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2023/08/09

COLUMN

次世代太陽電池を「初号機」でつくる。

産総研ゼロエミッション国際共同研究センター 山本晃平さんの日常。
【ペロブスカイト太陽電池開発の研究_産総研ラジオ2023春】

    次世代太陽電池として期待される「ペロブスカイト太陽電池」。 手作業は面倒だから自動化したい、とみずから設計したペロブスカイト成膜装置「初号機」「2号機」を使って技術開発を重ねる山本さんに、ペロブスカイト太陽電池の研究をするようになったきっかけや、山本さんとっての「研究とは…」について思いを聞きました。

    (2023年4月21日配信 産総研ラジオ2023春 より抜粋の上、一部読みやすいように修正しています。)

    ペロブスカイト太陽電池って?

    広報ゼロエミッションやカーボンニュートラルなど、最近よく聞く問題に対応するための新しい技術を研究しているゼロエミッション国際共同研究センター(GZR)。この中で、山本さんの所属する有機系太陽電池研究チームは、どんなことをしているんでしょうか?

    山本平たく言えば、太陽電池の研究をしています。再生可能エネルギーの主力電源化を推進するために、太陽光エネルギーから、効率的に電力生産をできるようにするための研究をしています。私たちはペロブスカイト太陽電池と呼ばれる次世代の太陽電池の研究開発をしています。従来のシリコン太陽電池と同等の発電効率を有しながら軽いパネルを開発して、構造的に弱い部分などに設置可能な薄くて軽いパネルを作ろうとしています。

    広報ペロブスカイト太陽電池、ちょっと聞き慣れない言葉ではあるんですけど。ちょっと噛みそうですけど。山本さん情報によると、ペロブスカイト研究者界隈では略称「ペロ」って呼ばれてるそうですね。

    山本そうですね。ペロってよんでますね。

    広報ではここでもペロって呼びますね。ペロの仕組みというか特徴みたいなところは、さきほどちらっと話してもらったように、軽くて…

    山本そうですね。軽くて従来の太陽電池と同じような発電効率をだせるのが特徴。作り方も今あるシリコン太陽電池とは違います。

    広報シリコンだとかたくて曲げられないとかそういうことですか?

    山本そうですね。

    広報では、ここからはショートムービーをみながら解説を聞いていただければと思います。まずは、太陽電池としてのペロができるまでの流れを教えてください。

    山本まずは有機物と無機物の粉を用意します。粉を溶かす液体、溶媒に2種の粉を加えて混ぜ合わせた溶液をつくると、これがペロブスカイトの膜の素になります。

    広報動画でいうと一番最初にでてくる黄色い液体ってことですね。

    ペロブスカイト結晶構造の素となる黄色い液体

    山本料理でいうと砂糖と塩みたいなもので、砂糖が有機物で塩が無機物ですね。 これをまぜあわせて水に溶かしていいあんばいに調整するイメージに近いです。料理だとおいしいってなると思いますが、ペロブスカイト太陽電池だとうまく調合できると良い性能がでる、という感じです。

    広報その調合がレシピというか秘伝のタレというか、そんな感じですか。

    山本そうですね。

    広報これ、前駆体っていうんですよね。ペロブスカイトの前駆体。

    山本難しい言葉ですよね。溶液を乾かしてあげて乾いて出てきたものがペロブスカイト結晶構造といわれる材料なんですが、その前の状態です。

    広報黄色い液体の状態だと、まだペロブスカイト結晶構造にはなってない?

    山本正確に言うと…そうですね、結晶構造にはなってないです。

    広報ペロブスカイト結晶構造を作るための装置が、この初号機といわれる装置なんですよね。

    山本そうです。これは簡単に言えば印刷機です。インクを引き伸ばして塗ってあげて膜をつくる。プリンターみたいなものです。

    広報シリコン太陽電池と比べて…

    山本シリコン太陽電池だとインゴットみたいなシリコンの塊から切り出してそれを加工しウエハ、つまり板みたいなもの作って、その板を加工していくイメージです。ペロブスカイト太陽電池については、ある基板をもってきてその上に塗ってあげることでペロブスカイト太陽電池として駆動するイメージになります。

    広報簡単につくれるんですね。でも、簡単につくるためにはコツがいるんですよね?

