バイオプラスチックとは?
2024/09/11
バイオプラスチック
とは?
科学の目でみる、
社会が注目する本当の理由
バイオプラスチックとは?
バイオプラスチックとは、バイオマスプラスチックと生分解性プラスチックの総称です。バイオマスプラスチックは、バイオマス(生物由来資源)からつくられるプラスチックのことです。プラスチックの原料を石油由来資源からバイオマスに変えることで、カーボンニュートラルの実現や温室効果ガス問題の解決に寄与します。生分解性プラスチックは、天然に存在する微生物の働きによって、最終的に二酸化炭素と水まで分解されるプラスチックのことです。プラスチック廃棄物の問題を軽減し、環境汚染防止に貢献します。
現在流通しているプラスチック製品の多くは石油由来であり、その生産と使用には環境への大きな負荷が伴います。石油由来資源の消費、二酸化炭素の排出、プラスチックごみによる環境汚染といった問題を解決するために、資源循環の取り組みを促進するための法律*1が施行されるなど、バイオプラスチックが注目されています。日本におけるバイオプラスチック研究の現在地と、実用化に向けた課題、未来の展望について、触媒化学融合研究センター フロー・デジタル駆動化学チームの田中慎二主任研究員に聞きました。
バイオプラスチックとは
バイオプラスチックとはなにか
バイオプラスチックとは、石油由来のプラスチックが引き起こす環境汚染などの社会問題を、「生物の力」を利用して解決しようと設計されたプラスチックです。現代社会では、プラスチックを使わない生活はほぼ不可能なため、環境にやさしいバイオプラスチックに注目が集まっています。
バイオプラスチックは、「炭素循環」と呼ばれる地球規模で資源が循環する力を利用しています。植物は空気中の二酸化炭素を吸収し、有機物を作り出す「炭素固定」を行っています。作られた有機物は生物食物連鎖を通じて有効活用され、最終的には微生物によって分解されて二酸化炭素となって空気に戻ります。この炭素循環をプラスチックに取り入れたものがバイオプラスチックです。
バイオプラスチックの分類
バイオプラスチックは、大きく2つに分けられます。1つ目は「バイオマスプラスチック」で、これは生物由来の材料からつくられます。2つ目は「生分解性プラスチック」で、これは自然環境下で分解可能なプラスチックを指します。この2つを総称して「バイオプラスチック」と呼び、中には両方の要素を備えたバイオプラスチックもあります。
バイオマスプラスチックは、再生可能な生物由来の資源(バイオマス)を原料につくられるプラスチックです。これが普及することにより化石燃料への依存度を低減し、大気中の二酸化炭素の総量を増加させない効果が期待されています。バイオマスプラスチックはトウモロコシ、サトウキビなどから抽出した糖類を主な原料としており、ポリ乳酸のように糖を菌類に代謝させた物を直接利用するものや、バイオポリエチレンのように、糖類の化学変換を経て合成されるものなどがあります。
ただし、バイオマスプラスチックの利用はまだ始まったばかりであり、生産量の問題、原料の確保、コストなどの課題があります。例えば、食べ物を原料とするバイオマスプラスチックは食料問題と競合する可能性があります。また、バイオマスプラスチックの製造において、既存の石油由来プラスチックと同じものを生物由来の材料からつくる方法であれば現行の生産ラインに適応可能ですが、生物が生産するポリマーを利用して新しいプラスチックをつくる場合は、プラントを新設するコストもかかります。バイオマスプラスチックがより普及していくためには、これらの課題を解消していくことが必要です。
生分解性プラスチックはグリーンプラともいわれ、天然に存在する微生物によって水と二酸化炭素にまで分解されるプラスチックのことを指します。バイオマスプラスチックは原料に生物が関わるものである一方、生分解性プラスチックは使用後の処理・分解に生物がかかわるプラスチックであるといえます。
石油由来のプラスチックの多くが半永久的に分解されず残ってしまうのに対し、生分解性プラスチックは微生物によって分解され、水と二酸化炭素に戻るため、環境汚染を防ぐことが期待されています。
