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「国研は、どこまで進化できるのか」産総研が挑む“非連続な成長”の設計図

「国研は、どこまで進化できるのか」産総研が挑む“非連続な成長”の設計図

2025/12/24

「国研は、どこまで進化できるのか」産総研が挑む“非連続な成長”の設計図石村理事長×G-QuAT 益センター長特別対談

益一哉センター長と石村理事長の写真
    産業技術総合研究所(産総研)は、第6期中長期目標の下、イノベーション・エコシステムの中核としてふさわしい「成長し続ける国研」を掲げています。そのかぎを握るのが、“非連続な成長”。単なる規模拡大ではなく、研究開発のあり方や社会実装の仕組みを抜本的に変える挑戦です。そのビジョンをどう描き、どう実現するのか――理事長の石村和彦と量子・AI融合技術ビジネス開発グローバル研究センター(G-QuAT)センター長の益一哉が語り合いました。

    ──着任して最初に感じた産総研の印象は?

    昨年10月に着任してまず驚いたのは、設備の充実度です。産業化を視野に入れた研究に必要な装置や環境が、ここまで整っているのは圧巻でした。大学も進化していますが、産総研のスケールは別次元です。

     ただ同時に、「このアセットを大学との連携を通じてもっと生かせるのでは?」とも感じました。

    石村設備だけでなく、人材も含めて連携できれば、日本全体の研究資源を最大化できます。

    研究者を一人ひとり見ると、皆さんそれぞれに強い思いや、科学技術への情熱を持っています。ただ、産総研は産業化を掲げている以上、「自分の研究が社会にどうつながるのか」という視点を、もっと強く意識していくべきだろうと感じます。

    ──大学とも企業とも異なる産総研の役割とは?

    石村理事長の写真

    大学は、個々の研究者が自分の信念に従ってどんな研究をするかを決める、いわばボトムアップの世界です。その自由さが大学の良さでもあります。一方で、産総研の場合は組織としての方向性もある。日本の産業界や社会全体を見渡して、どんな産業を生み出したいのか、組織として方向性を示す必要があります。だからこそ、トップダウンとボトムアップの両立が重要です。

    石村産総研のミッションは「社会課題解決とわが国の産業競争力強化」。そのためには、組織全体が明確な方向に向かって動くことが不可欠です。

    ただし、研究者の自由な発想も守らなければならないと考えています。

     その意味で、産総研が掲げている“3:5:2”の研究リソース配分(社会実装研究3、応用研究5、基礎研究2)はいいバランスです。応用をやるからこそ見つかる基礎もある。その循環を意識している点が、とても良いと思います。

    石村この“3:5:2”という考え方は、2021年に策定したものです。イノベーション・エコシステムの中核としての責任を果たすために、私たちが進化し続ける姿勢を示しています。

     第6期では、「イノベーション・エコシステムの中核として成長し続ける国研」を目指して活動しています。そのためには、私たち自身の事業規模も大きく成長させなければなりません。第5期の序盤にはおよそ1100億円規模だった事業を、第6期の終わりにはその2倍程度にまで拡大することを目標に、今まさに挑戦を進めています。

    ――産総研の「非連続な成長」に大学連携はどう貢献しますか?

    大学は自前主義に陥りがちですが、今の時代はそれでは限界があります。産総研の設備や知見を積極的に活用することが、双方にとっての成長につながります。

    益センター長の写真

    石村大学と連携することは、社会実装を目指す上での大きな可能性になります。特に基礎研究や応用研究の段階で、大学と協力して公的研究費を獲得することも重要です。

     また、地方の大学にもキラリと光る技術や人材があり、BIL(ブリッジ・イノベーション・ラボラトリ)のような枠組みを活用して地域と組むことで、新しい産業や人材の流れを生み出せると考えています。

    大学にもいろいろなタイプがあり、社会実装に近いテーマを志向するところもあれば、基礎研究を重視するところもあります。多様な大学と多様な形で関わることが、非連続な成長を生むきっかけになると思います。

     また、産総研の特色ある地域センターが地方の大学と組むことで、地方創生にもつながると考えています。

    ――企業との連携はどう進化しますか?

    石村共同研究だけでは不十分です。そこで、事業化までを見据えた「プロデュース事業」を加速しています。2023年に設立したAIST Solutionsは、その中核を担い、スタートアップ創出も視野に入れています。

     さらに、社会実装にはスケールアップが不可欠です。特に材料やエネルギー分野では、パイロットプラントなど実証規模での成果が求められます。その接続を担うために設置したのがエンジニアリング部です。

    これは大学にも不足している機能です。エンジニアリング人材の強化は、産総研の大きなアドバンテージになると思います。

    石村「エンジニアリング部」は、現在はまだ十数人規模ですが、今後はまず40人体制に拡充していく計画です。

    ――人材戦略のかぎを握るのは?

    石村理事長と益センター長の写真

    石村イノベーションの源泉は多様性です。ジェンダー、国籍、経験――異なる視点が交わることで新しい発想が生まれる。産総研ではDEI人事部を設立し、組織的に推進しています。多様性があれば、そこから何かしらの“爆発”が起こる可能性があると期待しています。

    さらに、キャリアの流動性も重要です。異なる役割や環境を経験することで、一人の中にも多様性が生まれる。産総研は研究部署からマネジメント部署への異動もありますが、これは非常に価値ある取り組みです。

     研究者は「わからないけれどやってみよう」という気持ちで始めたはず。それなのに保守的になることがある。変化を恐れず、場所やテーマを変えてみることを楽しんでほしいです。

    石村キャリアが変わると、人は成長します。学び、挑戦することで、一人の人間の中にもダイバーシティーが生まれる。そういうキャリアパスを描ける環境を、もっと広げたいと思っています。

    若いうちから「変わることは楽しい」と感じる経験をしてほしいです。

    石村変えるにはエネルギーがいると、私もよくわかっています。しかし、考えてみると、私たちは毎日「昨日と同じことをするため」に職場に来ているわけではないですよね。昨日より少しでもよくする、明日はもっとよくする――その積み重ねこそが「変える」ということだと思います。守ることも大切ですが、本質的に我々の仕事は“変える”ことです。変化を前向きに捉え、これからも挑戦を続けていきたいと考えています。

    理事長

    石村 和彦

    Ishimura Kazuhiko

    石村理事長の写真

    量子・AI融合技術ビジネス開発グローバル研究センター
    センター長

    益 一哉

    Masu Kazuya

    益 一哉センター長の写真

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