産総研マガジンは、企業、大学、研究機関などの皆さまと産総研をつなぎ、 時代を切り拓く先端情報を紹介するコミュニケーション・マガジンです。

COLUMN

3次元地質地盤図の作成【産総研ラジオ2023春】

産総研地質情報研究部門 小松原純子さんの日常。

    ボーリングコアが入った箱が高く積まれた倉庫に併設された部屋で、黙々と1万年前の世界を観察する研究者がいます。「できるだけ先入観はもたないよう気をつけています」という小松原さん。でも、ときには「これはもしかするとなにか歴史的な大発見なのかもしれない」と、面白いと思うものを見つけてしまったりもするそう。そんな小松原さんに、地質に興味を持ったきっかけや、「研究とは」という問いに答えてもらいました。ぜひ下記の動画をみてから、記事をお楽しみください。

    (2023年4月21日配信 産総研ラジオ2023春 より抜粋の上、一部読みやすいように修正しています。)

    3次元地質地盤図って?

    広報小松原さんの所属である地質情報研究部門の情報地質研究グループはどういうことをやる研究グループですか?

    小松原動画に出てきたような地質地盤図を作っています。ただ、地盤図に直接関わらないけれども、微動探査といって地震波を地震計で読み取って、そのデータから地下の地盤の構造がどうなっているかというのを調べて地盤構造のモデルを作っているひともいます。

    広報3次元地質地盤図、3D地質図、と言ってしまいますが、これは産総研が今まで出してきた地質図、2D(平面)の地質図とは違うのでしょうか。

    小松原(2Dの地質図は)紙の地形図に地質の分布が色分けされて塗ってあるもので、いつの時代のどんな地質が分布しているかというのを示した図なんです。

    大宮の5万分の1地質図カタログの画像
    大宮の5万分の1地質図カタログページに使われている地質図幅の画像データ。地質図と断面図が記載されている。

    広報ブラタモリとかで見るやつですね。これが3次元ではないということは、色分けされているのはどこの部分なんでしょうか?

    小松原表層だけですね。

    広報これが、3次元、3D地質図になると、もっと深いところ、層の構造がわかるということですか?

    小松原紙、2次元だと、地下の構造を表そうとすると断面を切ってこうですよ、と表すしかないんです。山岳地帯だとでこぼこしているのでマップにしても、わりとわかりやすく構造が示せます。ただ、いま、見ている大宮など関東地方など起伏があまりないところだと、表面のぺったりした地層の情報だけになってしまう。本当は地下のことを見せたいのに、断面を切るしかない。そうなると切ったところの情報しか見せることができない。なので、好きなところで断面をきれる3次元の状態でお見せしてはどうか、と作っています。

    広報3次元的にどこを輪切りにしても断面が見られるようにするとなると、ボーリングを大量に掘ってそのコアの情報が必要ですよね?

    小松原そうですね。研究所でボーリングを山ほど掘れればいいんですが、予算面で限りがあるので、すでにあるボーリングデータを使わせてもらっています。

    広報それは自治体がもっている、例えば建物を建てるときのデータを提供してもらっているんですか?

    小松原自治体のほかにも、高速道路をつくるときや新幹線を通すときのデータが公開されているので、それらのデータも活用しています。

    広報今回の動画だと小松原さんはかなり詳細にボーリングのデータを分析していっていると思うんですけど、それと自治体とか高速道路とかのボーリングデータとの違いはなんでしょう?

    小松原例えば自治体が持っているようなボーリングデータはわりと簡略化された形になってるんですね。砂か泥かれきか火山灰かっていうのと、あとはその建物を建てる時に固さを調べなきゃいけないんですけど、その固さの情報、の最低限2つしかないんです。なので、ボーリングの本数はたくさんあるんですけど、いったいその砂が海底の砂なのか、干潟の砂なのか、川の砂なのか、そういう情報は全くないんです。

    広報え、逆に海底の砂なのか、干潟の砂なのか、小松原さんが分析したらわかるんですか。

    小松原はい。わかります。

    広報すごい…

    小松原そういう情報を自分達で掘ったボーリングコアで、どこの深度にどんな砂があるか、どんな環境で溜まったものがあるかというのを基準として1本作っておいて、その周りの情報の少ないボーリングデータを外挿して解釈していきます。

    広報(外挿というのは)データを補完していくってことですか?

    小松原そうですね。たとえば干潟があればそこから海の方に向かえば海がある、山の方に向かえば川があるだろうと予測し、基準となるボーリングデータと情報の少ない既存のボーリングデータを対比していきます。

    広報動画をみていただくと、最初と最後に3D地質図のカラフルな円柱が大量にでてきますけど、この色分けには意味がありますか?

