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発表・掲載日:2007/04/05

非シリコン系太陽電池の省資源化製法を開発

大面積で高効率な太陽電池の量産化に期待

ポイント

  • 次世代太陽電池として期待されている非シリコン系(CIGS薄膜)太陽電池の製造時におけるセレン原料の利用効率を10倍以上に改善
  • 高効率な非シリコン系(CIGS薄膜)太陽電池の大規模生産ラインが可能に

概要

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)太陽光発電研究センター【センター長 近藤 道雄】化合物薄膜チーム 仁木 栄 研究チーム長、石塚 尚吾 研究員は、非シリコン系のCIGS太陽電池の薄膜製造時のセレン原料消費量を従来の10分の1以下に抑える製膜技術を開発した。これにより大面積で高効率なCIGSモジュールの量産化が期待できるようになった。

 CIGS太陽電池は 光吸収層にCu(In,Ga)Se2(銅・インジウム・ガリウム・2セレン、以下CIGS)を用いており、光電変換層の厚さを数μmと薄くでき、しかも理論変換効率が単結晶Siを上回るので注目されている。変換効率の高いCIGS薄膜の製造には多元蒸着法が有効であるが、この方法ではセレンの利用効率が低いために技術的な製膜制御やコスト低減が難しく、産業用途には不向きとされていた。今回、蒸気セレンをラジカル化して反応活性を高めることによって、従来のセレン蒸着法に比べてセレンの利用効率を10倍以上向上させることに成功した。

 本研究成果の詳細は、2007年4月9~13日にサンフランシスコ(米国)で開催される2007 Materials Research Society Spring Meetingで発表される。

ラジカルセレンを用いた多元蒸着法によるCIGS製膜イメージと太陽電池構造の概略図
図1ラジカルセレンを用いた多元蒸着法によるCIGS製膜イメージと太陽電池構造の概略図。


開発の社会的背景

 太陽電池の変換効率はコストと直接的に関わる重要な性能指数であり、世界のエネルギー事情からも面積が小さくても十分な電力を生み出せる高効率太陽電池への期待は大きい。

 CIGS太陽電池は、(1)変換効率が高い(薄膜太陽電池では最高の19.5%が米国再生可能エネルギー研究所により達成されている)、(2)経年劣化がなく長期信頼性に優れている、(3)黒一色の落ち着いた色彩、(4)耐放射線性に優れる、などシリコン系太陽電池とは異なる優れた特長を示す。このため、CIGS太陽電池を量産化する技術を確立し新しい太陽電池産業を興す試みがある。変換効率の高いCIGS薄膜製造法として多元蒸着法が知られているが、この方法では取り扱いの難しい加熱蒸気セレンを利用するため、膨大なセレンを浪費することや、頻繁な製造装置のメンテナンスが必要となるなどの問題があった。これらの問題は、このCIGS薄膜製造方法の量産化応用を妨げる要因となっていた。したがって制御性を高め、セレンを無駄にしないCIGS太陽電池を製造する技術の開発が望まれていた。

研究の経緯

 産総研は多元蒸着法によるCIGS製膜技術をベースに、これまで、(1)成長その場観察・制御技術の開発、(2)ワイドギャップCIGSに適した太陽電池作製プロセスの開発、(3)CIGS薄膜中の結晶欠陥制御技術の開発、などに取り組んできた。太陽光発電研究センターでは、小面積太陽電池にとどまらず、集積型モジュールの高性能化にも着手しており、小面積太陽電池で実証された技術を迅速にモジュールの高性能化に生かしていく研究にも取り組んでいる。

 なお、本研究は、独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構の委託事業、太陽光発電システム未来技術研究開発「大面積CIGS太陽電池の高性能化技術の研究開発(平成18~22年度)」の支援を得て実施されたものである。

研究の内容

 CIGS薄膜の作製法には、これまで様々な方法が提案されているが、主なものとしてセレン化法と多元蒸着法の二つが挙げられる。セレン化法は銅、インジウムなどの金属積層プリカーサをセレン系ガス雰囲気中で熱処理することでCIGS薄膜を形成する方法であり、多元蒸着法ほど高い変換効率は得られていないが、大面積膜のCIGS太陽電池を作製する技術として普及している。一方、多元蒸着法は銅、インジウム、セレンなどの各元素を蒸着する方法で、実験室レベルの小面積CIGS太陽電池では高い変換効率を実現できる利点がある。しかし、この方法はセレンを大量消費するため、大面積・量産用技術への展開は困難とされていた。

