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発表・掲載日:2011/09/02

電力可視化システムを低コストで構築

-国家標準に基づいた校正システムで電力計測器の計測値の精度を評価-

ポイント

  • きめ細やかに使用電力値を取得し、その精度を保証できる
  • クラウドサーバー上で使用電力情報をリアルタイムに収集、蓄積
  • 事業所、工場、データセンターなどにおける電力使用量の削減に期待


概要

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 野間口 有】(以下「産総研」という)情報技術研究部門【研究部門長 関口 智嗣】スマートグリッド研究グループ 村川 正宏 研究グループ長および計測標準研究部門【研究部門長 三木 幸信】電磁気計測科 昆 盛太郎 研究員らは、安価な電力計測器を開発し、それを用いた電力可視化システムを産総研内の計算サーバー室に構築した。これにより、計算サーバー室内に設置されたサーバーごとの使用電力情報をきめ細かく可視化することができ、電力使用量の削減につながると期待される。

 今回開発した電力計測器は1台で4点の同時測定が可能で、市販のクランプ型電流センサーと安価なワンチップマイコンで構成したため低コスト(量産時で計測点1点あたり2,500円程度)で製作できる。また国家標準に基づいた校正システムを開発したことで、電力計測器の精度を保証することができる。この校正システムを用いて電力計測器を評価したところ誤差は1%程度で、低コストながらも電力可視化システムとして十分な精度が得られているとわかった。また、この電力計測器の計測値をインターネット上のクラウドサーバーに収集、蓄積する電力可視化システムを構築した。クラウドサーバー(Google App Engine)を利用することで、合計249点を計測し計算サーバーごとに使用電力を可視化するシステムを短期間で構築できた。

 このように計測値の精度の保証ができる電力可視化システムを低コストかつ短期間で構築できることから、工場内のさまざまな機械ごとの使用電力情報をきめ細かく可視化できる電力可視化システムへの応用が可能であり、事業所や工場における電力使用量の削減への貢献が期待される。さらに、データセンター全体の省電力化を目指し、サーバーごとの電力使用状況を可視化するとともに、電力使用量とデータセンターが処理する仕事量の変動に応じて稼働する機器数を自動で効率的に調整する技術開発を行う予定である。

開発した電力計測器の写真(左:全体) 開発した電力計測器の写真(右:信号処理部)
開発した電力計測器(左:全体、右:信号処理部、信号処理部サイズ:W90 mm×D45 mm×H25 mm)


開発の社会的背景

 東日本大震災後の電力不足に対応するため、電気事業法第27条に基づく「電力使用制限令」が東京電力と東北電力の管内で発動されており、契約電力が500 KW以上の大口需要家に対しては、昨年比15%の節電が求められている。大口需要家においてはこの制限を守るため、電灯をこまめに消すなどの単純な節電にとどまらず、輪番休業や工場の生産計画の変更、事業所や情報システムの資源再配置など多岐にわたる節電対策をとっている。このような節電対策を計画する際に、いつどこでどれだけの電力を使用しているかを把握することは必要不可欠なため、事業所ごと工場ごとの電力可視化システムの普及が始まっている。よりきめ細やかな節電計画を立てるためには、事業所内の分電盤ごと、さらにはブレーカーごとの細分化した単位での電力可視化が必要となるが、必要な電力計測器数が多くなるため、そのコストが問題になっている。

 また、電力可視化システムで得られたデータを、課金に用いたり生産のコスト計算に組み込んだりするケースも想定されるが、その際に電力計測器の計測値の精度をどう保証するのかも課題となっている。

研究の経緯

 産総研では、平成22年度より、国家標準にトレーサブルな、電力計測器用の校正システムの開発を進めていた。平成23年3月の東日本大震災後、産総研の節電計画立案に貢献するため、平成23年4月から、この校正システムを活かした分電盤のブレーカーごとの電力可視化システムの開発を始めた。開発においては、以下の4点を基本方針とした。1.電力不足が本格化する夏までの短い期間で迅速に立ち上げる、2.既存の技術を活用し確実に動作するシステムとする、3.安価な市販電子部品を用いて、できるだけ安価な電力計測器とする、4.測定点が後からでも容易に増やせるスケーラブルな構成とする。これらの基本方針に基づきシステムの全体構成を決定し、システムの各要素の開発を進めた。

研究の内容

 産総研では節電対策として、所内の主要な計算サーバーを、1か所の計算サーバー室に集約することとしている。これは計算サーバーを分散設置すると、計算サーバーの排熱に対応した空調を分散して個別に稼働させることになり、効率が悪くなるためである。そこで計算サーバー室に集約されたサーバーごとの使用電力を今回開発した電力計測器で計測し、サーバーの利用者がリアルタイムで視認できるシステムを構築した。

