発表・掲載日:2005/06/10

イベント空間情報支援システムを開発

-楽しく有意義なイベント体験を支援-

ポイント

  • 展示会、学会、博物館などのイベント空間で、誰でも気軽に利用できる端末を用いた高度な支援を実現
  • Web情報に加え、イベント会場でのスケジューリングなどのサービスで得られる興味情報や、位置履歴を用いることで、参加者間の人間関係の推定精度を向上
  • 参加者同士の関係表示、見学スケジュール、端末利用履歴によるイベント参加履歴の自動作成などのサービスを提供するイベント空間情報支援システムを実現、人工知能学会全国大会にて運用される予定

概要

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)の情報技術研究部門【部門長 坂上 勝彦】は、社団法人 人工知能学会【会長 石塚 満(国立大学法人 東京大学)】(以下「人工知能学会」という)の全国大会支援ワーキンググループ【委員長 西村 拓一(産総研)】(以下「大会支援WG」という)を通じて、イベント空間情報支援システムを開発しました。

 このシステムは、産総研、大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構 国立情報学研究所【所長 坂内 正夫】(以下「NII」という)、株式会社 アルファシステムズ【代表取締役社長 小林 孝】などが開発した多様な要素システムと連携することで、統合的なサービスを提供するもので、誰でも気軽に高度なサービスを利用できるシステムです。

 従来、展示会や物産展、各種パーティなどのイベント会場では、偶然見つけた展示物の担当者や出会った知り合いと話をするといった形で情報交換が行われるのが一般的でした。このため、同じ興味を持つ人と出会う機会を逃すこともありました。本システムは、参加者がイベント空間をより有意義に楽しく体験できるように、会場支援システムWeb支援システムとを連携させた支援を行います。これにより、会期中の支援はもとより、会期前後でもイベントの展示物やスケジュールなどのコンテンツ支援、参加者同士を結びつけ活発なイベントを実現するコミュニティ支援を受けることができます。【図1参照】

 Web支援システムは、参加者や出展者の関係を展示物やWebの情報から推定する機能、知り合いを登録することで他の関係者との交流を図る機能、展示発表のスケジューリング及び推薦機能があります。また会場支援システムでは、ICカードを参加者に配布します。参加者は、ICカードをカードリーダに乗せるだけで、システムにログインでき、他の参加者や展示物とのつながりや展示発表の情報を簡単に閲覧することができます。また、自身がどの展示発表を聞いたかなどの行動記録をリアルタイムに自動作成したり、出展者や発表者に経過時間を通知するといった支援を提供します。

 本システムは、大会支援WGにより2005年6月15-17日の2005年度人工知能学会全国大会(以下JSAI2005)にて運用される予定です。

イベント空間情報支援システムの機能例の図
図1 イベント空間情報支援システムの機能例
興味ある展示をWeb支援システムでチェックしておくと、会場で配布されるICカードをリーダにタッチするだけで関係者や関連する展示物が表示されます。知人や関係者の位置を案内し会場で一緒に展示物を見ながらの交流も可能です。当日の見学記録も自動作成され関係者へ報告することができます。

研究の背景・経緯

 情報技術は今や生活に欠かせないものとなってきていますが、特に、時間、場所、状況を問わないユビキタス情報環境が興味を集めるようになってきています。ユビキタス情報環境を実現させるターゲットのひとつとして限られた空間に多数の参加者が集まる展示会、学会、博物館などのイベント空間が考えられています。また、インターネットなどによる人間同士のインタラクションの増加に伴い、展示物の実物に触れることができ、生身の人間同士の交流が発生する実世界のイベント空間における活動を支援することは重要になってきています。

 このような背景の中、人工知能学会は、研究成果を活用しながら学会参加者の満足度向上を図るために、学会支援システムを構築、全国大会で運用する試みを毎年続けています。1999年から2001年は株式会社 国際電気通信基礎技術研究所が中心となって運用を行っておりましたが、2002年からは「イベント空間情報支援プロジェクト」として、産総研、NII、株式会社 アルファシステムズを中心として複数の組織の連携により、学会支援システムを提供しています。

研究の概要

 イベント空間情報支援システムは、会場支援システムとWeb支援システムとからなり、両システムを連携させることで、会期中の支援はもとより、会期前後でもコンテンツ支援、コミュニティ支援を提供します。

  • Web支援システム
    本システムは会場に設置された情報端末を通じて、Webマイニングにより得た情報やユーザが登録した情報をもとに、発表や、人と人とのつながりについての情報を提供する「Polyphonet Conference」を基盤とし、様々なサービスと連携可能となっています。また、参加者は会期前後でもネットワークを通じてサービスの提供を受けることができます。
  • 会場支援システム
     会場支援システムでは、気軽に身につけられる「カジュアル端末」としてICカードを参加者に配布し、展示物や会場入り口、情報端末などにICカードリーダを配置します。ICカードをカードリーダに乗せるだけで、システムにログインでき、他の参加者や展示物とのつながりや展示発表の情報を簡単に閲覧することができます。(カジュアル支援システム)これらの情報をもとに、参加者が自分自身の行動を後で振り返ることがでる「ActionLog」、展示者や発表者の時間管理を手助けする「ベル鈴」が利用できます。また、ICカードを用いて会場内の情報端末にログインしWeb支援システムを利用することができます。

イベント空間情報支援システムで融合した各種サービス

  • Polyphonet Conference:人や発表の情報を提供(産総研、NII)
     