    3D地質図に使われているカラフルな円柱

    小松原これはチームメンバーの野々垣さんの仕事ですが、たぶん地盤の固さを色分けしています。青は非常に柔らかい、赤いのが結構固い、緑はその中間ですかね。

    広報なるほど、そうなると表層に近づけば近づくほど柔らかそうですね。

    小松原低地のボーリングだとそうですかね。台地だともうすこし表層から固いです。

    広報ここで出てくる沖積層、小松原さんがよく観察されていると言っていました。これはどういう地層でしょうか。

    小松原定義をいうと、最終氷期以降に海面の上昇に伴って堆積した沿岸のやわらかい堆積物、なんですが…それだとちょっとわかりにくいと思うんで、2万年からこっちっていう感じですね。

    広報2万年前から現在までにできた地層?

    小松原そうですね。だから一番新しい地層なんですね。2万年前だと縄文時代とかなので結構古いと感じられるかもしれませんが、地質時代でいうと、とても新しいです。

    広報スタジオがあるつくば市の地層も沖積層ですか?

    小松原今いるところは10万年よりは新しい地層でできているはずですね。ローカルな話ですが、ここから土浦市や常総市のほうにいくと坂を下るはずです。その先に川があって、そのまわりの低い土地の下には沖積層があります。

    1万年前の世界を「現場検証」する。

    広報動画に戻って、ボーリングコアの記載の作業、メモをしていく作業について聞きたいんですけど、動画の中で指の腹でポンポン触っていたじゃないですか?これはどういう意味があるんですか?

    小松原さんがボーリングコアの切断面を指で触っているところ

    小松原触った感じをみています。ネトネトとかサラサラかとか。パレットナイフで触ってもいいんですけど、もうちょっと道具ではわからないなというときに触っています。

    広報ここから泥でここから砂だ、みたいなものをみつけているんですか?

    小松原ただ境界は、ばちっと決まらないので、砂質の泥とか泥質の砂とかあるので…

    広報なるほど混ざってるんですね。ゆるやかに変わっていく。

    小松原それでも記載のときはどちらかに決めないといけないので、この辺からかな、と記載しています。

    広報オーパーツがでてくるっていう話もありましたが。撮影中に見つかったオーパーツは掘削の機械の部品でした。

    小松原本当にオーパーツが見つかるわけじゃないですよ。我々がオーパーツと呼んでいるものがでてくることがあります。

    広報オーパーツに関して面白い話をちらっと聞いた気がするんです。新聞?雑誌?の切れ端がオーパーツとして見つかった話を教えてください。

    小松原千葉県北部の地質地盤図作っているときに掘ったボーリングなんですけど、海底の内湾の泥だなと思って、9 mくらい記載を進めていました。そうしたら、年代でいうと2000年とか3000年前くらいのところから印刷した紙がでてきたんですよ。

    広報2000年前の地層から、紙が。

    小松原これは、紀元前の印刷物かも?みたいなことを思ったんですけど、まぁそれはそれとして記載をして、サンプル袋に入れてとっておいたんです。後に調べたら、ボーリングを掘った時は埋立地だったんですけど、その場所は昔航路になっていて、浚渫(しゅんせつ)した記録があったんです。浚渫というのは、埋まってしまった航路を泥をすいあげてまた深くするという工事です。海上保安庁に問い合わせをして昔の海図を見たらえぐれていることが確認できたので、9 mと深いけれどそこから上は人工の地層だとわかりました。

    広報なるほど人工の地層だったということが紙の切れ端からわかったということですね。

    小松原(本物の)オーパーツではありませんでした。ホッとしました。

    広報細かい話なんですが、動画の中でも「砂のパッチみたいなものが入っていたりする」ということを言っていましたが、パッチってなんでしょうか?かたまりということですか?

    小松原あまり言わないですかね?連続していると薄層といいますが、途切れ途切れだとパッチといったりします。 たぶんボーリングの上の方だから陸成層だと思いますが、洪水で砂が広がって、その後、例えば虫とか植物の根っことかがその砂を乱してしまうと、コアの中でその地層がとぎれとぎれになったりしますね。

    広報生き物や植物で地層がきれいにならないことがあるんですね。動画の中の植物片もそうですか?

    砂の間に入りこんだ物体の痕を調べる小松原さん

    小松原これは、木の実なのでころんと転がって入ってきたようなものだと思います。

    広報どこから来たかはわからない、川から流されてきたかもしれないし、 ということなんですね。ところで海の底でも生き物の痕跡って見つかるものなんですか?

    小松原かなりありますよ。うち(地質情報研究部門)で清家さんという人が専門にやっていて。海底に生物がもぐって作った巣穴を専門に研究している人がいるくらいなんで。

    広報生痕化石みたいな。

    小松原そうですね。砂の層が全部巣穴でこわされてしまって、モヤモヤになってわからなくなることも結構あります。みなさんぜひYouTube(地球の歴史をひもとく鍵~海底を埋めつくす巣穴たち~)をみてください。

    広報それは地質研究者泣かせなんですか?

    小松原いや、そんなものだと思っています。逆に地層がきれいに残っているということは、そこは死の海、生物がいないということなので。それはそれで特殊な環境ということになりますね。

    3D地質図でわかること

    広報3D地質図の動画で東京の都心の荒川の下あたり?にすごく幅の広い川の跡みたいな面が、地下の浅いところにあるんですが、これは何を意味しているんでしょうか?