電力可視化システムの全体構成の図
図1 電力可視化システムの全体構成

 図1に示すシステムは主に4つの開発要素からなる。(1)電力計測器、(2)データ収集器、(3)データ収集サーバー、(4)可視化アプリケーション、である。このシステムの規模は、電力の測定点が249点(電力計測器を66台(配置の関係で4点すべてで計測を行っていない電力計測器がある)、データ収集器を4台で構成)である。以下それぞれの開発要素の特徴を説明する。

(1)電力計測器とトレーサビリティの付与

 電力計測器は、図2に示す電力計測基板と、最大4つまで接続可能な電流センサーからなる。これにより単相100/200 Vであれば最大4点計測できる。また工場内の大型装置などでよく使用される三相200 Vについても、2つの電流センサーを組み合わせることで最大2点計測できる。電流センサーは、測定したい電流ラインを挟み込むだけで電流が測定できるクランプ型電流センサー(市販品)を用いた。電力計測基板は、電流センサーの計測値を1秒間に6,400回サンプリングして電力値を計算する。これにより、電流波形が高調波により複雑に乱れていても正確な計測が可能となる。計算された電力値は1秒ごとに、データ収集器に送信される。

 この電力計測基板は信号処理方式の工夫やデータ収集器との通信にシリアル通信方式を採用したことで、安価な汎用ワンチップマイコンを利用できるため低コストで生産できる。電流センサーを含めて量産時には1万円程度(計測点1点あたり2,500円程度)で生産することが可能である。

電力計測基板の写真
図2 電力計測基板

トレーサビリティの概略図(左)と電力計測器の評価結果(右)の図
図3 トレーサビリティの概略図(左)と電力計測器の評価結果(右)

 図3(左)にこの電力計測基板に対するトレーサビリティの概略図を示す。今回開発した電力計測器校正システムは国家標準にトレーサブルであり、この校正システムを用いて電力計測器を評価することで、その測定値を保証できる。

 図3(右)に、校正システムを用いて電力計測器10台(電流センサー40個)を抜き取り評価した結果を示す。これは、公称値500 W(電圧100 V、電流5 A、力率1、周波数50 Hz)の電力を室温23℃±1℃の環境下で入力した場合の、電力計測器の計測値と公称値のずれを示したグラフである。多少のばらつきはあるものの、ずれは1%程度であり、電力メーターに一般的に要求される性能(2%以内)を満たしている。

(2)データ収集器

 電力計測器の電力値をインターネット上のデータ収集サーバーに直接送信すると、通信回数が増加してしまうため、データ収集器で電力値を中間的に収集し、一定時間後にデータ収集サーバーにまとめて送信するシステム構成とした。図4に示したデータ収集器には、最大で32台の電力計測器が接続でき、各電力計測器から1秒ごとに送信されてくる電力値を収集する。収集した電力値を整形、蓄積し、20秒ごとにインターネット上のデータ収集サーバーにまとめて送信する。

 データ収集器と各電力計測器は汎用のLANケーブル(RJ-45コネクタ)で接続してある。データはシリアル通信によって送信し、通信に使用しない信号線を利用して電力計測器への電源供給も行う。このため、電力計測器設置時に別途コンセントなどからの電源供給回路を設置する必要がなく、工期短縮およびコスト削減が可能となった。

データ収集器の写真
図4 データ収集器(サイズ:W400 mm×D250 mm×H60 mm)

(3)データ収集サーバー

 データ収集サーバーは、データ収集器から送信されてくる電力値を最終的に集約し、すべての測定点の使用電力量をデータベース化する。サーバーとしては、Google App Engineを利用した。クラウドサーバーを利用することで249点の計測データをリアルタイムに収集しデータベース化するシステムを、3か月という短期間で開発し運用開始することができた。またシステム規模の拡大にも容易に対応することができる。

(4)可視化アプリケーション

 可視化アプリケーションは、データ収集サーバー上に蓄積されたデータベースから電力使用量をダウンロードし、ユーザーが視認できるようにする。データ収集サーバーからのダウンロードにはシンプルなRESTプロトコルを策定して、WebアプリケーションやWindowsアプリケーションなどさまざまなアプリケーションを接続可能とした。

 このアプリケーションとしては、東芝ソリューション株式会社との共同研究により、同社が提供する使用電力見える化クラウドサービス(図5)と接続した。このサービスにより、30分単位での電力使用量がWebブラウザ上でグラフ化され、電力使用傾向が容易に把握できる。

 また、より細かい電力使用量を把握するために、1分単位で電力使用量がグラフ化されるアプリケーションや、パソコン上で現在の電力使用量が簡単に確認できるWindowsアプリケーションの開発も行った(図6)。

