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異業種連携で燃料電池ドローンを飛ばす

2021/12/20

異業種連携で燃料電池ドローンを飛ばす 燃料電池の高出力化・軽量化で飛行時間の延長に成功

鷲見 裕史主任研究員の写真
  • #エネルギー環境制約対応
KeyPoint燃料電池はエネルギー変換効率が高く、環境にやさしいことから、次世代のエネルギーシステムとして期待が高まっている。しかし、現在の燃料電池は、大型装置のため持ち運びができなかったり、水素ステーションで純水素燃料を供給したりする必要があるため、用途や使用場所が制限される。また、充電が必要な二次電池は、電源がないところでは使用時間が限られ、被災地や山間部などでは使いにくいとされていた。そこで、産総研は「どこでも使える燃料電池」をコンセプトに、株式会社アツミテックと市販の液化石油ガス(LPG)カセットボンベで発電できるハンディータイプの燃料電池の開発を進めてきた。静岡県浜松市にあるアツミテックと産総研が開発を進めていた燃料電池の技術に着目したのが産業用ドローンの開発・販売を行う株式会社プロドローン(愛知県名古屋市)だった。これまで二次電池を使ったドローンでは10~30分程度しか連続飛行ができず、電源を確保できない被災地や山間部での使用が課題となっていた。産総研とアツミテックが開発した固体酸化物形燃料電池(SOFC)ドローン1時間以上飛行することができ、LPGカセットボンベを交換すれば何度でも発電できる。LPGカセットボンベなら、被災地や山間部にも運んでいける。三者はこの燃料電池を使ったドローンの実証実験に成功した。今後は、長時間飛行と簡便な燃料交換という利点を生かし、産業用ドローンの新たな用途拡大を模索している。
Contents

LPGカセットボンベで発電できる燃料電池をドローンに使うアイディア

 2020年6月、産総研と株式会社アツミテック、株式会社プロドローンは市販のLPGカセットボンベで発電できる固体酸化物形燃料電池(SOFC)を搭載したドローンの開発の実証実験成功を発表した(2020/06/15 プレスリリース記事)。

飛行試験中のSOFCドローン

 現在、次世代エネルギー源として燃料電池の研究開発が進んでおり、自宅で発電する家庭用燃料電池システムや燃料電池自動車の利用が増えはじめている。しかし、前者は水素を取り出すための外部改質器が必要で装置が大きく、また後者は水素ステーションで純水素燃料を供給する必要があることから、使用場所が限られている。

 一方、燃料電池は災害時の被害調査や物資輸送、山間部でのインフラ点検など、水素インフラや充電拠点が整備されていない場所での活用についてもニーズが高まっている。また、近年では電気自動車などのレンジエクステンダー(走行距離延長装置)やIoTデバイス、ロボットなどの開発が加速しており、こうした分野でもコンパクトかつハイパワーの発電システムが望まれている。

 産総研の鷲見裕史は、これまでに株式会社アツミテックと共同で、市販のLPGカセットボンベで発電できるハンディータイプの燃料電池システムを開発してきた。LPGカセットボンベは家庭用のコンロなどにも使われている身近な燃料であり、ホームセンターなどで容易に入手することができる。このLPGを使った燃料電池の研究を進めた結果、100 W級の高出力を備えたコンパクトな燃料電池を開発していた。

 この技術に着目したのが、ドローンの開発・販売を行う株式会社プロドローンだった。プロドローンは産業用ドローンの開発を行っており、30 kg以上の最大積載量に対応した大型ドローンや、ロボットアームを装備したドローンなどを開発している。重量物を運んだり、空中で作業をしたりする産業用ドローンは消費電力が高く、さらに飛行時間が短くなるため、同社は軽量かつ高出力の電源を探し求めていた。

 「実は、この技術を発表した2017年2月には、その用例としてドローンへの活用は考えていませんでした。当時の上司が『ドローンも用例に入れておこう』とアイディアを思いついて発表資料に追記したのですが、それがなかったらプロドローンさんに声をかけてもらうタイミングはずっと遅かったかもしれません」当時を振り返って、鷲見はそう語る。

ドローンに搭載する電源を増やして、飛行時間を延ばしたい

 ドローンが災害時の被害調査などで使われていることは、ニュース報道などでしばしば目にするようになった。また、上空からの撮影のほか、高所でのインフラ点検、緊急物資の運搬などに活用され、農薬散布や荷物の宅配などにも使われはじめている。しかし、現在のドローンは飛行時間が10~30分程度と短い。ドローンには一般的にパソコンやスマートフォンなどのバッテリーに用いられるリチウムイオンポリマー(LiPo)二次電池が搭載されている。LiPo二次電池は充電することで繰り返し使えることがメリットだが、単位重量当たりのエネルギー密度が小さいことが弱点だ。ドローンは重量に比例して消費電力が上がるため、飛行距離を伸ばすために二次電池をたくさん積むと、機体が重くなって消費電力が上がってしまうというジレンマがあった。

