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2021/02/26

COLUMN

『いろいろな地図』

地質情報研究部門宮川 歩夢Miyakawa Ayumu

  • #国土強靭化・防災
北アルプスでの重力調査の写真
北アルプスでの重力調査

産総研には、不思議な地図がたくさんある。現在出版されている「地質図カタログ」のWebページを見ると、名前だけではどのようなものか想像つかない地図が一覧に並んでいる。例えば「特殊地質図」。これは何が特殊なのだろうか。「水文環境図」や「ブーゲー異常図」には何が書かれているのだろうか。

 地質情報研究部門の宮川歩夢が手がけるのは「地球物理図」だ。地球の重力や磁気などによる物理現象を用いて、地表から直接調べるのが難しい地下の構造を間接的に調べ、先ほど紹介した「ブーゲー異常図(重力図)」や「空中磁気図」を作成している。地震を引き起こす活断層、火山を噴火させるマグマ、エネルギーとしての石油・天然ガス、金やレアメタルなどの鉱物資源。それらがどこに、どのような状態で分布しているかがわかれば、私たちの生活に大いに役立つばかりか、地球の成り立ちを知る手がかりにもなる。

 物理現象を捉えるための計測は、時に過酷だ。海中や海底の測定であれば船が投入ポイントに連れて行ってくれる。空中であればヘリコプターやドローンに機器を搭載することができる。しかし、陸地のうち、山だけは研究者自身が機器を背負って登らなければならない。重力計は繊細なため、計器を理解している人が衝撃を与えないよう取り扱う必要があるからだ。こうして重力・磁力の分布を調べることによって、何がわかるのだろうか。例えば、重力計。ある場所で計測した重力と、地球の理論的な重力の差を重力異常(ブーゲー異常)と呼び、地下にある岩体が重いほど重力は大きく、軽ければ小さくなる。この重力異常が同じように出ている箇所をむすんだ地図は「重力異常図」と呼ばれ、岩体の分布や、岩盤に凸凹があるかなどを読み取ることができる。また磁力計の場合は、地下の岩盤の性質によって磁場が乱れることを利用し、その値と磁場の標準値の差を「磁気異常図」としてまとめている。この磁気異常図からは地下の構造や火山に起因する地下の状態などを読み取ることができる。

 最近は、伊勢湾・三河湾沿岸地域の調査を実施。ここは1945年に三河地震(M6.8)が発生し、今後も内陸地震への備えが必要な地域だ。そのため広域的な物理探査に加え、断層などの重要な場所はより精緻な調査を行い、詳しい地質構造を可視化、1945年の三河地震に関連する断層の存在を明らかにした。

 今後も産総研の使命として、日本の重要な知的基盤となるさまざまな地図を作成し、安心・安全で豊かな社会づくりに役立てるため発信していく。

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