    Polyphonetは、Web上に公開された研究者情報を収集し、研究者の研究テーマや関連の深い研究者などの情報を抽出するものですが、今回、NIIのスケジューリングシステムと融合することで参加者自身が登録した情報も統合して利用しています。参加者のお勧め情報をはじめ、展示物や紹介発表に関するさまざまな情報が提示されますので、例えば自分の見たい紹介発表をチェックしスケジュールを組むことなどが容易にできます。なお、Polyphonet Conferenceは、一部を新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託「人の社会的関係を考慮した情報提供に関する研究」で研究開発しております。
     
  • カジュアル支援システム(産総研、株式会社 アルファシステムズ、NII)
     ユーザが移動時にも気軽に利用できるカジュアル端末(ICカード)と会場に設置するセンサネットワークや情報端末を用いて、欲しいデジタル情報の取得や他の参加者とのコミュニケーションを支援します。なお、本支援システムは、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託「人の社会的関係を考慮した情報提供に関する研究」で研究開発しております。また、ICカードリーダシステムは、シナジーメディア株式会社のご協力をいただいております。
     
  • ActionLog:位置コンテクストつきWeblogの自動生成(NII)
     
    ICカードで取得した個人の行動履歴を用いて、参加者のWeblog上にセッション名や発表者といった位置コンテクストを付加したコンテンツを自動生成するシステムです。例えば、参加者がICカードリーダを通してから入室することで、「○○時○分、A会場に入室、発表者は△△さん」といったコンテンツがWeblog上に自動生成され、聴講記録作成のサポートをしてくれます。もちろん行動を振り返るだけの目的にも利用できます。
     
  • ベル鈴(べるりん):ネットワーク型自動予鈴システム(NII)
     
    発表者がICカードをリーダに置くことで発表開始となり、経過時間を常時表示したり、設定された時間が来ると鈴を鳴らして知らせてくれるシステムです。また、発表状況が、「○○会場,△△さんの発表××分経過」のように発表会場外部でも分かるように、会場設置されたディスプレイや情報端末にも表示されます。

今後の予定

 本システムは、2005年6月15-17日のJSAI2005(http://www.jaist.ac.jp/jsai2005/、参加者500人以上)にて約20台のカードリーダを設置し運用される予定です。また、JSAI2005の「イベント空間情報支援プロジェクト」セッションでは、本システム関連の技術が発表されます。

 ロボットや医療、バイオインフォマティクス、ナノテクなどの学会、各種展示会、物産展といった様々なイベントを対象に最適化したサービスを実現することで、人と人との現実社会での交流や経済行為を活性化する支援を進めていく予定です。


用語の解説

◆全国大会支援ワーキンググループ
大会支援WGは、2005年度人工知能学会全国大会(第19回)実行委員会の元におかれ、実行委員会の活動の一環として行われます。人工知能学会全国大会という実空間において参加者・主催者双方の満足度向上、有用な情報支援システムを社会に提供することを目的としています。このために、同全国大会において、情報支援システムの実証運営を行います。[参照元へ戻る]
◆コンテンツ支援
展示、イベント、発表などの内容やスケジュール、それらの場所といった情報を参加者に提供することです。スケジュール変更、スケジュールの遅れなどの情報提供も含まれます。[参照元へ戻る]
◆コミュニティ支援
イベントの参加者同士の趣味や興味、出席スケジュールなどの類似度を元に参加者同士の関係を良くする支援や、会場での参加者相互のコミュニケーションの支援です。[参照元へ戻る]
◆イベント空間情報支援プロジェクト
本プロジェクトは、2002年から始まり、イベントが開催される実空間において参加者・主催者双方の満足度向上を目指し、オープンな共通プラットフォームを構築し、産学官共同で各種情報支援モジュールの研究・実証実験を行い、有用な情報支援システムを社会に提供することを目指しています。昨年度には、様々なシステムを統合する基盤システムを開発しました。
「2003年度人工知能学会全国大会支援統合システム」,西村拓一,濱崎 雅弘,松尾 豊,大向 一輝,友部 博教,武田 英明, 人工知能学会誌, Vol.10, No.1, pp.43-51, (2004.1) [参照元へ戻る]
Webマイニング
大量のデータから何らかのパターンや知識を見つけ出すデータマイニングと類似の技術であり、特にWebデータに対してデータマイニング技術を適用することから、Webマイニングと呼ばれています。大量のWebページのテキストやリンク構造、ユーザのWebページへのアクセスパターンなどを解析する手法です。例えば、どのページがどのページにリンクを張っているかという情報を大量に解析することによって、重要なページを発見するPageRankという技術は、検索エンジンGoogleに用いられています。また、特定のトピックについて書かれたWebページ同士が密にリンクを張っているWeb上のコミュニティを発見する研究、Webページを分類する研究、表形式のデータを収集する研究など、さまざまな研究が行われています。[参照元へ戻る]
◆カジュアル端末
現在一般的に利用されているユーザ端末は、ICカードや家電リモコン、プリペイドカードのように安価で紛失時の損害が小さく気軽に利用できるカジュアル端末と携帯電話やクレジットカードのような高機能端末とに大きく分けられます。産総研では、高機能端末の将来像であるウェアラブル端末の研究とともに、無電源でインタラクティブ性を持つCoBITのようなカジュアル端末の研究を行ってきました。ICカードの機能とCoBITを組み合わせたカードタイプのCoBITも開発しております。
「ユビキタス情報処理環境が支える各種無電源小型情報端末CoBIT」, 西村拓一, 人工知能学会解説記事,  Vol.19, No.4, pp.433-440, July 2004. [参照元へ戻る]

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