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発表・掲載日:2004/03/02

単結晶TMR(トンネル磁気抵抗)素子で世界最高性能を達成

-超高集積MRAMの実現に道筋-

ポイント

  • トンネル障壁に酸化マグネシウム単結晶を用いた高品質の新型TMR(トンネル磁気抵抗)素子を開発
  • 新型TMR素子で、磁気抵抗88%(室温)を達成(世界最高性能)
    (これまでの最高値は70.8%で、ほぼ理論限界と考えられていた)
  • TMR素子の出力電圧値が従来の約2倍(380mV)に向上(世界最高性能)
  • 従来の理論限界に制約されない新構造で、今後巨大な磁気抵抗が実現される可能性がでてきた
  • ギガビット級の超高集積MRAMの開発に不可欠なブレークスルーを達成


概要

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)エレクトロニクス研究部門【部門長 伊藤 順司】と、独立行政法人 科学技術振興機構【理事長 沖村 憲樹】(以下「JST」という)は、高性能不揮発メモリとして期待されているMRAM(Magnetoresistive Random Access Memoryのキーデバイスとなる、高品質の単結晶 トンネル磁気抵抗(TMR (Tunneling Magneto Resistance))素子を世界で初めて開発し、室温での磁気抵抗88%、および出力電圧380mVという世界最高の性能を達成した。これにより、次世代の超高集積MRAM開発への道筋が開かれた。

酸化マグネシウムを用いた単結晶TMR素子を開発
 トンネル障壁の材料として画期的な新材料である酸化マグネシウムを用い、また電極材料には優れた磁気的性質を持つ鉄を用いて、高品質の単結晶TMR素子(以下、新型TMR素子という)を作製することに成功した。

○新型TMR素子は世界最高性能を実現
 従来の酸化アルミのトンネル障壁を用いたTMR素子(以下、従来型TMR素子という)を遙かに凌駕する性能を達成した。従来型TMR素子では磁気抵抗70%、出力電圧200mVが上限であったが、新型TMR素子は磁気抵抗88%、出力電圧380mVを達成した。

ギガビット(Gbit)級のMRAMの開発に道筋
 従来型TMR素子を用いたMRAMでは、出力電圧が低いため集積度が64Mbit~128Mbit程度で限界と見られている。Gbit級の高集積MRAMを実現するには、TMR素子の出力電圧は400mVが必要である。新型TMR素子では、この目標値をほぼ達成できた。

 なお、上記の研究成果は、産総研とJSTとの共同研究契約に基づき、JST戦略的創造研究推進事業さきがけプログラムの研究領域「ナノと物性」【研究総括 神谷 武志(大学評価・学位授与機構 教授)】における研究テーマ「超Gbit-MRAMのための単結晶TMR素子の開発」【研究代表者 産総研 エレクトロニクス研究部門 主任研究員 湯浅 新治】の研究過程において得られたものである。


研究の背景と経緯

 MRAM(Magnetoresistive Random Access Memory)は、DRAM(Dynamic Random Access Memory)に代わる大容量で高速な不揮発性メモリとして世界的に開発が行われているメモリである【図1参照】。海外ではモトローラや IBM がいち早く開発を開始し、2003年末に4MbitのMRAMがサンプル出荷された。一方国内では、NECと東芝が2003年度から国家プロジェクトをたてて本格開発を開始したところである。

 現状技術を用いることにより64Mbit程度のMRAMの実現は見通しが立っているが、それ以上の高集積化のためには、MRAMの心臓部であるTMR素子の特性を飛躍的に向上させる必要がある。特に、磁気抵抗の増大と電圧特性の改善の両方が必要である【図2参照】。従来型TMR素子の磁気抵抗は約70%と低く、また出力電圧も200 mV以下と低い(DRAMの出力電圧に比べて実質的に半分しかない)ため、集積度を上げるに従いノイズに埋もれて読み出せなくなってしまうという大きな課題があった。

 この課題を解決するため、電極材料の最適化やトンネル障壁(酸化アルミを使用)の作製法の工夫などが世界中で精力的に行われてきた。しかし、このような従来の手法による出力電圧の向上は原理的に飽和に近づきつつあり、Gbit級MRAMを実現するには抜本的な解決策が求められてきている。

