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発表・掲載日:2021/11/26

自然にはない反射特性を示す140 GHz帯メタサーフェス反射板を開発

-基地局の増設なしにポスト5G/6G無線通信のエリア拡大を可能に-

ポイント

  • ポスト5G/6Gで利用予定の140 GHz帯で反射方向を自在に設定できる反射板を世界で初めて開発
  • 高精度なミリ波帯材料計測に基づく最適化設計により最大88%の高効率の反射を実証
  • 障害物を迂回して基地局と端末を中継し、ポスト5G/6G無線通信のエリア拡大への貢献に期待

概要

国立研究開発法人 産業技術総合研究所(以下「産総研」という)物理計測標準研究部門電磁気計測研究グループ 加藤 悠人 主任研究員は、国立大学法人 大阪大学大学院基礎工学研究科(以下「大阪大学」という)システム創成専攻 真田 篤志 教授と共同で、次世代のポスト5G/6Gで利用が想定される140 GHz帯において、電磁波を設定した特定方向に高効率で反射するメタサーフェス反射板を世界で初めて開発した。

近年、移動通信の高周波化が進んでおり、ポスト5G/6Gでは100 GHz超の周波数のミリ波が利用される。ミリ波通信では障害物の遮蔽効果による通信エリアの制限が課題となる中で、高効率な反射を特定の方向に設定できるメタサーフェス反射板を用いた通信エリアの拡大が注目を集めている。しかし、100 GHz超のミリ波帯において、高効率設計に必須な材料パラメータを高精度に計測することが困難であったため、メタサーフェス反射板の開発・実証例はこれまでなかった。今回、ポスト5G/6Gで利用予定の140 GHz帯において、高精度なミリ波帯材料特性計測結果に基づいて最適化設計を行い、特定方向以外の不要反射がほぼ完全に抑えられた高効率のメタサーフェス反射板を開発した。材料由来の効率の低下を除いた反射効率は理論的に99 %以上に達し、実用上不可避の材料損失を含めた実測値も最大88 %と高効率動作を実証した。140 GHz帯における高効率なメタサーフェス反射板の開発・実証は世界初である。今回開発した技術により、基地局の増設なしにポスト5G/6G無線通信のエリア拡大への貢献が期待される。この技術の詳細は、2021年11月23日にIEEE Accessに掲載された。 

概要図

開発したメタサーフェス反射板(左図)とその実証実験の様子(右図)


開発の社会的背景

移動通信では帯域幅の拡張による高速大容量化のために高周波化が推し進められている。次世代のポスト5G/6Gでは、5Gを大幅に上回る高速大容量通信を実現するために、100 GHz超のミリ波の利用が検討されている。一方で、直進性の強いミリ波は木々や建物などの障害物で遮断されやすく、基地局から見通すことができないエリアでは通信圏外となりやすい。あらゆる状況下でも通信経路を確保し、通信エリアを拡大することが6G実現の課題の一つとされる。見通し通信がカバーするエリアを拡大するために基地局の配置を高密度化すると、通信チャンネル設計の複雑化や消費電力の増大につながってしまう。このため、見通し外にも通信エリアを効率的に構築・拡大する技術が求められている。

見通し外のエリアにも通信経路を確保する手段として、近年、入射電磁波を鏡面反射方向とは異なる任意の方向に異常反射させるメタサーフェス反射板が有望な技術として注目を集めている。メタサーフェス反射板を建物の壁や窓などに配置することで、メタサーフェス反射板が基地局からの信号を中継し、障害物で見通し外となるエリアでも通信が可能となる(図1)。メタサーフェス反射板は、電源を必要とせず免許も不要であり、反射方向を設計により自在に選択できるため、設置自由度が高く、景観を損なわずに導入できる。さらに、設計の最適化により高い反射効率を達成可能であるため、基地局の配置を高密度化する方法に比べてはるかに低消費電力な通信エリア拡大が可能となる。

