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発表・掲載日:2017/02/09

コンパクトハイパワー燃料電池システムを開発

-出力や耐久性の向上により、移動体やロボットなどへの応用に期待-

ポイント

  • 部分酸化改質や水蒸気改質機能を持ち、耐久性の高い新たなナノ構造電極材料を開発
  • カートリッジ式のガス燃料に加え、さまざまな液体燃料の内部改質発電が可能
  • 長時間運転を実現する移動体レンジエクステンダーやロボット・ドローンなどの電源への応用に期待


概要

 国立研究開発法人 産業技術総合研究所【理事長 中鉢 良治】(以下「産総研」という)無機機能材料研究部門【研究部門長 淡野 正信】機能集積化技術グループ 鷲見 裕史 主任研究員と、株式会社アツミテック【代表取締役 中島 和美】(以下「アツミテック」という)は、共同でコンパクトハイパワー燃料電池システムを開発した。

 固体酸化物形燃料電池(SOFC)の内部で瞬時に効率よく液化石油ガス(LPG)の部分酸化改質やエタノールの水蒸気改質ができるナノ構造電極材料や運転制御技術を開発し、発電システムの出力や耐久性を向上させた。これにより、災害などの非常用に加え、移動体レンジエクステンダーやロボット、ドローンなどの常用電源への応用が期待される。

 なお、この技術の詳細は、平成29年2月15~17日に東京ビッグサイト(東京都江東区)で開催される「nano tech 2017 第16回国際ナノテクノロジー総合展・技術会議」の産総研ブースにて展示される。

今回開発したコンパクトハイパワー燃料電池システムの外観と応用イメージの図
今回開発したコンパクトハイパワー燃料電池システムの外観と応用イメージ


開発の社会的背景

 SOFCは燃料電池の中で最も高い発電効率が期待されている。近年、家庭用コージェネレーション(熱電併給)システム「エネファーム」が商品化され、業務用発電システムも開発が進められている。しかし、これまでの研究開発は主に定置型が対象であり、燃料としてメタンが主成分である都市ガスが用いられるケースがほとんどであった。産総研では、これまで災害・非常用電源向けにLPGで発電できるハンディ燃料電池システムの開発を進めてきた。近年、IoTデバイスや移動体などのレンジエクステンダー、ロボットやドローンなどの開発・普及が見込まれる中、液体燃料でも発電でき、よりコンパクトで高出力のSOFCが望まれている。

研究の経緯

 産総研は、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(以下「NEDO」という)プロジェクト「セラミックリアクター開発(平成17~21年度)」にて、400~600 ℃の低温で作動するマイクロチューブSOFCを開発し(平成21年9月10日 産総研プレス発表)、アツミテックと共同で参画した国立研究開発法人 科学技術振興機構(以下「JST」という)独創的シーズ展開事業「熱電シナジー排ガス発電システム(平成18~23年度)」では、排ガス中の未燃成分を燃料としたSOFCと排熱で駆動する熱電素子を組み合わせた発電システムを開発した(平成25年5月7日 JSTプレス発表)。さらに、LPGカセットボンベで発電できる「ハンディ燃料電池システム」を実証し(平成25年1月28日 産総研プレス発表)、NEDOプロジェクト「固体酸化物形燃料電池等実用化推進技術開発/次世代技術開発/マイクロSOFC型小型発電機(平成25~26年度)」で量産化に向けた基礎的検討を行った。これらの成果を活用し、今回アツミテックと共同で出力や耐久性を向上させた「コンパクトハイパワー燃料電池システム」の開発に取り組んだ。

