発表・掲載日:2013/08/29

酵母を利用して非可食バイオマスから高機能界面活性剤を量産

-食糧との競合を避け、バイオマス由来の化学品を低コスト化-

ポイント

  • 酵母と非可食バイオマス(非可食油)を使った天然由来の界面活性剤(バイオサーファクタント)の量産技術を確立
  • 今回得られたバイオサーファクタントは、合成界面活性剤に比べて、少量で各種の機能を発揮
  • 高い生分解性や優れた洗浄能を示すため、洗浄剤や日用品などへの幅広い利用に期待

概要

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 中鉢 良治】(以下「産総研」という)環境化学技術研究部門【研究部門長 柳下 宏】北本 大 副研究部門長、井村 知弘 主任研究員らは、アライドカーボンソリューションズ株式会社【代表取締役社長 山縣 洋介】(以下「ACS」という)、国立大学法人 琉球大学【学長 大城 肇】(以下「琉球大」という)農学部【学部長 川本 康博】和田 浩二 教授らと共同で、非可食バイオマスから「バイオサーファクタント」と呼ばれる、天然由来の高機能な界面活性剤を量産する技術を確立した。

 低炭素社会への意識が高まる中、化学産業では、石油だけに依存しないで、再生可能資源を巧みに活用することが重要となっている。特に、食糧と競合しない非可食バイオマスからの多様な化学品製造は急務となっている。既に、非可食バイオマスのバイオ燃料への利用は進んでいるが、合成技術やコスト面の制約から、これまで化学品への利用は非常に限られていた。

 今回、酵母を使った発酵プロセスにより、非可食バイオマスの一つであるマフア油からバイオサーファクタントを直接生産することに成功し、発酵条件や生成物の分離方法の最適化によって、安価かつ大量に供給する技術を確立した(図1)。このバイオサーファクタントは、低濃度でも優れた洗浄性能を発揮する一方で、高い生分解性を示すため、環境に優しい洗浄剤やシャンプーなどのトイレタリー製品への展開が期待される。


酵母菌を利用した非可食バイオマスからのバイオサーファクタント生産の工程図
図1 酵母菌を利用した非可食バイオマスからのバイオサーファクタント生産

研究の社会的背景

 地球温暖化などの問題が顕在化する中で、化石資源からの脱却を目指し、石油からバイオマスなどの再生可能資源への原材料転換を推進する技術開発が重要になっている。特に、非可食バイオマス(セルロースやマフア油など)は、食糧と競合しないため安定供給でき、価格変動も少ないといった利点から注目されている。既に、非可食バイオマスのバイオ燃料への利用は進んでいるが、合成技術やコスト面の制約から、これまで化学品への利用は非常に限られていた。しかし、バイオマスの活用を加速するために、燃料よりも付加価値の高い化学品への用途展開が望まれている。

 一方、界面活性剤は、国内だけでも年間100万t以上が生産され、台所洗剤やシャンプーなどの日用品から、機械、建築、土木など幅広い産業で汎用される化学品である。使用後に環境中に拡散される可能性もあるため、安全で環境負荷が少なく、より少量で機能を発揮する高機能な製品が求められている。現在、界面活性剤の多くは石油由来であるが、酵母菌や納豆菌といった微生物が、各種のバイオマスから作り出すバイオサーファクタントは、環境や生体に対して優しいだけでなく、石油由来の界面活性剤に比べて極めて低濃度でも効果を発揮する。環境負荷だけでなく原料転換や高機能化の観点からも、バイオマスを原料とする製品開発が求められている。

研究の経緯

 産総研では、環境に優しいバイオ素材開発の一環として、バイオサーファクタントの研究に取り組み、独自にスクリーニングした酵母菌を用いた発酵プロセスにより、大豆油などの植物油から効率的に生産できることを発見していた(2006年9月7日 産総研プレス発表)。同時に、琉球大と共同でバイオサーファクタントの原料の多様化や機能解析にも着手し、その特性を生かした応用研究を進めていた。一方、ACSでは化石燃料の代替として、非可食油から燃料を製造する事業を展開しており、これまで蓄積してきたノウハウを生かして、より付加価値の高い化学品を軸とする新規事業を模索していた。今回、ACSが産総研のバイオサーファクタントの研究開発に着目し、共同研究を行った。