しかし、これまでポスト5G/6G応用に向けた100 GHz超の周波数帯におけるメタサーフェス反射板の開発・実証例はなかった。この最も大きな原因は、高効率の反射板の最適化設計に必要な誘電体基板の複素誘電率や金属層の導電率を100 GHz超のミリ波帯において高精度に計測することが困難だったためである。ポスト5G/6G応用のメタサーフェス反射板の実現に向けて、信頼性の高い材料パラメータの決定が課題としてあげられてきた。

図1

図1 メタサーフェス反射板を用いた通信エリア構築の模式図

研究の経緯

産総研は、高精度のミリ波帯材料計測法として平衡型円板共振器法を用いた誘電率・導電率計測の研究に取り組み、従来のフリースペース法に比べて不確かさを1/10以下とし、世界最高レベルの精度を達成してきた(2019年1月17日産総研プレス発表2020年6月21日産総研プレス発表)。また、大阪大学と共同で、6Gに向けたメタサーフェスによる電磁波の高度な伝搬制御の研究に取り組んできた。今回、ミリ波帯における高精度の材料計測技術を活用し、140 GHz帯メタサーフェス反射板の開発・実証に取り組んだ。

なお、本研究開発は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託業務「ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業」(JPNP20017)の支援を受けて行った。

 

研究の内容

開発したメタサーフェス反射板は、裏面が金属で覆われた誘電体基板の表面にサブミリオーダーの金属パッチを周期的に配列した構造となっている(概要図左)。誘電体基板にはミリ波帯で低損失のシクロオレフィンポリマーの表面に銅メッキの金属層が形成されたものを選定した。金属パッチの構造設計を行うために、平衡型円板共振器法を用いて、誘電体基板の複素誘電率と表面の金属層の導電率を計測した。その結果を図2に示す。今回、材料パラメータに対する最大121 GHzまでの周波数依存性の計測結果を外挿することで、メタサーフェス反射板の設計周波数である140 GHzでの値を推定した。

図2

図2 メタサーフェス反射板に用いたシクロオレフィンポリマー基板の複素誘電率と金属層の導電率の計測結果

得られた材料パラメータに基づいて、垂直入射からそれぞれθR=45゜, 60゜, 75゜方向に異常反射する3種類の140 GHz帯メタサーフェス反射板を設計した。特定方向への異常反射が発生するように金属パッチの周期を決定した。さらに、特定方向への反射効率をあげるために、マイクロ波帯で提案されていた、反射板の面内でエネルギー伝搬が起こるように構造を最適化する設計手法を用いて不要反射をほぼ完全に抑制した。設計したメタサーフェス反射板の材料損失を除いた効率は99 %を上回った。本設計は高精度材料計測で得られた上記の誘電率と導電率に基づいており、高い信頼性が担保されている。

設計したメタサーフェス反射板を試作し、その性能評価を行った。概要図右と図3に示すように、送信アンテナから反射板に垂直に電磁波を照射し、受信アンテナの角度θを変えながら反射率を取得した。図4に、設計した異常反射方向(θ=θR)と、不要反射が生じる可能性のある鏡面反射方向(θ=0゜)と対称方向(θ=—θR)に対する、反射率の周波数依存性の計測結果を示す。140 GHz近傍において、特定のθR方向への反射が大きく、かつ0゜と—θR方向の不要反射が抑制されており、設計した異常反射特性が確認された。これら2方向の不要反射の合計が最小となる動作周波数(図4の点線)において、2方向の不要反射は異常反射に比べてそれぞれ1/140以下、1/293以下、1/28以下と十分に抑えられており、特定のθR方向への高効率な反射が実現している。今回、高精度の材料パラメータに基づく設計により、動作周波数は設計とよく一致し、ほぼ設計通りの異常反射動作が実証された。