    3D地質図で見られる荒川の下にでてくる大きな谷がわかる画像

    小松原これは氷河期にできた谷ですね。3万年とか2万年とか前にそこにあった川が削った跡です。地質地盤図だと陸地の部分しか示してないので東京湾はでていませんが、これがずっとすすんで海につながっています。

    広報なるほど。それと、沖積層の基底面という言い方をされていたと思いますが、これがそれにあたるんですか?

    小松原正確にいうと色々な定義がありますが、沖積層の基底面といえますね。地層は下からたまっていくので、沖積層の一番下ということです。

    広報(地下の)谷の上の地形は割と柔らかい沖積層がずっと堆積しているから軟弱な地盤なんですか?

    小松原谷のところは柔らかい地層が厚いから、地震のときは結構揺れますよ、という理解の仕方をしてもらえれば。

    広報改めて聞きますが、3D地質図は、一般にどのような役に立つのでしょう?

    小松原そうですね。一般人はトンネルを通したり橋を建てたりしないと思うので、まずは自分の立ってる地面の下がどのようになっているか想像してほしいです。もうすこし実利的なことを言うと、柔らかい地盤に住んでいるひとであれば結構揺れるんだろうと覚悟して耐震補強をしてもらうとか。

    広報(災害に)備えるってことですね。

    小松原家を借りる時とか建てるときに備えるためのひとつの情報としてもらえればと思います。あとは、こういう文脈の土地に住んでいる、ということを知るとそれはそれで楽しいですよ。

    小松原さんが地質の道に進んだきっかけ

    広報歴史がわかると楽しいですよね。この話、取材のときにお聞きした、小松原さんが長瀞で石に記録されている歴史があることを知って感銘を受けたという話につながると思うんですが、それが研究者を志すきっかけですか?それとも地質に興味をもつきっかけでしたか?

    小松原後者(地質に興味を持つきっかけ)ですね。その当時は研究者になろうとは思ってなかったです。

    広報その後、中学時代に天文研究会で気象通報を聞いて天気図を書いていたと。気象に興味があったんですか?

    小松原気象から地学に入りました。大学受けるときも気象か地質か迷って、入ってから学部を選ぶシステムだったので、どっちにも行けるように理学系にいきました。 ただ、大学入って気がついたんですが、流体力学に必要なテンソルという概念がどうしても理解できなくて、これは流体力学を使う気象はやめておこうと。これは後ろ向きな理由ですが、前向きな理由としては、教養のときに火山の授業が非常に面白かったんです。(その授業で)伊豆大島に行って巡検というのをしました。これはきっかけとして大きかったです。

    広報(巡検というのは)みんなで野外の地層や露頭などを見学するやつですね。

    小松原そうです、そうです。火山には行きませんでしたが。

    研究とは…

    広報小松原さんにとって研究とは何でしょうか。考えてきてもらいました。

    小松原はい、謎解きです。

    小松原さんが「研究とは」のフリップをみせている写真

    広報シンプルですね。

    小松原これを書いたときに、(歩行計測の)小林さんがちょうど謎解きって言っていて、あっと思いました。

    広報小林さんと小松原さんは似ているな、と動画を撮ってるときから思ってました。知らないものを知りたいとか、新たな問題がでてきたらそれはそれで面白いとか。

    小松原面白いからはじまらないとやってられないというか。ただ、謎解きだけで終わってしまうと個人的な趣味になってしまうので、学会発表するなり、論文を書くなり、社会実装につなげるなり、アウトプットをきちんとしないといけないと思っています。

    広報3D地質図は、災害への備えにもなったり社会に役立つアウトプットになっているってことですよね。

    小松原今のところの出口としてはそうですね。

    広報ただ、小松原さん個人としては、やはり好奇心駆動で研究を進めている、と。…素敵です。では、ここまで地質情報研究部門の小松原純子さんに話を聞きました。ありがとうございました。

    小松原ありがとうございました。

    この記事へのリアクション

    •  

    •  

    •  

    この記事をシェア

    • Twitterでシェア
    • facebookでシェア
    • LINEでシェア

    掲載記事・産総研との連携・紹介技術・研究成果など にご興味をお持ちの方へ

    産総研マガジンでご紹介している事例や成果、トピックスは、産総研で行われている研究や連携成果の一部です。
    掲載記事に関するお問い合わせのほか、産総研の研究内容・技術サポート・連携・コラボレーションなどに興味をお持ちの方は、下記の連絡先へお気軽にご連絡ください。

    産総研マガジン総合問い合わせ窓口

    メール:M-aist_magazine-ml*aist.go.jp(*を@に変更して送信してください)

    国立研究開発法人産業技術総合研究所

    Copyright © National Institute of Advanced Industrial Science and Technology (AIST)
    (Japan Corporate Number 7010005005425). All rights reserved.