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話題の〇〇を解説

地熱発電とは?

2023/07/19

#話題の〇〇を解説

地熱発電

とは?

科学の目でみる、
社会が注目する本当の理由

  • #エネルギー環境制約対応
30秒で解説すると・・・

地熱発電とは?

地熱発電とは、地下のマグマなどによって熱せられた高温の水や水蒸気の力を用いて行う発電のことで、再生可能エネルギーを利用した発電方法の一つです。火力発電に比べて二酸化炭素の排出量が少なく、化石燃料の枯渇や高騰といった影響を受けにくいのが特徴です。また、太陽光発電や風力発電のように季節や天候に左右されずに年間を通じて安定した発電量を得られることから、特に日本のような火山国では、純国産のベースロード電源として期待されています。

世界有数の火山国である日本には、膨大な地熱エネルギーが存在しています。地熱発電は、地下1,000 m~3,000 mの深さから、高温(200 ℃~300 ℃)の水や水蒸気を取り出し、そのエネルギーでタービンを回して電力を得る方式です。似た言葉として「地中熱利用」がありますが、これは地表近くの深さ20 m~100 mの温度が一定であることを利用して高能率の冷暖房などに活用する省エネルギー技術です。地熱は、季節や天候に左右されずに年間を通して安定したエネルギーとして供給が見込めるため、地熱発電には一定量の電力を安定的に供給するベースロード電源としての役割が期待されています。地熱発電の概要や現状、産総研が取り組む地熱発電の研究について、再生可能エネルギー研究センター地熱チームの山谷祐介に聞きました。

Contents

地熱発電とは

日本における地熱発電の現状

 地熱発電とは、主に地下のマグマによって熱せられた高温の水蒸気が持つエネルギーを用いて行う発電のことです。熱、水、そしてキャップロック(水を通しにくく水を閉じ込めることができる地層)が地熱発電の3要素です。日本列島は火山帯に位置することもあって、この3要素が揃っている「地熱貯留層」とよばれる場所が他国に比して多く、利用可能な地熱エネルギーが膨大に存在すると考えられています。

 日本は、アメリカとインドネシアに次いで世界第3位の豊富な地熱エネルギーを抱え、地熱発電を活用できるポテンシャルが高い国です。しかし、実際に導入されている発電設備で発電可能な電力は約0.6 GWにとどまっており、資源量に対する割合からすると非常に少ない状況です。純国産のエネルギーによる地熱発電をベースロード電源のひとつと考える政府は、2030年にはこれを1.5 GWにするという導入目標を定めました。この実現に向けて、発電量そのものを上げるためのさまざまな技術開発が進められています。

地熱発電の技術

 地熱発電は、地下1,000 m~3,000 mにある地熱貯留層に坑井(こうせい)と呼ばれる井戸を掘り、高温高圧の地下水(蒸気)を取り出して、発電用のタービンを回転させて発電する「フラッシュ発電方式」です。発電に使用した後の水は、一定の温度まで冷やして別の井戸から地下に戻しますが、その一部を温度帯に応じて暖房や入浴などに2次利用、3次利用していくカスケード利用も可能です。

 ほかにも、フラッシュ発電後の熱水や温泉水を用いて、アンモニアや代替フロンなど水よりも沸点の低い媒体を加熱し、蒸発させてタービンを回す「バイナリー発電」があります。これは地下水の温度が150 ℃よりも低い場合にも使える手法で、発電設備が比較的小さいため、小規模の地熱発電を増やすことができます。

 一方で、発電量を抜本的に増やすことができる「超臨界地熱発電技術」の実現に向けた硏究も進んでいます。超臨界地熱発電では地下3,000〜5,000 m程度のより深い地点から「超臨界状態」の水(374 ℃以上の温度、218気圧以上の圧力により液体と気体の区別がつかなくなっている水)を利用して発電することを目指しています。

 超臨界地熱発電は、国の2050年を見据えたエネルギー戦略の中でも有望な革新的技術として位置付けられています。現在、岩手県の葛根田(かっこんだ)地熱地域など国内4地域で、調査用の井戸の試掘を目指した詳細な調査が行われています。諸外国でも試験が行われていますが、現段階で実用化されたものはなく、日本が先行して発電を実現できれば世界をリードできるのではと考えています。

概要図
地熱発電の概要図

地熱発電の課題

 地熱エネルギーを適正に利用し、地熱発電の大量導入を進めていくには、掘削成功率を上げ、開発にともなうリスクを低減することがカギとなります。

 調査や発電用の井戸を掘るためには1本で数億円以上の費用がかかります。発電所の規模にもよりますが、発電開始までに必要な井戸は10本を超えることも珍しくはありません。しかし、地下資源の把握は難しいので、百発百中で地熱発電に適している地域や蒸気の出る位置がわかるわけではありません。井戸を掘ってもうまく蒸気を出すことができなければ、大きな損失となってしまいます。掘削成功率をあげて初期投資に踏み切ってもらうために、発電用の井戸を掘る前の「調査の精度」を上げていくことが、普及にとって大切なことのひとつだと考えています。

 産総研はこの課題に対して、地下の構造や状態を物理的・化学的な手法で精度良く推定する手法を開発するとともに、地球科学的なさまざまなデータを学習させたAIを利用することで、有望な掘削位置推定の確実性を上げることを目指しています。また、国内の地熱発電に適している地域を表す地熱資源量マップを高精度にするための研究も実施しています。

環境への影響評価と今後の展望

 地熱エネルギーを持続的に利用するためには、環境に与える負荷を低減しなければなりません。地熱発電所周辺の温泉や地下モニタリングなどの環境への影響の評価・分析にも取り組んでいます。

地熱発電所周辺の地下環境のモニタリング

 地熱発電を続けると蒸気量が減衰したり水質が酸性化したりすることがあります。地下の地熱貯留層へ人工的に水を入れることで蒸気生産量の回復が期待できます。産総研では、地下で発生する微小地震をモニタリングして、人工的に水を入れた際の地下水の流れを可視化するなどの研究を行い、地熱貯留層を長期間維持するための適切な管理に役立てています。

環境モニタリングシステムの高精度化と地域理解の促進

 国内の地熱発電がこれまで明確に温泉へ影響を及ぼした事例はないと説明されることもありますが、それを検証するためのデータは少なく、今後もリスクが無いとは言い切れません。そこで、地熱発電が温泉に与えうる影響に関する科学的データを得るための「AI-IoT温泉モニタリングシステム」も開発しました。

 このシステムは、温泉の配管に計測器を取り付けて、遠隔で温泉の流量や温度、電気伝導度(電気の通りやすさ)、外気温、圧力などを連続的に測定するとともにAIにより解析する仕組みです。すでに全国10カ所以上の温泉地で試験を終え、実装フェーズに入っています。

 環境モニタリングをより高精度にする技術を開発しながら、事業者などの地域の方々には科学的なデータを示して、丁寧に説明していきたいと考えています。

写真
計測器が取り付けられた温泉の配管(左)と計測器(右)

今後の展望

 産総研では、2050年のカーボンニュートラル実現に向け、さまざまな角度から地熱エネルギーの適正な利用のための技術開発を行っています。純国産の再生可能エネルギーである地熱発電の導入拡大は、エネルギー安全保障の確保の観点からも重要です。在来型発電の導入を拡大するための技術開発を進めつつ、超臨界地熱発電などの次世代の地熱発電技術の研究を進め、地熱発電の普及に貢献していきたいと考えています。

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