MRAMの構造図

<MRAMの構造>
ワード線とビット線の交点にTMR素子を配列。
各TMR素子が1ビットの情報を記憶する。

MRAMの仕組みの図1

MRAMの1ビット
磁石の向きが平行:"0"

     反平行:"1"

 

MRAMの仕組みの図2

DRAMの1ビット
キャパシタが放電:"0"

      蓄電:"1"

 


図1 MRAMの仕組み

 
TMR素子の磁気抵抗効果とTMR素子の出力特性の図1

TMR素子の磁気抵抗効果とTMR素子の出力特性の図2

Gbit-MRAM実現のためには、出力電圧を倍増することが必須である。そのために、磁気抵抗の増大電圧特性の改善(電圧を印可しても磁気抵抗が減少しにくいこと)が必要となる。


図2 TMR素子の磁気抵抗効果(上)
 TMR素子の出力特性(下)
 

成果の内容

(1)単結晶の酸化マグネシウムを用いた高品質の新型TMR素子を開発

 従来型TMR素子では、磁性薄膜の電極が多結晶であり、またトンネル障壁の材料として酸化アルミを用いてきた【図3(a)参照】。酸化アルミはアモルファス物質(原子の配列が不規則な物質)であるため、電流が流れる際に電子が散乱されて直進しづらいという性質を持つ。この性質のために、従来型TMR素子の磁気抵抗は70%程度が上限である。この限界を打破するために、トンネル障壁の材料に酸化マグネシウムを用いた新型TMR素子を開発した。酸化マグネシウムは単結晶(原子が規則正しく配列した物質)であるため、電流が流れる際に電子は散乱されず直進できる【図3(b)参照】。このような場合、巨大な磁気抵抗効果が起こることが理論的に予想されてきた。しかし、単結晶の酸化マグネシウムを用いてTMR素子を作製することは技術的に難しく、これまで高品質のTMR素子の作製に成功した例は無かった。

 今回、産総研が構築した世界でも例のない単結晶TMR素子一貫製造施設【図4参照】を用いて、高品質の単結晶磁性薄膜と単結晶酸化マグネシウム層を連続積層することに成功したことによって、世界最高性能のTMR素子の開発に成功したものである。

 

従来型TMR素子と新型TMR素子の図

図3 従来型TMR素子と新型TMR素子

 
世界最先端の単結晶TMR一貫製造施設の写真
図4 世界最先端の単結晶TMR一貫製造施設
 

(2)世界最高の磁気抵抗と出力電圧を達成

 酸化マグネシウムを用いた新型TMR素子で、世界最高の磁気抵抗(室温で88%)を達成した【図5参照】。従来型TMR素子のこれまでの最高特性は約70%であった。さらに、新型TMR素子では、世界最高の電圧特性も達成した【図6参照】。この結果、TMR素子の出力電圧を、従来の2倍の380mVに増大することに成功した。これは、Gbit級MRAMに必要な出力電圧をほぼ達成したものである。

 今回、産総研とJSTでは、世界最高レベルの単結晶磁性薄膜技術に加えて、トンネル障壁の材料として酸化アルミに代わる画期的な新材料である酸化マグネシウムを用いることにより、世界最高の特性を持つ新型TMR素子の開発に成功した。これによりMRAMのGbitを超える超大容量化の道が拓かれた。

 

グラフ

図5 新型TMR素子の磁気抵抗特性

 
TMR素子の出力電圧特性の図
図6 TMR素子の出力電圧特性

今後の予定

 今後は、新型TMR素子の作製条件を更に工夫することによって、さらに大きな磁気抵抗と出力電圧の実現を目指す。また、Gbit級MRAM開発のもう一つの課題である、書き込み電力の低減を目指す予定である。


