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CASE × 人間の行動

2022/08/10

#話題の〇〇を解説

CASE × 人間の行動

「CASE」とは? Vol.2

科学の目でみる、
社会が注目する本当の理由

  • #少子高齢化対策
30秒で解説すると・・・

CASEとは?

CASEとは、「Connected(コネクテッド)」「Autonomous(自動運転)」「Shared & Service(シェアリング)」「Electric(電動化)」というモビリティの変革を表す4領域の頭文字をつなげた造語です。2016年のパリのモーターショーで提唱されて以来、CASEは自動車業界全体の未来像を語る概念として話題を集めています。

モビリティ業界のキーワードとして定着してきているCASEという概念。今、その実現のためにどのようなチャレンジが行われ、どこまで進んでいるのでしょうか。Vol.1では、CASEの全体像や課題、未来の展望を中心に紹介しました。Vol.2では、特に日本が世界をリードしている「Autonomous(自動運転)」領域を中心に解説します。人間の行動×自動運転という観点で研究を進めるヒューマンモビリティ研究センター人間行動研究チームの佐藤稔久研究チーム長に、研究の現在地と、思い描く未来のモビリティ社会像を聞きました。
Vol.1はこちら

Contents

「自動運転」でカギとなる安全な運転交代の研究

 Caseの中の「Autonomous(自動運転)」では、「安全な運転交代」が重要になってきます。自動運転においては、完全自動運転が達成される前段階として、ドライバーによる手動運転と併用される段階があり、自動運転から途中で手動運転に交代するタイミングが発生します。古い言い方では「権限移譲」と言っていましたが、この運転交代を安全に行うための人間工学実験を私たちは行っています。

 自動運転中のドライバーはスマートフォンを見ているかもしれないし、考えごとをしているかもしれないし、眠くなっているかもしれません。テストコースでの実際の走行やドライビングシミュレータによる実験で、ドライバーの目の動きや脳波、心拍数などの生理データを取って、安全でスムーズな運転交代の方法を検証しています。

モーション付ドライビングシミュレータの写真
モーション付ドライビングシミュレータ

 実は、飛行機では古くから平常時などのシステムによる自動運転と、緊急時などの人間による手動運転の交代が行われています。周囲に広い空間があり遠くから向かってくる相手の分かる飛行機は車よりも交代に時間的な余裕があり、衝突を上下左右に避けることができるので実用化が早かったのだと考えられます。一方、平面の道路上を走る自動車は、危険を回避するには左右へ曲がるか停止するかしかないので移動の制約も厳しく、運転交代した数秒後に衝突するかもしれない状況もあり得ます。飛行機の知見では到底カバーできない難しさがあります。

競争領域にも協調領域にも携わっている産総研

 産総研には自動車メーカーと個別に進めている研究もあり、市場に出ている車に生かされる成果もあります。また、安全の追究はきりがありませんが、「ここまでできればよし」とするという基準づくりも、公的な機関である産総研のミッションです。ヒューマンモビリティ研究センターは、競争領域と協調領域の両方で、自動運転に「人」側からアプローチするさまざまな研究を行っています。

 例えば、他機関と実施している協調領域で、運転交代を促す場面でのアナウンスは、システムを主語にする場合とドライバーを主語にする場合ではどちらがスムーズに交代できるかといった研究や、教習所で免許を取る人に何をどこまで教育するか、ディーラーでの販売時にどのような説明が必要かといった研究も行われています。

 経済産業省と国土交通省が主導する「スマートモビリティチャレンジ」プロジェクトでは産総研が事務局を務めています。公共交通機関が撤退し、高齢者の移動手段がなくなっていく地方に、「Connected(コネクテッド)」「Shared & Service(シェアリング)」とも関係しながら、解を出そうと取り組んでいます。

 人間工学的なアプローチは、高齢化という社会課題に最も真剣、かつ長く取り組んでいる日本が一番進んでいるのです。

車内でのセンシングの様子の写真
車内でのセンシングの様子

ウェルビーイングから考えるモビリティのあり方

 産総研が手がけ始めているのが、「移動と人の幸福感はどういうつながりがあるのか」という研究です。

 当初、私たちは外に出て広い範囲を移動することが人の幸福感につながるという仮説を立てていました。

 しかし、ここ数年の研究で、人は移動することが幸せなのではなく、移動できる能力、可能性を持っていることが幸せにつながることがわかってきました。実際に移動するかではなく、どこかに行こうと思ったときにすぐに移動できるという実感を持っている人ほど幸福感が高いことがわかってきたのです。

 今後はさらに、心理学の「ウェルビーイング」の概念を手がかりに、研究を進めていこうと考えています。快楽的な幸福感を意味する「ヘドニック・ウェルビーイング」と、自己実現による幸福感を意味する「ユーダイモニック・ウェルビーイング」という2種類のウェルビーイングの考え方を採用して、何らかの方法で定量的に測り、評価することを目標としています。車やシステムからではなく、人間の幸福感から、未来のモビリティ社会を発想していくというスタンスです。

助け合う「三方よし」モビリティ? CASEの先とは

 事故を減らすことだけを考えれば、運転をしなくて済む自動運転を目指すべきかもしれません。しかし、できるだけ自分で運転を続けたほうが人間のウェルビーイングにはつながります。そう考えると、自分で運転してもらうことが重要で、それを支え、導く自動運転のあり方を考える発想が生まれます。

 何メートル手前から減速すると余裕を持って停止できるかということを、自動運転がドライバーに教える、というようなあり方が考えられるわけです。

 さらに、CASEを追求していくと、これから先、モビリティにとって重要になるのは「助け合い」ではないかと私たちは想像しています。人の移動が、その人の移動という目的だけでなく、他の役にも立つという価値観です。

 例えば、自分が市役所に車で行くときに、隣の家のおばあさんも乗せて途中にある病院で降ろすとか、自分が図書館に本を返しに行くとき、道中で周りの状況をセンシングして、それが地域の子どもの見守りにつながるとか。テクノロジーを活用することで、乗っている人が意識しなくても自動的にそういう価値が生まれるようにできる。CASEの先の世界として、そのような未来も私たちは描いています。

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