各反射板に対し、動作周波数における反射率の角度依存性を計測した。例として、θR=60゜で設計した反射板の計測結果を図5に示す。ここで、-40゜≤θ≤40゜の範囲は、実験系の制限により計測できない範囲である。図5の結果からも特定の60゜方向への異常反射動作が実証された。今回の実験系ではアンテナと反射板の距離が近く入射波のビーム径が小さい。図5の結果よりこのような実験系の影響を補正し、遠方の基地局アンテナから大面積のメタサーフェス反射板の全面に電磁波が入射すると想定される実使用環境下での効率を推定すると、メタサーフェス反射板の材料損失を含んだトータルの反射効率は84 %となり、高効率動作を確認した。同様に、θR=45゜, 75゜の設計の反射板に対してもそれぞれ88 %と82 %の高い反射効率を確認した。

今回開発した140 GHz帯のメタサーフェス反射板は、高い設置の自由度で景観を損なうことなく基地局と端末との中継を高効率に実現するもので、ポスト5G/6G通信の低消費電力かつ柔軟なエリア拡大への貢献が期待される。

図3

図3 メタサーフェス反射板の性能評価に用いた実験系

図4

図4 140 GHz帯メタサーフェス反射板の反射特性計測結果
(a)θR=45゜の設計、(b)θR=60゜の設計、(c)θR=75゜の設計。赤線:θ=θR方向の異常反射、緑線:θ=0゜方向(鏡面反射方向)の不要反射、青線:θ=-θR方向(対称方向)の不要反射。

図5

図5 θR=60゜の設計に対するメタサーフェス反射板の反射率の角度依存性計測結果
陰付きの範囲は実験系の都合で計測できない角度範囲を示す

今後の予定

今後は、ポスト5G/6G無線通信への応用を見据えて、メタサーフェス反射板の動作周波数の300 GHzまでの高周波化や反射方向の動的制御、マルチバンド動作などの高機能化の研究開発を進める。


用語の説明

◆ポスト5G/6G
日本では2020年に運用が開始された第5世代移動通信システム(5G)に対し、超低遅延や多数同時接続などの特徴的な機能が強化されたシステムがポスト5G、2030年頃に運用開始が見込まれる後継通信システムが6Gである。[参照元へ戻る]
◆メタサーフェス
電磁波の波長よりも十分に小さな構造体を表面や内部に配列して構成されたシート状の人工構造体。異常反射など、自然界の材料が示さない特殊な電磁的性質を示すことが特徴である。[参照元へ戻る]
◆ミリ波
周波数が30 GHz~300 GHz (波長が1 mm~10 mm) の電磁波。ポスト5G/6G無線通信での利用が期待されている。これまで携帯電話で利用されてきたより低周波の電磁波に比べて、高速大容量通信が可能である一方、直進性が高いため建物などの障害物で遮断されやすい。[参照元へ戻る]
◆反射効率
入射波の電力に対して、特定の方向への反射波の電力の割合。異常反射を示すメタサーフェス反射板では、高い反射効率の実現にあたっては、特定方向以外の方向への不要反射を抑えて、特定方向のみに選択的に反射させる設計が求められる。[参照元へ戻る]
◆見通し通信
送受信機の間に遮るものがなく直接お互いが見通せる通信路による通信。異常反射を示すメタサーフェス反射板は、障害物によりお互いが直接見通せない見通し外のエリアにも通信路を確保する。[参照元へ戻る]
◆異常反射
入射角とは異なる角度への反射のこと。金属などでできた平板による通常の反射は、入射角と反射角が等しい鏡面反射となる。[参照元へ戻る]
◆複素誘電率・導電率
複素誘電率は回路基板の電気的性質を表す量の一つであり、分極のしやすさ(電気を蓄える大きさ)を表す。一般に複素数で、通常は真空の誘電率との比で表される。実部を比誘電率、実部に対する虚部の比を誘電正接と呼ぶ。導電率は電気伝導のしやすさを表す物理量である。従来、100 GHz超のミリ波帯において、これらの値を高精度に計測することは困難であった。[参照元へ戻る]

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