 LiPo搭載ドローン以外に、燃料電池自動車にも使われる「固体高分子型燃料電池(PEFC)」を搭載したドローンの開発も行われているが、このタイプは燃料に純水素を使うため、水素タンクが空になったら水素ステーションなどで水素を充填する必要がある。しかし、ドローンを飛ばす必要がある被災地や山間部などは、水素ステーションが整備されていない地域であることが多い。また、ドローンが墜落したときのリスクに備えて、人口密集地域(人口密度が1平方キロメートル当たり4,000人以上)の上空でドローンを飛ばすことが航空法などにより規制されており、水素ステーションの整備が進む都市部での活用が難しい。

 このような課題を抱えていたプロドローンにとって、産総研とアツミテックが開発した固体酸化物形燃料電池(SOFC)は、軽量かつ高出力で飛行時間が長くできる上、市販のLPGカセットボンベで発電できる簡便性をもち、産業用ドローンの新たな用途を開拓する可能性のある新技術だった。

電極でLPGからダイレクトに水素などを取り出す内部改質技術

 それでは、今回開発したドローンに搭載するLPGカセットボンベ使用燃料電池の開発経緯を追ってみよう。まず、鷲見は複数ある燃料電池の中から、固体酸化形燃料電池(SOFC)というタイプを採用した。SOFCはジルコニアやセリアなどの固体酸化物を電解質に用いた燃料電池で、700~1,000 ℃の高温で作動し、燃料電池の中でもっとも発電効率が高い。

 「これまでのSOFCは定置型が主流で、主に都市ガスを使って発電します。といってもSOFCは水素や一酸化炭素(CO)で発電するので、主成分がメタン(CH4)である都市ガスは、このままでは使えません。燃料電池に供給する前に、外部改質器という外付けの装置でメタンから水素やCOを取り出し、これらを燃料電池に供給しています。LPGカセットボンベの場合も主成分はブタン(C4H10)なので、ここから水素やCOを取り出す必要がありますが、私はこの反応を燃料電池内の電極で行うことができる内部改質の技術を開発しました。LPGをダイレクトに燃料電池へ供給できるため外部改質器が不要になり、その分コンパクト化・軽量化できます」と鷲見は話す。

 しかし、LPGをダイレクトに供給して発電するといっても、実際はそれほど簡単ではない。「LPGを燃料電池に供給すると水素だけが使われ、残りの炭素はススのような状態になって電極を覆い、最終的に発電できなくなってしまいます。そこで、炭素が電極に残らないように炭素と酸素と結びつけてCOにし、これも燃料として活用できるナノレベルの微細構造をもった電極材料を開発しました。また、ドローンは電力負荷の変動が大きく、上空で静止するホバリングで体勢を立て直すときなどは急激に消費電力が上がるのに対して、高度を下げながら巡航するときなどは消費電力が下がります。このような負荷変動によって、電極に炭素が析出する速度が速くなり、電極がススに覆われて発電性能が低下してしまうことがあります。こうした電極性能の劣化が起こらないようにするための工夫も加えました」

LPG発電後の電極の電子顕微鏡写真

 さらに、上空での発電に向けて、SOFCシステムをさらに軽量化するため、アツミテックは発電した電気を集める「集電体」や、燃料電池内で燃料と空気が混ざらないように仕切る「セパレーター」の軽量化を行った。「集電体やセパレーターを軽くすると、電池自体の機械強度や発電性能が落ちてしまいます。軽量化と強度、性能のバランスを見ながら設計するのに、アツミテックさんと一緒に苦労しました。」と鷲見は振り返る。

 このような積み重ねの結果、新型燃料電池は、2017年に発表した「コンパクトハイパワー燃料電池システム」と比べて、出力当たりの重量を60%低減することに成功し、ドローン全体重量の10%以上に相当する数キログラムの軽量化を実現したのである。

LPG駆動SOFCシステムの外観

SOFC-LiPoハイブリッド方式で1時間以上の飛行が可能に

 新たに開発したドローンは、SOFCとLiPo二次電池を搭載し、電力負荷に応じて動力源を切り替えるハイブリッド方式を採用した。ハイブリッド自動車と同じようなシステムで、ホバリングなどの電力負荷が大きいときにはSOFCとLiPO二次電池の両方から電力を供給し、電力負荷が小さいときにはSOFCから二次電池への充電を行える。今回、このシステムを搭載したドローンによる飛行試験で、1時間以上作業できる見通しを得ることができた。

従来のドローン(左)とSOFCドローン(右)の電力供給の模式図

 「今後は燃料電池ドローン商品化に向けて、コストダウンや耐久性向上などに取り組みながらさらに完成度を上げていく予定です。燃料電池としては、ドローン以外の用途も視野に入れ、引き続きSOFCシステムの開発を行ってきます。また、水の電気分解は燃料電池の逆反応なので、逆向きに電気を流すことで水から水素をつくることができます。これは固体酸化物形電解セル(SOEC)と呼ばれますが、SOFCで発電するだけでなく、SOECでLPGのような持ち運べる燃料をつくる研究も行っていきたいですね」と鷲見は将来を語った。

材料・化学領域
極限機能材料研究部門
固体イオニクス材料グループ
主任研究員

鷲見 裕史

Sumi Hirofumi

鷲見 裕史主任研究員の写真
産総研
材料・化学領域
極限機能材料研究部門

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