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発表・掲載日:2013/07/16

電気絶縁性とシール性に優れた産業用ガスケット

-粘土膜と膨張黒鉛シートを積層し広範な用途に使用可能-

ポイント

  • 粘土とポリイミドのコンポジット膜と膨張黒鉛シートの多積層構造
  • 極低温から高温までの幅広い温度範囲で高いシール性を発揮
  • 高電気絶縁性によりガスケットやフランジの電蝕を防止

概要

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 中鉢 良治】(以下「産総研」という)コンパクト化学システム研究センター【研究センター長 花岡 隆昌】蛯名 武雄 首席研究員らの研究グループと、ジャパンマテックス株式会社【代表取締役 塚本 勝朗】(以下「ジャパンマテックス」という)、住友精化株式会社【社長 上田 雄介】(以下「住友精化」という)は、粘土ポリイミドからなるコンポジット膜膨張黒鉛シートを交互に積層させた産業用シートガスケットを開発した(図1)。このガスケットは極低温から高温までシール性能に優れ、電気絶縁性であるため、フランジが腐食しにくい。

 今回開発したガスケットでは、コンポジット膜が膨張黒鉛シートの細かい隙間に入り込んで一体化した構造とすることにより、金属を使わずにシール性を著しく向上できた。極低温(-196 ℃)におけるシール性は、従来最もシール性に優れているステンレス膨張黒鉛多積層構造ガスケットを上回り、シートガスケットとしては世界最高レベルである。今回、多積層シートガスケットの製造方法を確立し、室内リークテストにより、高いシール性能を確認したが、さらに実プラントの高温蒸気配管に使用して性能評価を行い、高いシール性と耐久性を確認した。

 地熱発電所、車両用ガスケットをはじめ、石油精製、石油化学、電力、製鉄、製紙プラントなど多くの産業分野で、幅広い温度条件下の配管部分のシール材としての使用が期待される。

 この成果の詳細は、2013年7月24日~26日に東京ビッグサイト(東京都江東区)で開催される、第8回 再生可能エネルギー世界展示会で発表される。

開発したガスケットの構造の写真
図1 開発したガスケットの構造

開発の社会的背景

 多くの化学産業分野では、プラントの配管連結部などで、液体や気体の漏れ(リーク)を防止するために、ガスケットが用いられている。従来、高温となる部分のガスケットにはアスベスト製品が広く用いられてきたが、アスベストが厳しく規制され、代替品として膨張黒鉛製品が用いられるようになってきた。しかし、一般の膨張黒鉛製品は、粉落ち、焼付き、シール性の低さなどの問題点があった。また、高温で使用できるガスケットとしてはバーミキュライトという粘土鉱物に有機物を加えシート状に成形したものが用いられてきたが、十分に緻密でないため、シール性が悪いという問題があった。そのため、幅広い温度範囲で使用できるガスケットの開発が求められていた。

研究の経緯

 産総研は、平成16年に、粘土結晶を主原料として樹脂を少量添加し、ピンホールのない均一な厚みの粘土膜「クレースト®」を開発した。クレーストは柔軟で耐熱性に優れたガスバリア膜である。

 ジャパンマテックスは、以前から膨張黒鉛ガスケット製品を製造・販売していたが、膨張黒鉛製品とクレーストとの複合化を提案し、平成17年度に、産総研と共同で基礎研究を開始した。その成果を基に、クレーストをコーティングした新しい膨張黒鉛ガスケット製品を開発し、原子力発電所を含め国内約50カ所の事業所で使用され、これらの製品の導入により非アスベスト化を達成した事業所を生み出すなどの成果をあげ、第2回ものづくり日本大賞優秀賞を受賞した。その後も、さらなる高温条件下で使用可能なシール材の製造技術の開発、製品評価試験などを行った(平成22年9月13日 産総研プレス発表)。

 しかしこれらのガスケットは、さらにシール性を高めるためには、金属板の枠をはめたり、金属板で覆ったりする必要があり、電気絶縁ができず、ガスケットとフランジに電蝕によるさびが発生するという問題点があった。

 住友精化は、高機能材料開発への展開を行う上で、産総研の粘土膜技術に注目し、共同研究を開始した。多種多様な粘土とプラスチックの組み合わせの中から従来よりも飛躍的に取り扱い性が向上したコンポジット膜を見いだし、学校法人 東京理科大学 山下 俊 准教授のポリイミドに関する知見を合わせて、さらなる取り扱い性の向上や、優れた膜特性の把握などを行うとともに、原料ペーストの生産プロセスを確立した(平成23年8月30日 産総研プレス発表)。

 今回、この3者で、コンポジット膜と膨張黒鉛シートとの多積層化により、幅広い温度範囲で使用でき、電気絶縁性のガスケットの開発に取り組んだ。

研究の内容

 粘土とポリイミドからなるコンポジット膜と膨張黒鉛シートを積層する場合、十分な密着性を得ることが重要である。そこで、種々の候補材料の中から適した粘土とポリイミドを選択し、これらの混合比率や混合方法を決定した。さらに多積層化するプロセスの条件を最適化するなどして、コンポジット膜が膨張黒鉛シートに侵入した微細構造の、1 m×1 mの大判多積層シートの製造に成功した。なお、ここで用いた粘土の結晶は平板形状であり、結晶が針状のアスベストとは異なり人体に対し無害である。