研究の内容

 LPGの主成分の一つであるブタンをSOFCに直接供給すると、熱分解によって燃料側の電極(燃料極、負極)上で炭素析出が起こり、電極性能が急激に低下することが知られている。平成25年に開発したハンディ燃料電池システムでは、炭素析出を抑制できる燃料極を開発し、400~600 ℃の温度でブタンのダイレクト発電を可能にした。しかし、600 ℃以下の低温では電極活性が低下するため、数十W級のハンディサイズから常用電源として必要な100~数百W級へスケールアップするには、瞬時に効率よく電極反応が進む高温での作動が求められる。一方、650 ℃以上の高温では炭素の析出速度が酸化速度を上回り、特に酸化物イオン(O2-)が供給されにくい電極表面で炭素析出による劣化が起こることが分かった(図1 (a))。今回、ブタンなどの炭化水素燃料と空気を同時に供給し、内部で水素や一酸化炭素などに部分酸化改質できるナノ構造電極材料(図1 (b))を開発した。また、改質条件を最適化した運転制御技術の開発により、電極表面や燃料導入部での炭素析出は確認されず(図2)、数百時間の連続発電(図3 (a))や数百回の起動停止の繰り返し(図3 (b))が可能である見通しを得た。なお、今回開発した電極は白金などの貴金属触媒を使用しないため、固体高分子形燃料電池(PEFC)などで問題になる一酸化炭素被毒の問題は起きない。また、内部改質で生成した一酸化炭素は発電時に二酸化炭素に酸化され、排気ガス中の一酸化炭素濃度は極めて低かった。ナノ構造電極材料や運転制御技術によって650 ℃以上で発電できるようになり、従来のダイレクト発電に比べて約3倍の出力が得られた。体積あたりの出力密度も約3倍で、コンパクトで高出力が得られる燃料電池モジュールが実現した。

ダイレクト発電と内部改質発電の原理の図
図1 ダイレクト発電と内部改質発電の原理

炭化水素燃料(ブタン)部分酸化改質条件最適化前(左)と後(右)のセル外観の図
図2 炭化水素燃料(ブタン)部分酸化改質条件最適化前(左)と後(右)のセル外観
改質条件最適化前には燃料導入部(写真右側)で炭素析出が起こっている。

改質条件の最適化による耐久性向上の図
図3 改質条件の最適化による耐久性向上
改質条件1が条件最適化前で、改質条件2が条件最適化後。
数百時間におよぶ連続発電(a)や数百回の起動停止の繰り返し(b)でも電圧の低下が抑えられている。

 エタノールなどの液体燃料による発電も試みた。エタノールは、常温常圧で液体であり、植物由来の非可食バイオマスや、二酸化炭素を原料とした人工光合成などで製造できるため、近年カーボンニュートラルな燃料として注目されている。しかし、エタノール燃料は、ブタン燃料よりも炭素の析出速度が速く、ダイレクト発電が不可能であった。エタノールは水溶性なので、水と同時に供給して水蒸気改質できるが、条件の最適化がより重要である。今回、炭素析出によるナノ構造電極の劣化が起こらない条件を見出し、エタノール燃料でも数百時間以上の連続発電を実証した。

コンパクトハイパワー燃料電池システム外観(左)と発電性能(右)の図
図4 コンパクトハイパワー燃料電池システム外観(左)と発電性能(右)

作動温度拡大による燃料電池モジュールの高出力化の図
図5 作動温度拡大による燃料電池モジュールの高出力化

 これらの成果を元に、100 W級燃料電池モジュールとコンパクトハイパワー燃料電池システムを開発した(図4)。電極内部で燃料を改質するため、瞬時に効率よく電極反応が進む650 ℃以上の高温でも発電できるようになり、同サイズの燃料電池モジュールあたりの出力が数十W級から100 W級へ約3倍向上した(図5)。この燃料電池モジュールを複数個設置して、数百W~数kW級の燃料電池システムに拡張することもできる。今回開発した燃料電池システムは、電極内部で燃料を改質し、起動用バーナーを搭載するため、外部改質器や起動用の外部電源が不要で、断熱材などの部材の配置を最適化して非常にコンパクトになっている。災害などの非常用だけではなく、設置スペースの制約が厳しい移動体レンジエクステンダーやロボット、ドローンなどをはじめ、常用電源として幅広い市場での応用が期待される。