現在、最も一般的に使用されている生分解性プラスチックの素材はポリ乳酸で、高い生分解性を持つポリエステルの一種であるポリヒドロキシアルカン酸(PHA)も使用されています。分解は微生物に依存するため、生分解性プラスチックの特性の設計は難しく、現在はすでに生分解性が確認されている材料をもとに研究開発が進められています。
バイオプラスチックが注目される理由
石油由来のプラスチックは、「資源問題」「温室効果ガス問題」「環境汚染問題」を引き起こしています。これら3つの社会問題を解決する可能性があるとして、バイオプラスチックが注目されています。
石油に過度に依存すると、石油資源の枯渇リスクが生じます。石油がなくなった場合、燃料としての利用だけでなくプラスチック製品の生産もできなくなります。特に日本は石油をすべて輸入に頼っているため、国際紛争などで輸入が困難になった場合、材料が手に入らなくなるという恐れもあります。この問題を解決するために、石油ではなく生物由来の材料を使う「バイオマスプラスチック」が開発されました。
また、二酸化炭素などの温室効果ガスの排出も問題です。現在、プラスチック製品は使用後にほとんどが焼却処理されており、これにより大気中の二酸化炭素量が増えていきます。しかし、バイオマスプラスチックは焼却処理で排出された二酸化炭素を吸収した生物資源が原料です。そのため、最終的に焼却処分されても、もとの二酸化炭素に戻るだけで、原理的には地球全体の二酸化炭素量は変わりません。そのため、バイオマスプラスチックは温室効果ガス問題の解決策として期待されています。
もう一つの問題が環境汚染です。プラスチックは非常に便利な素材で、水に強く、壊れにくく、分解もしにくいという特性を持っています。しかし、この安定性が問題を引き起こします。例えば、使用後に廃棄されたプラスチックが一度海に流れ出すと、その安定性のためにずっと海に残り続けます。これが海洋汚染の大きな原因となっています。しかし、もし海に流れ出したプラスチックが「生分解性プラスチック」なら、微生物によって分解され水と二酸化炭素に戻り、環境汚染を防ぐことができます。
産総研の取り組みと未来への展望
産総研が取り組むバイオプラスチックの研究
産総研では、バイオプラスチックに関するさまざまな研究を行っています。2023年には、バイオマス由来のポリブチレンサクシネート(PBS)とポリアミド4(PA4)を組み合わせた新しいプラスチック素材を発表しました(2023/05/19プレスリリース)。引き伸ばすほど強度が増す特徴があり、透明なフィルムとして成形できます。
この素材は、ポリマーの中に2種類のプラスチック成分を組み入れ、それらを連結することで新しい物性を生み出したマルチブロック型共重合体です。これまでは、単一のバイオプラスチックの活用に焦点を当てていましたが、この新しい方法を使うことで、複数の種類のプラスチックを組み合わせて新しい物性を生み出すことが可能になりました。
2024年には、バイオマスプラスチック材料をポリ乳酸にブレンドすることで、ポリ乳酸の海水中での生分解が促進されることを見いだしました(2024/03/26プレスリリース)。ポリ乳酸が抱えるもろさと生分解性の課題を、微生物により生合成される乳酸と3-ヒドロキシブタン酸の共重合体をブレンドすることで克服しました。
バイオプラスチックがもたらす未来
産総研では、プラスチックのバイオマス化を推進し、将来的には化石燃料を使わずにプラスチックをつくることを目指しています。バイオプラスチックが普及することで、環境に悪影響を与えることなくプラスチックを活用できる未来が訪れると考えています。
さらに、完全に資源が循環するシステムをつくることで、ゴミという概念のない世界の実現を思い描いています。例えば、ペットボトルなどは可能な限りリサイクルし、使い終わったプラスチックも燃料や肥料などに利用します。またプラスチックの一部が自然界に漏れ出したとしても環境を汚染せず、バイオマスとして再生されるという具合です。このような資源が循環する社会システムを実現するべく、研究を進めているところです。
企業の方はもちろん、大学や研究機関の方など、バイオプラスチックの社会実装に向けた連携を希望される方がいらっしゃいましたら、ぜひお声がけください。
*1: 環境省「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律」特設サイト [参照元へ戻る]