    山本そうですね。コツがいりますし、そこはかなりノウハウが入っています。

    広報では、そこは触れないようにします。動画の中でもぼかしが入っていますので。

    山本他の動画をみても私のだけぼかしが入ってる感じがしますね。

    ペロブスカイト成膜装置を上から撮影したもの。

    エンジニア感のある研究者

    広報動画にはでてきてないんですけど2号機をつくっている途中だという話がありました。これは初号機からどういう進化をしているんですか?

    山本すべての工程を自動化していくイメージで作っています。ボタンを押すことで材料の供給から、塗る、乾燥まで全自動で動かすイメージです。

    広報初号機をバージョンアップしたものということですが、そうなると初号機は今後どうなってしまうんでしょうか。

    山本ペロブスカイト太陽電池はいろんな層を積み重ねてつくっているので、他の層の最適化をするのにつかっていこうと思っています。

    広報山本さんが、エンジニア感のある研究者だな、と感じたのが、「手でやるのはめんどくさいから自動化します」という話なんですが、手作業のコツを極めるんじゃなくて、量産していくんだったら、機械のパラメーターをどうやってつくっていくかみたいな話なんですね。

    山本そのとおりです。具体的なことはノウハウになっていくので言えないんですが。どんな具合で動かすとどういう膜ができてきて、そのペロブスカイトを太陽電池にするとどういう性能がでますね、こういうのが悪さをしますね、というのを明らかにします。

    広報問題を明らかにするのも重要なんですね。

    山本そうです。

    広報動画も20秒以降は電極をつける真空蒸着の映像が流れてるんですが、山本さんが以前勤めていた会社では部屋サイズのむちゃくちゃでかい真空蒸着の装置があったとインタビューのときに話されていました。

    山本真空装置メーカーと言われていて、液晶ディスプレイをつくるための製造装置だったり、スマートフォンに使われている有機ELディスプレイをつくる装置の開発に携わっていました。ポテトチップスの袋の銀色のアルミとかもそうです。これらの製造装置なので非常に大きいです。

    広報原理としてはこのガラス容器のものと一緒ですか?

    山本そうです。真空に引っ張って下で材料を加熱、昇華させて基板に到達させる。仕組み自体は同じです。

    真空蒸着の様子

    広報小さい実験室レベルの装置と比べるとパラメーターがかわるんですか?

    山本パラメーターがかわってくるのと、一回きりの実験ではないので、製造なので何百時間動かし続けたりするので熱が課題になってきたりします。例えば300時間基板を入れ替えながら、となるといろんな問題がでてきます。

    広報真空蒸着もそうですが、ペロブスカイト膜をつくる装置についても、今は初号機で一回一回やっているけど、最終的にはどうなるんでしたっけ?

    山本最終的にはロール to ロールと呼ばれている、フィルムが巻いてあって、そこにどんどん塗っていって、出来上がったものも巻いている…カセットテープのイメージです。

    広報カセットテープの平らなところに加工するとペロブスカイトがどんどんできていくイメージですね。

    山本初号機自体も枚葉式(まいようしき)という1枚ずつつくる方法でも使えるし、ロール to ロールにも発展していけると考えています。ただ、塗工するという部分はかわらないので。

    広報スピンコートやスプレーコートではだめなのでしょうか?