東芝ソリューション株式会社「使用電力見える化クラウドサービス」の画面例の図
図5 東芝ソリューション株式会社「使用電力見える化クラウドサービス」の画面例

可視化アプリケーションの例の図
図6 可視化アプリケーションの例
(左側:Webブラウザ上で確認可能な1分間隔の電力使用量グラフ、右側:電力使用量が簡単に確認可能なWindowsタスクトレイに常駐するアプリケーション)

今後の予定

 計算サーバー室内のサーバーごとの電力使用量が可視化されたため、計算サーバー室の空調に要する費用についてもサーバーの使用者に対して電力使用量に応じてそれぞれ可視化することを検討している。これにより、サーバー使用者の節電意識をより喚起し、節電につなげたい。

 今回の成果は、多くの様々な機器を利用している事業所や工場における機器ごとのきめ細かな電力可視化システムの構築についても、低コスト、短期間での実現が可能であることを示したことから、大口需要家の電力使用量の削減への貢献が期待される。

 さらに、データセンター内機器の電源断制御による省電力化に、今回開発した使用電力情報収集技術を応用することも検討している。これはデータセンターが処理する仕事量の変動に合わせて、稼働する機器を自動的に増減して消費電力を調整する技術との連携である。具体的には、仕事量が減ったときに一部のサーバーに仕事を高速に集約し、残りのサーバーの電源を落とすことで全体として省電力化を図り、この集約化のスケジューリングに各サーバーの電力使用状況をリアルタイムにフィードバックすることで、さらなる集約の効率化および消費電力量の削減が期待できる。


用語の説明

◆クランプ型電流センサー
測定したい点を外側から挟み込んで電流量を測定するセンサーのこと。電流により周囲に誘起される磁界を計測して電流量を測定する。[参照元へ戻る]
◆ワンチップマイコン
マイクロコンピュータの一種で、コンピュータを構成する上で必要なデバイスをひとつのチップ内に集積したもの。一般的に、CPU、RAM、ROM、各種入出力機能などが搭載されている。[参照元へ戻る]
◆クラウドサーバー
クラウドサーバーとは、クラウドコンピューティングの概念において、インターネット上のどこかにある仮想的なサーバーのこと。ユーザーの実行したい処理は、このクラウドサーバーで実行し、端末側のパソコンやノートパソコンなどではクラウドサーバーと通信し、実行結果を取得、表示するという情報処理形態となる。なお、今回利用したGoogle App Engineは、Google社が提供するクラウドサービスの一つ。 [参照元へ戻る]
◆トレーサブル
測定器の信頼性を確保するために、測定器は標準器によって校正され、その標準器はより正確な(不確かさのより小さい)上位の標準器によって校正される。このように、より上位の標準器を求めていくと国家標準にたどり着く。産総研計量標準総合センターの管理する日本の国家標準は国際標準と同等なものであることが確認されている。このように測定器が校正の連鎖によって国際標準にたどり着けることが確かめられている場合、この測定器は国際標準にトレーサブルであるといい、その測定器の信頼性が証明されていることになる。[参照元へ戻る]
◆スケーラブル
システム規模の拡大や縮小に対して、大規模な変更を加えることなく対応できること。[参照元へ戻る]
◆三相200 V
3本の電線で三相交流200 Vを供給する配線方式のこと。三相交流は一般に動力電源とよばれ、工場などで使用するモーターなどの電動機や、大型の電熱器、業務用空調機などで使用される。[参照元へ戻る]
◆サンプリング
アナログ信号を一定時間ごとに測定し、デジタル化(数値化)すること。[参照元へ戻る]
◆高調波
交流電源の電圧波形は基本的に正弦波(周波数は50 Hzまたは60 Hz)であるが、これに電気機器を接続したときに流れる電流は必ずしも正弦波とならず、歪んだ波形となることがある。この歪んだ波形は、電圧波形と同じ周波数の波と、(その周波数の)整数倍の周波数の波に分解することができる。この整数倍の周波数の波を高調波という。[参照元へ戻る]
◆公称値
計器の特性に関する近似値であり、使用の指針となるよう記載等されている値。例えば、公称値「100 Ω」と記載された抵抗器については、実際には、この抵抗器の値は厳密に100Ωちょうどではなく、機器の使用に問題のないある幅の範囲内で公称値からずれた値を持っている。より正確な値を知るためには、適切な手段による校正などが必要となる。[参照元へ戻る]
◆REST
Representational State Transfer のこと。HTTPプロトコルのGET、POST、DELETE、PUTといった基本的なメソッドを利用し、Webサービスを呼び出す手法を指す。シンプルであり、簡単にWebサービスを利用できる特徴がある。[参照元へ戻る]


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