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AGC 史上最高益達成の裏側で

AGC 史上最高益達成の裏側で

2024/05/27

AGC 史上最高益達成の裏側で 組織に多様性、人と技術育む

日刊工業新聞寄稿記事「講壇」

    産総研理事長 石村和彦による日刊工業新聞「講壇」への寄稿コラムです。産総研の経営方針やそれを受けた具体的なアクション、自身の経験やマネジメント論、社会・技術動向への考えなど、石村の視点から複数のトピックを取り上げています。
    ※記事の版権は日刊工業新聞社にあり、許諾を得て掲載しています。

    私がAGCの経営において力を入れたのは、液晶用ガラスビジネスの次のビジネスを育てることであった。そのために人材育成とタレントマネジメントに取り組んだ。リーマン・ショックや東日本大震災という社会を揺るがす出来事が発生した時代に、業績の好転と低迷を経験したジェットコースターのような社長時代であったが、その裏側で進めていた改革が実を結ぶには時間がかかった。

    2008年3月、私は旭硝子(AGC)の社長に就任した。当時、営業利益の6割が液晶ディスプレー用ガラスであった。この液晶頼みの構造を変えるため、私は「Grow Beyond」という経営方針を掲げ新規ビジネスの仕込みに着手した。ところが9月にリーマン・ショックが起こり、翌年の営業利益は激減した。建築用ガラスなど大型製品の供給は縮小せざるをえなかった。ここで私は社長として一つの決断を行った。液晶ガラスの生産設備を停止せず、やがて来る生産増に備えて生産性向上テストの期間に充てた。金融市場は縮小したが、借金をせずに購入できる液晶テレビの市場はすぐに復活すると見込んだからだ。予想通り需要はまもなく回復した。業績はV字回復を遂げ、2010年に同社史上最高益を達成した。ところがその後、外的要因により需給ギャップが拡大し価格が暴落、業績は低迷した。新規ビジネスの開拓も進めていたが、育つまでには時間がかかる。このように、私の社長時代はまるでジェットコースターに乗っているかのような日々であった。

    AGCグループの営業利益(単位:百万円)
    AGCグループの営業利益(単位:百万円)

    既存ビジネスを伸ばすにせよ、新ビジネスを始めるにせよ、組織で最も大切なのは人である。私はビジネス開拓と同時に、優秀な人材の育成と適切な人材配置のためのマネジメントシステムの構築に取り組んだ。

    まず、事業計画からバックキャストして必要な専門分野を洗い出し、世界中に点在する5000人の技術系人材を専門分野ごとに分類した。これがマネジメントシステムのベースになっている。これにより、組織全体の人材構成の把握が可能となった。このマネジメントシステムには二つのメリットがあった。長期的には事業ポートフォリオを組み替える際の人事戦略を精密に立てられること、短期的にはプロジェクトチームをつくる際に必要な人材を簡単に集められることである。また専門分野ごとに社内学会を設立した。これは定期的な勉強会を通じて社内の知識共有を促すためのものであり、これにより部門を超えた連携が進み、優秀な人材の育成につながった。さらに部署を跨ぐ異動を積極的に行うことで、組織全体の横連携を強固なものにした。こうした取り組みは個人の成長を促すとともに組織全体の力を高め、事業ポートフォリオの転換に結びついた。

    このように私は人を力に変える経営を行ってきたが、その要諦は「多様性」と言えそうだ。多様な技術と人材を育む土壌をつくり、その流動性を高めることでより柔軟かつ強力な組織となり、イノベーションを生み出す源となる。振り返れば、挑戦する企業文化とリーダーシップを育む一連の人事制度改革であった。14年末に社長を退任したが、こうした改革が実を結んだのはその後しばらくたってからのことである。

    理事長 兼 最高執行責任者

    石村 和彦

    ISHIMURA Kazuhiko

    石村和彦理事長の写真

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