構造の形やサイズを緻密に作り分ける必要があり、そのための高度な設計技術や評価技術、さらに下の図に示すような製造技術が求められます。
次世代通信やセンシングで進むメタマテリアルの実用化
日本では2020年に第5世代移動通信システム(5G)の運用が開始されました。現在開発の進む次世代6G通信では、さらなる高速大容量化が進められ、それに伴って通信用の電磁波の周波数が高くなり100 GHzを超えることが想定されています。そこで問題となっているのが、高周波の電磁波は波長が短いため「回り込み」が少なく、ビルなどの障害物に阻まれ通信可能エリアが制限されてしまうことです。この課題を解決するため産総研では、ビルの窓などに配置することで電磁波を反射して通信エリアを拡大させることのできる「140 GHz帯メタサーフェス反射板」を開発しました。(2021/11/26 プレスリリース)
また、新しい機能を持つメタマテリアルの開発だけでなく、製品化を見据えた製造工程の課題解決も重要です。「ワイヤーグリッド偏光素子」と呼ばれる、ある方向の電場だけを取り出す素子はすでにディスプレーやセンサーなどに搭載されている部品ですが、これもある種のメタマテリアルと言えます。産総研では、製品化された際の製造コストを考えて製造方法を検討し、従来のワイヤーグリッド偏光素子のナノ構造の概念を打破した三角波状ナノ構造のワイヤーグリッド偏光素子を開発しました。(2022/12/01プレスリリース)
さらに、新規材料や製造工程に関する研究開発だけでなく、メタマテリアルの使い方から新たな活用先を広げたいと考えています。VR(Virtual Reality、仮想現実)やAR(Augmented Reality、拡張現実)のゴーグルやレンズなどへ、メタマテリアルがどう活用できるかを、光学製品のアプリケーションを開発しているメーカーの方々と連携したいと思っています。アプリケーションの観点をよく知る企業のみなさんと、メタマテリアルを設計・評価、そして製造工程の観点からよく知る私たちならではのアイデアで新しい展開を生み出せるのではないでしょうか。(産総研マガジン「XRを支える基盤技術」、「サイバネティック・アバターとは?」)
技術の進展で可能性の広がるメタマテリアル
メタマテリアルの開発では、これまでユニークなその物理現象に関する研究が積み重ねられてきましたが、製品の実用化は進んでいませんでした。しかし近年、微細加工技術などの進展により、可視光~近赤外領域の電磁波のメタサーフェス(2次元状のメタマテリアル)の一部が実用化され、メタマテリアルへの注目が再び高まってきました。通信用途のほか、メタサーフェスが実装された距離測定用センサーの販売が始まっています。また、メタマテリアルでスマホのカメラレンズのでっぱりをなくそうという開発も進んでいます。イメージした通りの機能を実現するメタマテリアルを開発する中で、思いもよらない新しい機能を持ったものが生まれることもあります。
今回紹介した内容はメタマテリアルのごく一部です。さまざまな物理現象に基づいたさまざまなメタマテリアルの研究開発が進められており、またそれを実現する製造技術の開発も重要です。世界中で進む研究開発で広がるメタマテリアルの可能性に注目し、新しい応用先を広げるべく研究開発を続けます。ご関心のある方はぜひお問合せください。