    山本スプレーコートについては可能性があると思います。スピンコーティングは例えば半導体とかで300 mmウエハなどサイズが限られてしまい、どうしても大面積に成膜したいときに制限があります。

    広報スピンコーティングは半導体を作るクリーンルームでの動画でも出てきましたね(この話題については、後日お届けします)。最大300 mm、30 cmぐらいがせいぜいってことですね。

    山本そうです。もっと効率よくというか、低コストに大量生産できたほうがコストは下がりますので、そういう意味でスプレーだったり、ロール to ロールだったり、インクジェットという方法があると思っています。

    広報動画の最後のほうでは、スマホ充電したいですねって言っていましたが。これはなぜでしょう?

    山本プロペラ回ったんで、次に身近なもので電気使いたいなって考えたときにスマホでした。スマホを充電できるようになるまで、技術を成熟させるにはどういう課題があるかなとやりながら考えられるんじゃないかなと思ったんです。ただ充電するだけならすでに作ったやつを並列直列に並べたらできるだろうけど、これを小さく効率よくするためにはどうしたらいいかと考えるきっかけになるんじゃないかと思いました。

    広報目標を高く設定しないと課題も洗い出せないと。チャレンジングな課題をだしていくと。次はパソコンもという話もありました。ぜひ産総研の会議室にペロをおいていつでも充電できるようにしてほしいです。

    山本はい、できれば。

    広報最後の動画の締めのところで、山本さんの上長の村上さんが「いいと思うけど、でも論文書けよ」って言われたっていう話。僕はすごくインタビューで聞いて絶対動画に入れようと思ったんですけど、村上さんは研究チームのリーダーになるんですかね。チームの役割分担などありますか。

    山本そうですね。リーダーですね。研究チームはペロブスカイト太陽電池の開発で、例えば私のように成膜をしている人間もいれば、あとは材料を変えて材料の調整をしていて、耐久性がどうなりますかとか、性能はどうなりますかっていうのを評価する部隊だったりとか、膜を評価する部隊であったりとか、電池をつくってその性能を評価する部隊がいます。それぞれが連携しながら、ペロブスカイト太陽電池の性能と耐久性をあげていくことに取り組んでいます。

    山本さんの研究者人生

    広報大学のときからペロを研究してたって聞いたんですけど。大学でペロを研究したいと思ったきっかけは?

    山本最初からペロブスカイトの研究をしてたわけではなくて、太陽電池の研究室に入ったんですけど。研究室配属が大学4年のときにあって、化学系の学部出身なんですが、合成とか反応とかの授業が難しいな、と思って違うことやりたいなと思ってたときに太陽電池の研究室があって入りたいなと考えていました。それで、たまたま4年生の研究室配属のタイミングで新しく先生が着任されて、その方がもともと産総研の人だったんです。それで面白そうだな、研究室の一期生なら好きなことできそうだなと思って入りました。そこから太陽電池の研究していて、1年くらいたったらペロブスカイト太陽電池がわっと盛り上がってきて同じようなことだからやってみたら、とスタートしました。

    広報(ペロブスカイト太陽電池の研究は)化学だけでなく工学も入っているような印象です。

    山本ペロブスカイト自体が物理だったり化学だったり研究者が入り乱れていて、複合的でいろんな分野の方が研究されている分野になります。

    広報だからこそ新しい技術でもあるし、挑戦しがいがあるってことですかね。

    山本そうですね。

    研究とは…

    広報山本さんにとって研究とは、というのを書いてきてもらいました。

    山本シンプルなんですけど…お仕事です。

    山本さんが「研究とは」のフリップをみせている写真

    広報そのとおりですね。

    山本面白みもないけど、まぁ、そうですね。お給料もあって仕事だと思っています。いままで企業で勤めていたし、企業のインターシップで長期間お世話になったこともあるので、お世話になった方に技術開発という点で貢献できればなという意味で、どんどん仕事をして技術を作って、活用していただければなという気持ちで働いています。

    広報仕事として成果をあげて、それが実際に社会にでたら山本さんにとっては一番やりがいのあることだと。なるほど深く刺さりました。ここまで、ゼロエミッション国際共同研究センターの山本晃平さんに話を聞きました。ありがとうございました。

    山本ありがとうございました。

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