光スイッチとは?
光スイッチとは?

2025/06/18
光スイッチ
とは?
科学の目でみる、
社会が注目する本当の理由
光スイッチとは?
光スイッチとは、光信号を電気信号に変換することなく、その行き先を切り替えることができるデバイスです。現在、データセンターネットワークでは、光信号で伝送するデータの行先を切り替える際に光トランシーバを使って光信号を電気信号へいったん変換し、電気スイッチにより行き先を切り替え、再び光トランシーバによって電気信号を光信号に変換しています。生成AIの普及などによりデータ流通量が爆発的に増加するなか、電気スイッチを「光スイッチ」に転換することができれば、大容量データ通信の高速化やエネルギー効率の向上などが実現でき、大きなメリットになります。
データは基本的に光通信ネットワークによって、やりとりされています。その光通信ネットワークの中継地点にはスイッチング回路が必要であり、現状は光信号をいったん電気信号に変換して電気スイッチでスイッチングした後、再び光信号に変換して送り先に伝送しています。クラウドの普及に伴うデータセンターの巨大化や生成AI・機械学習の需要増加、これらに伴うデータトラフィックの増大に伴い、電気スイッチを使用した光通信ネットワークでのデータ通信の限界や、膨大なエネルギー消費が問題となっています。その際、電気スイッチの代わりに光スイッチを使えば、変換プロセスを省略できるため、データ通信の大容量化やエネルギー効率の向上が実現できます。産総研ではこのような光スイッチの研究開発に取り組んでいます。光スイッチが注目される社会的背景と実用化に向けた課題、研究開発の現状や今後の見通しなどについて、光電融合研究センターの池田和浩副研究センター長に聞きました。
光スイッチとは
光スイッチの概要
光スイッチとは、通常であれば電気信号への変換が必要となる光信号の行き先の切り替えを、電気信号へ変換せずに行うデバイスです。データセンターなどで通信されるデータは細かいパケットと呼ばれる一定の単位ごとに分割されて伝送され、中継点ではパケットごとに行き先を振り分けるパケット交換処理を必要とするため、現状、電気スイッチと呼ばれる電子デバイスが使われています。しかし一定の距離を大容量に伝送するデータ通信を行う際に使われるのは光信号です。そのため現状では、データの行き先を変えるためには、光信号をいったん電気信号に変換する必要があり、その分過剰に電力を消費しています。
電気スイッチ(左)と光スイッチ(右)。電気スイッチでは、光信号をいったん電気信号へ変換しパケットごとに行き先を振り分けるが、光スイッチは光信号を光のまま経路変更することができる。
したがって光信号のままで経路変更ができれば、このような過剰な電力を省けます。そのために使われる装置が光スイッチ、その機能は光信号が通る経路の切り替えです。
実用化に向けた課題
生成AIの普及に伴うデータ通信のボトルネック
生成AIの急激な普及に伴い、現状のデータ通信で避けられない2つのボトルネックがクローズアップされてきました。1つはI/O(Input/Output)ボトルネック。これは電気特性によりI/Oの帯域が制限される問題です。もう1つはスイッチ・ボトルネック。I/Oの帯域を増やすためには、その2乗の規模で電気スイッチの回路を増やさなければならない問題です。
生成AIの性能を高めるためには、膨大なデータをデータセンター内で高速にやり取りする必要があります。現状は電力コストを度外視して電気スイッチを増やし、膨大なデータによる並列計算を行っています。そのためデータセンターで消費される電力量が青天井に増加しています。
データ通信に伴う2つのボトルネックを解消する手法は、すでに研究が進められています。まずI/Oボトルネックを解消するのが光電コパッケージであり、スイッチ・ボトルネックを解消するのが光スイッチです。
データ通信の問題を解消する光スイッチ
Googleのデータセンター内では、すでに光スイッチが実用化されています。電気スイッチの一部を光スイッチに置き換えて運用した結果として、データの総容量を5倍に拡大しながら、ネットワークに関する消費電力を4割削減し、データ遅延についても改善しています。光スイッチは信号フォーマットに依存しないため、拡張にあたって初期投資を抑えるだけでなく、メンテナンス性も大幅に改善されています。光スイッチを活用するメリットは、エネルギーやデータ容量の面だけでなくさまざまな面でとても大きいのです。
電気スイッチと比べて光スイッチは圧倒的に低電力で低遅延です。仮にスイッチ容量が100テラビット/秒の場合、光スイッチの消費電力は電気スイッチの100分の1程度です。また電気スイッチのように信号から行き先を読み取るパケット処理が不要なため、いったん経路を決めれば、光速のままでデータを転送できます。ただ一点、光スイッチだけでは必要な経路制御をできない点が問題となります。これは、電気スイッチのパケット交換方式に対して、光スイッチが物理的に送信元と送信先を接続し、回線を占有する回線交換方式であることに由来します。光スイッチを活用していくためには、デバイスの開発に加えて制御のしくみを新たに開発することも必要で、産総研ではその課題についても取り組んでいます。
産総研が開発した実際の光スイッチチップ
光電融合と光スイッチ
前述した、電気スイッチやプロセッサのI/Oボトルネックに対しては、できるだけ電気接続の距離を短くすることで省電力化が可能です。そのため、光トランシーバを小型化し、電気スイッチやプロセッサの近傍に配置してコパッケージ(CPO、Co-Packged Optics)化する光電融合技術が研究開発されています。生成AIなどの進展により、GPUが大型化して1つのチップに収まらなくなっているため、複数のチップに処理を分散させ、それらを大容量接続しています。将来的には、これらの複数のチップを光電融合技術で光接続し、さらには接続切替を担う集積型の光スイッチを一体化することによって、さらなる大規模・高性能AIサーバが実現できると考えられます。
GPUプロセッサ(ダイ)等の電気接続を光に変換して光を出力する複数のコパッケージ(CPO)基板と集積型光スイッチを一体化することで、大規模で高性能・省電力なAIサーバを実現できる。
産総研の取り組みと展望
研究開発の成果を活用するステップへ
産総研ではいち早く、光スイッチを次世代ネットワークのキーデバイスと見込んで、シリコンフォトニクスによる集積型光スイッチの研究開発を進めてきました。したがってその後NTT(日本電信電話株式会社)から発表されたIOWN構想についても、その方向性に賛同するとともに、光スイッチを使用した光通信ネットワークの実現に向けて、関連する研究開発を続けています。
例えば、産総研の「世界最高峰の300 mmウエハプロセスによるシリコンフォトニクス製造技術」を外部に提供するコンソーシアム活動、シリコンフォトニクスをプラットフォームとする異種材料接合や集積技術の開発、光電コパッケージの技術開発、大規模シリコンフォトニクス光スイッチの開発など、関連する企業や官公庁などと連携しながら研究を進めています。
光スイッチを使用してデータを光のままハンドリングしながら光通信ネットワークとコンピューティングを融合する技術が完成すれば、デジタルインフラ全体での動的な最適化を実現できます。例えるならネットワークの構成要素である末端の端末からクラウドまでを、光通信ネットワークによって結ばれた1つの巨大なコンピュータとして見立てて、全体を最適化して活用する。そんな夢のようなシステムへと発展する可能性を秘めています。
現状は光スイッチの実用化に向けた幕開けとも言える一大転換期に差し掛かっています。産総研では独自の研究開発を推進するとともに、各種企業と連携した研究開発などを通じて、光スイッチを使用した大容量、低消費電力な光通信ネットワークおよびコンピューティングの実現に向けて注力していきます。光スイッチの関連技術にご関心のある方は、ぜひお問い合わせください。