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高温域の測定精度を飛躍的に高める

2016/04/30

COLUMN

ここにもあった!産総研

高温域の測定精度を飛躍的に高める

    体温や気温など、普段の生活に欠かせない温度。しかしその正確な測定は、実は簡単ではない。特に高温域においては、銅の凝固点1084.62 ℃を超える温度の基準(温度定点)は存在していなかった。産総研は、この1100~3200 ℃の温度域における温度定点を新たに16個実現することで、温度測定の高精度化に大きく貢献した。

    正確にはかれなかった高温域をはかる

     温度の目盛は、複数の温度定点を開発し、それを基準として定められる。初期の温度目盛は、氷点0 ℃と水の沸点100 ℃の2点を定点とし、その間を等間隔に分割してつけられた。その後温度目盛の高精度化が進み、さまざまな温度で多くの温度定点が導入されている。

     しかし、1000 ℃付近の温度定点はこの100年近くほとんど増えず、上限はわずか20 ℃上がっただけで、最高定点である銅の凝固点1084.62 ℃を超える高温域では、よりどころとなる基準が存在しないという状態が続いていた。温度の測定は、温度定点から離れるほど目盛の不確かさが著しく増す。これまで、1085 ℃を超えた高温域の温度目盛は、物理法則に基づいて黒体の放射輝度比から温度を求めていたが、これを高精度に測定(校正)する手段はなかった。

     産総研は独自の技術で、1100 ℃以上の温度域における温度定点を新たに16個開発することに成功し、上限も3185 ℃と一気に拡大、高温域の温度測定の精度を飛躍的に高めたのである。

    合金を使う画期的な技術

     温度定点を得るために必要な定点物質には、純金属が使われていた。しかし、たとえば白金をグラファイトのるつぼで溶かすと、るつぼから溶け出した炭素が白金に混ざり凝固点が安定せず、再現性のよい温度定点は得られない。

     産総研が行きついた発想は、定点物質として純金属ではなく、金属と炭素の合金を使うというものだった。白金と炭素の合金であれば、その一成分と同じグラファイトがるつぼから溶け出しても合金の組成は変わらないため、金属汚染を気にする必要がない。産総研は、この金属と炭素の共晶点*1を温度定点として利用できることを発見し、1999年に世界に先駆けて提案した。

    高温定点実現装置の写真
    2800 ℃までの高温定点実現装置

     温度は、産業とも密接に関わる。特に鉄鋼業では、溶銑の精錬・鋳造の温度や冷却速度で材料の質を大きく左右し、炭化ケイ素(SiC)や炭素繊維などの新素材は、2000~2500 ℃を超える温域での品質管理が求められる。安定的で効率的な操業を可能にし、設備の寿命を延ばすのも、温度の管理次第である。再現性と安定性に優れた高温域の温度定点が多数できたことで、高温域の温度が十分な精度で計測され、信頼できる温度目盛を産業現場へ供給できるようになったのだ。

     2006年までに産総研が提案した新たな温度定点16個のうち6個は、すでに日本の温度の国家標準として実用化されている。そしてまもなく、これらを国際的に合意された「温度値」とするための国際プロジェクトも完了する。産総研の技術で生まれた新たな温度標準が、国際標準になる日も遠くはなさそうだ。

    ITS-90定義定点と、産総研が標準供給している高温域の温度定点

    *1: 複数の成分を含む液体から同時に結晶が析出する温度。さらに産総研は、金属炭化物と炭素の包晶点を用いて、より高い温度定点も実現した。[参照元へ戻る]

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