研究の内容

 産総研では、ACSから提供された非可食油であるマフア油(インド原産)から、バイオサーファクタントを生産できる微生物を探索し、十数種類の菌株の中から、ある種の酵母菌がバイオサーファクタントを効率的に生産できることを見いだした。さらに、今回マフア油から生産されたバイオサーファクタントの構造決定も行った。図2に、得られたバイオサーファクタントの化学構造を示す。また、このバイオサーファクタントの機能を調べたところ、非常に低濃度でも優れた界面活性(洗浄性能など)を発揮し、高機能の界面活性剤としての応用が期待できることがわかった(図3)。


今回のバイオサーファクタントの構造面の画像
図2 今回のバイオサーファクタントの構造

バイオサーファクタントの界面活性の画像
図3 バイオサーファクタントの界面活性
●は各濃度のバイオサーファクタント水溶液の表面張力値。*臨界ミセル濃度(CMC)は界面活性剤の性能の目安で、値が低い方が、より少量で洗浄性能を発揮。γCMCは、臨界ミセル濃度(CMC)における表面張力値。

 さらに、琉球大と共同で、発酵時の酵母菌の培養液の組成(油、窒素類、ビタミン類、無機塩類など)や培養条件を最適化した。これらの基盤技術を基に、ACS が工業的な製造の検討を進めて、非可食バイオマスであるマフア油からバイオサーファクタントの量産化にめどを付けた。ACSは、今回、量産技術を確立したバイオサーファクタントを、新しい事業の柱と位置づけ、業界各メーカーにサンプル供給を開始した。

今後の予定

 産総研では、新たな構造や特性を持つバイオサーファクタントの探索・開発を続け、バイオマス由来の化学品の製造・利用促進に貢献していく。

 ACSは、既に業界各メーカーにサンプル供給を行っているが、早ければ今秋にも、今回のバイオサーファクタントを使用した製品が生産される。また、製造のコストダウンも推し進め、優れた洗浄性能と低環境負荷を生かして、環境浄化を始め幅広い技術分野への用途展開を進める。


用語の説明

◆非可食バイオマス
再生可能な生物由来の資源であるバイオマスのうち、食糧と競合しないもの。食糧と競合するパーム油、菜種油、大豆油などと違って、食糧として用いることのできないマフア油、ジャトロファ油などの非可食油や、セルロースなどの木質系バイオマス、微細藻類などがある。[参照元へ戻る]
◆バイオサーファクタント
微生物が生産する天然由来の界面活性剤。糖系、アミノ酸系、高分子系など各種の構造のものがある。特徴として、1)高い生分解性を示し環境に優しい、2)幅広い界面活性作用(乳化・分散・保湿)を持ち、化学合成品に比べて低濃度で効果を発揮する、3)抗菌性や抗腫瘍活性などの生理活性を示す、ことが挙げられる。環境適合性と機能性を兼ね備えた新しいバイオ素材として、食品、化粧品、ライフサイエンス、環境、エネルギー分野での応用が研究されている。[参照元へ戻る]
◆界面活性剤
一つの分子の中に水に馴染みやすい親水基と、馴染みにくい疎水基を併せ持った物質。界面に作用して、水と油のように互いに混じり合わない液体を混ぜ合わせたり(乳化)、固体の表面に作用して、各種の媒体中に分散(分散安定化)させたりすることができる。洗浄を始めとして、繊維、化粧品・医薬、土木・建築、紙・パルプ、機械・金属など、幅広い産業で汎用されている。[参照元へ戻る]
◆マフア油
熱帯・亜熱帯に生育するアカテツ科(学名:Sapotaceae)の常緑木本である「マフア(Madhuca)」の種子から搾られる非可食の植物油。マフアの木はインド中・北部にMadhuca indica種を主体にMadhuca latifoliaMadhuca longifolia種の亜種が広く自生している。種子あたり20~50 %と豊富な油含量が特徴。[参照元へ戻る]

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