用語の説明

◆MRAM【図1参照】、出力電圧【図2参照】
TMR素子を用いたコンピュータ用メモリがMRAMである。TMR素子の2つの強磁性電極の磁化の相対的な向きが平行か反平行のどちらかの状態をとるようにすると、1個のTMR素子で1bitの情報を記憶できる。TMR効果によって平行状態と反平行状態でのTMR素子の電気抵抗が異なるため、素子の電気抵抗を計れば、TMR素子に記憶された情報を非破壊で読み出すことができる。実際の読み出しは、TMR素子に電流を流して、TMR素子の両側に生ずる電圧の変化(出力電圧)を読み出すことで行われる。Gbit級MRAMを実現するためには、400mVの出力電圧が必要となる。
実際のMRAMでは、ワード線ビット線の間にTMR素子を挟み、格子上に多数並べる。MRAMは原理的には、不揮発・高速・低消費電力・低電圧駆動・高集積といった、メモリに要求される特性を全て兼ね備えた次世代メモリである。MRAMの研究開発は米国(IBM、モトローラ)が先行しており、日本でも精力的に研究開発が行われている。[参照元へ戻る]
◆単結晶、アモルファス
原子が格子状に並んだ構造(結晶格子という)で構成されている物質。結晶格子の向きが揃った粒子を結晶粒という。多数の結晶粒が凝集して1つの個体を形成しているものを「多結晶」といい、単一の大きな結晶粒が1つの個体を形成しているものを「単結晶」という。一方、原子の配列が不規則な物質をアモルファス物質という。[参照元へ戻る]
◆トンネル磁気抵抗素子(TMR素子)、トンネル障壁、磁気抵抗【図2参照】
厚さ数nm(1nm:10億分の1メートル)以下の非常に薄い絶縁体(トンネル障壁という。従来、酸化アルミが用いられてきた)を2枚の強磁性金属の電極で挟んだ素子をトンネル磁気抵抗素子(TMR素子)という。2つの強磁性電極の磁化の相対的な向きが平行な時と反平行な時で、TMR素子の電気抵抗が変化する。この現象をトンネル磁気抵抗効果(TMR効果)と呼ぶ。この時の電気抵抗が変化する割合を百分率で表したものをTMR比と呼ぶ。[参照元へ戻る]
◆酸化アルミ、酸化マグネシウム【図3参照】
従来型のTMR素子のトンネル障壁には、酸化アルミが用いられている。酸化アルミは、通常、原子配列が不規則なアモルファス物質である。このため、電子が酸化アルミの中を流れる際に散乱されて直進しづらい。一方、新型のTMR素子のトンネル障壁材料である酸化マグネシウムは、原子が規則的に配列した結晶の性質を持つ。この性質のために、電子が散乱されずに直進できる。[参照元へ戻る]
◆ギガビット
"bit"は情報量の最小単位で、2進法の1桁(つまり"0"か"1")である。"G"(ギガ)は109、つまり10億のことである。「Gbitメモリ」とは、「10億bitを越える記憶容量を持つメモリ」のことである。MRAMの場合、現在の技術の延長では1Gbitの実現は困難と考えられる。[参照元へ戻る]
◆ワード線、ビット線
RAMなどの固体メモリでは、ワード線とビット線と呼ばれる非常に細い電線が、碁盤にある縦線と横線のように張り巡らされており、1bitの記憶を担う個々のメモリ素子は、この縦線と横線の交点に置かれている。特定のメモリ素子へのアクセスは、その素子に繋がった縦線と横線即ちワード線とビット線に通電することによって行われる。[参照元へ戻る]
◆DRAM
Dynamic Random Access Memoryの略。現在のコンピュータに用いられている最も一般的なメモリであり、大容量、比較的高速な読み書きが可能、揮発性(電源を切ると記憶情報が消える性質)、などの特徴を持っている。キャパシタ(蓄電素子)に電気を貯めることで情報を記憶するため、電源を切るとキャパシタが放電されて記憶情報が失われてしまう。[参照元へ戻る]
◆磁性薄膜
鉄やコバルト、ニッケルなどの強磁性(磁石に付く性質を持つ物質)の金属や、これらを主成分とする強磁性の合金を、基板の上に薄い膜状に堆積したものを磁性薄膜という。通常、真空中で材料金属を蒸発させて、基板の上に堆積させて作製する。[参照元へ戻る]

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