産総研マガジンは、企業、大学、研究機関などの皆さまと産総研をつなぎ、 時代を切り拓く先端情報を紹介するコミュニケーション・マガジンです。

2022/10/05

COLUMN

SI接頭語

計量標準総合センター長臼田 孝Usuda Takashi

    皆さんはSI(国際単位系)接頭語という言葉をご存じでしょうか。私たちは子供のころからさまざまな計量単位に慣れ親しんでおり、例えば、センチメートル(cm)、デシリットル(dL)などは、小学校で学習します。このセンチ(c)やデシ(d)こそがSI接頭語です。他にも、長い距離を表現する際に用いられるキロメートル(km)のキロ(k)、天気予報でもおなじみの気圧の単位ヘクトパスカル(hPa)のヘクト(h)もよく耳にするSI接頭語です。

     最近ではこれらのSI接頭語が計量単位以外の言葉と共に使われる場合も多く見受けられます。「ナノテクノロジー」や「マイクロプラスチック」といった語は、それぞれ「ナノ」、「マイクロ」といったSI接頭語を含んで一つの単語となっています。さらには、特大の大盛りを「メガ盛り」と言ったり、スマートフォンの通信量を「ギガ」と言ったりします。ここまでくると、もはやSIや計量とは遠く離れた感覚で使われていますが、この「メガ」、「ギガ」もSI接頭語に由来しているのです。このように見てくると、SI接頭語という一見堅苦しい言葉になじみがなくても、私たちは毎日の生活の中で意識せずに使っていることがお分かりいただけると思います。このSI接頭語に今年新しい仲間が追加される見込みです。本コラムではSI接頭語の採択を行う11月の国際度量衡総会(メートル条約の加盟国総会)を前に、このSI接頭語について紹介します。

    国際単位系(SI)とは

     18世紀末に「すべての時代に、すべての人々に」という崇高な理念の元、自然の標準に基づき、永遠に世界で用いることができる新しい単位系・メートル法の創設が開始されました。それから200年以上、科学の進歩に伴い温度や電気、化学などの計量単位も拡張しながら、世界共通の計量に関するルールが検討されてきました。こうして構築された度量衡の基盤が国際単位系(SI)です。このSIは7つの基本単位(質量、長さ、熱力学温度、光度、時間、電流、物質量)、基本単位の組み合わせで表現される組立単位、そしてSI接頭語で構成されています。

    SI接頭語の役割

     数字は、桁数を増やしていくことで、いくらでも大きな、あるいは小さな量を表現することができます。しかし、桁が多くなればなるほど可読性は悪くなり、間違いも生じやすくなります。
    (例えば、10 000 000 000 000 000 000 000 000 000や0.000 000 000 000 000 000 000 01などの数字を見て、どんな数字かすぐに判別がつきますか?)

     「指数」(累乗を示す肩付きの文字)で表せばコンパクトになりますが、表示環境によっては、これまた難読になり、混乱を招きます。そこで国際単位系では、3桁ごと(センチ、ヘクト、デシ、デカは例外)に区切りを入れて、固有の名称を定めています。さらにそれぞれの名称ごとに記号としてアルファベットの1文字(マイクロは例外的にギリシャ文字のµ)を充てて、接頭語と単位記号の組み合わせで大きな量も、小さな量も、可読性良くコンパクトに標記できるようにしたのです。

    技術の発展とSI接頭語

     人類は技術の発展とともに、目に見える、手に取れる範囲から素粒子や宇宙の果てといった肉眼では見ることができず、触れることのかなわない世界まで、認識の範囲を広げてきました。その際、勝手に接頭語を決めてしまうと分野によってまちまちになって混乱を招いたり、技術の融合を阻害したりする恐れがあります。そこで接頭語も国際単位系の一部として、メートル条約の総会決議事項としています。そしてその総会が、4年ぶりに今年の11月に開催され、日本の代表として原案の審議にも関わった産業技術総合研究所の職員が出席します。

     新たに加わる4つとは、大きな数では10の30乗を示す「クエタ(quetta)」と10の27乗を示す「ロナ(ronna)」、小さな数では10のマイナス27乗を表す「ロント(ronto)」と10のマイナス30乗を示す「クエクト(quecto)」です。これらが採択されると、1991年の総会で採択されたヨタ(10の24乗)やヨクト(10の-24乗)以来、31年ぶりのこととなります。

     科学技術が日々驚くべきスピードで発展していることを考えると、SIもそれに遅れることなく進化していくことが求められます。つまり、単位系は一度作ったらこれで十分という訳には行きません。ありとあらゆるものを定量化して比較するために、より精度の高い基準の要求に応えなくてはなりません。産業技術総合研究所は世界中の研究機関と協力し、SIの信頼性向上に取り組んでいます。

    SI接頭語の名称と記号(青字は追加案)

    SI接頭語の名称と記号と制定年

    この記事へのリアクション

    •  

    •  

    •  

    この記事をシェア

    • Xでシェア
    • facebookでシェア
    • LINEでシェア

    掲載記事・産総研との連携・紹介技術・研究成果など にご興味をお持ちの方へ

    産総研マガジンでご紹介している事例や成果、トピックスは、産総研で行われている研究や連携成果の一部です。
    掲載記事に関するお問い合わせのほか、産総研の研究内容・技術サポート・連携・コラボレーションなどに興味をお持ちの方は、下記の連絡先へお気軽にご連絡ください。

    産総研マガジン総合問い合わせ窓口

    メール:M-aist_magazine-ml*aist.go.jp(*を@に変更して送信してください)

    国立研究開発法人産業技術総合研究所

    Copyright © National Institute of Advanced Industrial Science and Technology (AIST)
    (Japan Corporate Number 7010005005425). All rights reserved.