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マネジメント、「人は力なり」実感

マネジメント、「人は力なり」実感

2024/04/08

マネジメント、「人は力なり」実感 不断の努力引き出す組織を

日刊工業新聞寄稿記事「講壇」

    産総研理事長 石村和彦による日刊工業新聞「講壇」への寄稿コラムです。産総研の経営方針やそれを受けた具体的なアクション、自身の経験やマネジメント論、社会・技術動向への考えなど、石村の視点から複数のトピックを取り上げています。
    ※記事の版権は日刊工業新聞社にあり、許諾を得て掲載しています。

    まず、私の社会人としての体験を振り返りつつ、座右の銘「人は力なり」についてお話ししたい。私は長年、素材メーカーの旭硝子(現:AGC)で技術者、経営者を務めた。それぞれの時代で気付きがあった。技術者としての成功の秘訣はたゆまず勉強することに、マネジメントの要諦は組織のエンゲージメント(結びつき)向上にある。

    学生時代は機械工学を専攻し、機械を使ったものづくり、生産技術について学んだ。指導は失敗学で知られる畑村洋太郎先生(現東京大学名誉教授)。知識だけでなくプロ意識も教わった。
    1979年に旭硝子(現AGC)に入社し、関西工場施設部工作課修繕係に配属となった。社内では「傍流」の部署だった。機械の修理のために夜中に呼び出されるのが嫌で、勉強を重ねて機械を改良した。設備は安定し、生産性も向上して周りから信頼されるようになった。一方、ガラス製造を理解する必要性を感じ、製造部への弟子入りを志願した。「1人で2交代するなら許可する」と言われ、工作課との兼務という過酷なスケジュールをこなす中で製造技術への理解を深めた。

    その後、超薄板ガラス生産技術の開発が始まったが、目的のガラスを切断するカッターの開発が難航した。試作品を作っては失敗する繰り返しであった。ある時カッターのわずかな挙動に気付き、対策を施したところきれいな切断に成功した。苦労を重ねた先に辿り着く成功体験は、大きな自信となった。

    旭硝子関西工場(現AGC関西工場尼崎事業所)のガラス窯の中での写真
    旭硝子関西工場(現AGC関西工場尼崎事業所)のガラス窯の中での写真
    (中央に写っているのが筆者 石村和彦)

    32歳(86年)の時に本社エンジニアリング部に移った。部の不要論も出ていたが、私は生産技術の差別化には設備の設計開発が重要であり、そこを担う部署だと思っていた。ある時、研究開発部門との打ち合わせで、設計が全て決まった機械をただ作れと言われたため、憤慨して退席した。すぐに先方のトップから上司にクレームが入った。設計を軽く見ているからだと報告したところ、上司は「良くやった、もっとやれ」と言ってくれた。言われるままに仕事をしていてはいけないと確信した。

    続いて、液晶用ガラスの開発を担当した。当時某社の独壇場であった液晶用ガラスの生産に、旭硝子は独自技術であるフロート法で挑んだ。研磨技術の開発が肝であったが、ここでも苦戦を強いられた。研磨が完了する前にガラスが割れる現象の連続であった。しかし、製造メンバーの協力もあり、ついに原因を発見し、研磨技術を確立した。

    46歳の(2000年)の時、米沢にある液晶用ガラスの生産販売子会社の社長を任された。入社以来傍流をたどってきたことを思えば、大きな飛躍だ。だが、ここは生産性の低さから赤字が続いていた。そこで、まずは関係のよくなかった開発グループと製造部門のトップ同士を入れ替え、交流を促した。その結果、業務だけでなくお互いの組織への理解が深まり、生産性が向上した。

    また、社内のエンゲージメントの重要性も同じころ強く認識した。社長就任の翌日、経理担当が融資の決裁を持ってきた。聞けば、従業員の給料を支払うためという。当時の私はバランスシートの見方も知らなかった。これまでは一番の専門家である俺の言う通りにしろというマネジメントをしてきた。しかし、組織全体でみると自分一人では何もできないこと、いかに社員に力を発揮してもらうかが重要であることを身に染みて感じた。以来「人は力なり」を座右の銘としている。

    理事長 兼 最高執行責任者

    石村 和彦

    ISHIMURA Kazuhiko

    石村和彦理事長の写真

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