今後の予定

 温室効果ガス排出量のさらなる削減に向けて、余剰再生可能エネルギーをエネルギーキャリアなどの形にして有効活用することが求められている。今後は、燃料種のさらなる拡充や燃料電池モジュールの高出力化、耐久性向上について引き続き検討する。また、今回開発した燃料電池モジュールや燃料電池システム技術を企業へ橋渡しし、さまざまな用途への展開を進めるための実証試験を行う。



用語の説明

◆燃料電池システム
発電モジュールに燃料や空気を供給するためのブロア(ポンプ)や起動用バーナー、これらの制御機構を組み込んだもの。[参照元へ戻る]
◆固体酸化物形燃料電池(SOFC)
ジルコニア(ZrO2)やセリア(CeO2)などの固体酸化物を電解質に用いた燃料電池。一般的に600~800 ℃の高温で作動し、各種燃料電池の中で最も高い発電効率が期待されている。電解質内を酸化物イオン(O2-)が伝導するため、原理的には水素だけでなくブタン(C4H10)などの炭化水素やエタノール(C2H5OH)などのアルコールも燃料として用いることができる。SOFCはSolid Oxide Fuel Cellの略。[参照元へ戻る]
◆部分酸化改質
炭化水素を部分的に酸化させて、水素(H2)や一酸化炭素(CO)などSOFCで利用できるガスに改質すること。ブタンの部分酸化改質の場合、化学反応式はC4H10+2O2→5H2+4COとなる。[参照元へ戻る]
◆水蒸気改質
アルコールを水蒸気(H2O)と反応させて、水素や一酸化炭素などに改質すること。エタノールの水蒸気改質の場合、化学反応式はC2H5OH+H2O→4H2+2COとなる。[参照元へ戻る]
◆炭素析出
炭化水素やアルコールの熱分解によって固体の炭素が析出すること。SOFCの電極上で炭素が析出すると、電極触媒の失活や燃料流路の閉塞などによって著しく発電性能が低下する。[参照元へ戻る]
◆ダイレクト発電
電解質から供給される酸化物イオンによって炭化水素を電気化学的に直接酸化し、電気エネルギーを得ること。ブタンのダイレクト発電の場合、半電池反応式はC4H10+13O2-→5H2O+4CO2+26e-となる。[参照元へ戻る]
◆固体高分子形燃料電池(PEFC)
フッ素系高分子膜などを電解質に用いた燃料電池。一般的に室温~80 ℃の低温で作動し、家庭用燃料電池システムや燃料電池自動車などに用いられる。電解質内をプロトン(H+)が伝導し、低温で電極反応を起こすために白金などの貴金属触媒が使われている。PEFCはPolymer Electrolyte Fuel Cellの略。[参照元へ戻る]
◆一酸化炭素被毒
PEFCなどで用いられる白金などの貴金属触媒に一酸化炭素を含むガスを供給すると、触媒表面に一酸化炭素が強く吸着し、水素のイオン化などの電極反応を阻害してしまうこと。PEFCでは、外部改質器に加えてCO変成器で10 ppm以下まで一酸化炭素濃度を低減させた純水素を燃料として供給する必要がある。[参照元へ戻る]
◆燃料電池モジュール
SOFC 1セルあたりの電圧は1 V、出力は1~10 W程度であるため、高電圧・高出力を得るために複数のセルを電気的に接続したもの。燃料や空気を複数のセルに均等に供給する機能ももつ。[参照元へ戻る]
◆エネルギーキャリア
太陽光や風力などの再生可能エネルギーの出力変動を平準化させるため、余剰分をアンモニアやメタノールなどの化学エネルギーに変換し、貯蔵・輸送を容易にしたもの。SOFCはエネルギーキャリアで発電できるだけでなく、逆反応でエネルギーキャリアを製造することも可能であるため、応用が期待されている。[参照元へ戻る]


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