 多元蒸着法においては、銅、インジウム、ガリウムといった金属原料と、その数10倍ものセレン原料を製膜時に供給する必要がある。これは、通常の蒸気セレンがSe2、Se5、Se6、Se7、Se8、といった比較的大きな分子で構成され反応性が低いことや、製膜には高温が必要であり、折角作製された薄膜表面からセレンが再蒸発することなどが原因である。このため、ほとんどのセレンは製膜室の内壁などに付着堆積し産業廃棄物として無駄になり、頻繁な製造装置のメンテナンスが必要となる。このことが、CIGS太陽電池のコストを高くし大量生産技術として不向きとされている理由である。

 産総研では、多元蒸着法においてセレン原料の制御性と利用効率を高める目的で、従来の蒸気セレンに替えRFプラズマクラッキングによりラジカル化したセレンを用いCIGS薄膜を作製する技術を開発した。この技術により、製膜時におけるセレン供給のON/OFF制御が可能になっただけでなく、ラジカルセレンの高い反応性が利用できるので、原料消費量を従来の蒸気セレンの10分の1以下に抑えることに成功した。このことはセレンの取り扱いにおける安全性が向上できたことも意味している。

 なお、セレン以外の金属原料は従来通りるつぼ加熱による蒸発源を用いている。また、今回開発したラジカルセレンを用いる方法で作製した膜は滑らかで密な表面を示し、且つ大粒径なCIGS薄膜になることを見出した。この技術で作製したCIGS薄膜の小面積太陽電池は、従来と同等の高い変換効率を示すことを確認した。

蒸気セレンを用いて作製したCIGS薄膜表面とラジカル化したセレンを用いて作製したCIGS薄膜表面の電子顕微鏡写真
図2 従来の蒸気セレンを用いて作製したCIGS薄膜表面(左)とラジカル化したセレンを用いて作製したCIGS薄膜表面(右)の電子顕微鏡写真。

ラジカルセレンによるCIGS薄膜を用いて作製した太陽電池の電流-電圧特性図

変換効率:17.5%

開放電圧:0.678V

短絡電流密度:34.0mA/cm2

曲線因子:0.749

実効面積:0.518cm2

図3 ラジカルセレンによるCIGS薄膜を用いて作製した太陽電池(図1参照)の電流-電圧特性。開発初期段階ながら高い変換効率を達成している。

今後の予定

 今後、今回開発したラジカルセレンによる製膜技術の大面積モジュール用CIGS製膜への応用を検討していくとともに、高ガリウム濃度の広禁制帯幅CIGSの製膜をはじめに、太陽電池の高効率化や低温製膜技術の開発などへの応用も検討していく。またラジカルセレン製膜によるCIGS特有の、大粒径で滑らかな表面といった特長を生かし、製膜の安定性や信頼性を更に高めながら、高性能デバイス実現に向けても挑戦していく。



用語の説明

◆CIGS太陽電池
Cu(In,Ga)Se2太陽電池。1974年にベル研究所(米国)がCuInSe2により12%という当時としては高い変換効率を報告したのを発端とし、現在まで世界各国の大学・研究機関・民間企業においてこの材料の研究開発と製品化が進められている。In、GaなどのIII族元素組成比を制御したりS(硫黄)を混合させるなどして禁制帯幅を制御できるのが特徴。[参照元へ戻る]
◆多元蒸着法
真空蒸着において、多種類の蒸発源を同時に供給する製膜方法。本研究では、特に多元蒸着を三段階に分けて製膜する三段階法(米国再生可能エネルギー研究所が考案)と呼ばれる方法を用いている。[参照元へ戻る]
◆ラジカル
遊離基。フリーラジカル、単にラジカルともいう。分子の熱分解、光分解、放射線分解などによって化学結合が切断されて生じる、実験室的条件において気相で短寿命なものである中間種。遊離基は化学的活性に富み、速やかに他の遊離基や安定分子と反応する。[参照元へ戻る]
◆RFプラズマクラッキング
高周波による気体放電で発生したプラズマによって、気体分子などを分解する方法。[参照元へ戻る]


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