 次に、室内評価試験によって、シール性などガスケットとしての基本性能を確認した。得られた多積層シートを打ち抜き、ガスケットを試作し評価を行ったところ、強度や圧密などの各種試験の全てで良好な評価結果が得られた。さらに-196 ℃~350 ℃までの広い温度範囲において、高いシール性能を示すことを確認した。以前に開発したガスケットに比べリーク量を3割~5割低減できた。特に低温領域では、これまでに開発した膨張黒鉛粘土膜コート製品、ステンレス膨張黒鉛積層タイプ製品を上回る良好なシール性能を発揮する(図2)。

各種ガスケットのシール性比較の図
図2 各種ガスケットのシール性比較

 今回開発した多積層シートは絶縁性に優れた疎水性の粘土を用いているため、高い電気絶縁性を示し、電蝕によるフランジ腐食を防止することが期待される。地熱発電所での使用を想定して、硫黄を含む酸性模擬地熱水を用いた腐食実験を行ったところ、金属板を使用した従来のガスケットではフランジ表面に腐食が発生したのに対し、今回開発した多積層ガスケットでは腐食が観察されなかった。

 以上の結果を受けて、住友精化別府工場の実際のプラントの高温配管部で今回開発したガスケットの実証試験を行った。流体は、温度200 ℃、圧力25気圧の水蒸気であるが、2カ月の試験期間中、高いシール性を示し、取り出した後もガスケットの劣化や、フランジ表面への焼付き、さびの発生は見られず、高い易交換性を実証した(図3)。

実プラント実証試験の実施箇所と剥離後の様子の写真
図3 実プラント実証試験の実施箇所と剥離後の様子
(住友精化別府工場)

今後の予定

 今後さらに広範な性能評価試験や長期耐久性の評価を行うと同時に製品の大量生産技術を確立し、ジャパンマテックスから6カ月以内の製品化を目指す。



用語の説明

◆粘土
2 µm以下の微細な、層状珪酸塩。ケイ素と酸素からなる四面体シートとアルミニウム、鉄、マグネシウムなどの金属元素と酸素、および水酸基からなる八面体シートが重ね合わさり、厚さ約1 nmの単位結晶となる。[参照元へ戻る]
◆ポリイミド
繰り返し単位にイミド結合を含む高分子の総称であり、通常は芳香族化合物が直接イミド結合で連結された芳香族ポリイミドを指す。全ての高分子中で最高レベルの耐熱性を持つ。[参照元へ戻る]
◆コンポジット膜
2種類以上の素材を混合して作製された膜状材料のこと。有機物と無機物を混合されていることが多く、中でも、数十nm程度よりも小さな粒子の無機物が均一に有機物の中に練り込められているものを有機無機ナノコンポジット膜という。[参照元へ戻る]
◆膨張黒鉛
純度の高い天然の黒鉛結晶を化学処理、熱処理することによって得られる材料である。薄片状黒鉛結晶が剥離し、膨潤することから膨張黒鉛と呼ばれる。これを成型した黒鉛シートなどは工業材料として広く用いられている。[参照元へ戻る]
◆ガスケット
パイプやフランジなどの接合部に挟み込む薄板状の詰め物。1枚のシートで供給され、これを任意形状に切り取ったものをシートガスケットという。[参照元へ戻る]
◆フランジ
軸や管などの端に付いている鍔(つば)。また、端に取り付ける輪状の金具。ガスケットを挟み込んで、締め付けることにより配管を連結する。[参照元へ戻る]
◆ステンレス膨張黒鉛多積層構造
ステンレス板と膨張黒鉛シートをそれぞれ複数枚重ねあわせた構造。この構造を持つガスケットは、エネルギー・石油化学分野などで、特に耐熱性とシール性が同時に要求される部分に用いられている。[参照元へ戻る]
◆アスベスト
蛇紋石や角閃石が繊維状に変形した天然の鉱物のこと。蛇紋石系(クリソタイル)と角閃石系(クロシドライトなど)に大別される。石綿の繊維一本の細さは、髪の毛の5000分の1程度である。 耐久性、耐熱性、耐薬品性、電気絶縁性などの特性に非常に優れると同時に安価である。日本では「奇跡の鉱物」として珍重され、建設資材、電気製品、自動車、家庭用品など、さまざまな用途に広く使用されてきたが、人体への影響の問題から、現在は完全に製造禁止となった。[参照元へ戻る]
◆バーミキュライト
粘土鉱物の一種。蛭石(ひるいし)とも呼ばれる。高温で焼成したものは多孔質で保水性がよく、園芸で土壌改良材や栽培用土壌として用いられる。[参照元へ戻る]
◆ピンホール
小さな穴のこと。ガスバリア材料では、気体分子が透過する貫通孔のことを指し、これがあるとガスバリア性が著しく低下する。[参照元へ戻る]
◆粘土膜「クレースト®」

産総研で開発された、粘土を主成分とする膜材料。耐熱性、高ガスバリア性などが特徴。合成の粘土を用いることにより透明なフィルムも作製可能。
http://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2004/pr20040811/pr20040811.html[参照元へ戻る]

◆電蝕
通電性のある2種の金属が接合された際に、イオン化傾向が大きい方の金属が腐食してしまうという現象。[参照元へ戻る]

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