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発表・掲載日:2010/09/16

各種半導体酸化物のマクロポーラス化技術を開発

-多孔質透明薄膜を一段階で簡便に成膜-

ポイント

  • ポリスチレン系界面活性剤を利用して各種半導体酸化物薄膜のマクロポーラス化に成功
  • スピンコート法により一段階で成膜し、焼結することで簡便に透明な多孔質薄膜を製作可能
  • 半導体酸化物の電気的特性とマクロ孔内の空間を同時に利用した新たなデバイス開発に期待

概要

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 野間口 有】(以下「産総研」という)先進製造プロセス研究部門【研究部門長 村山 宣光】は、各種半導体酸化物の多孔質薄膜を作製できる汎用的なマクロポーラス化技術を開発した。この技術は半導体プロセスに適用可能なスピンコート法による一段階プロセスで、これまで困難であったマクロ孔の多層化や連結性の制御が可能である。

 この技術は、ポリスチレン(PS)系界面活性剤が極性溶媒中で球状に集合しやすい性質を利用したもので、界面活性剤の疎水部であるPSユニットを内側、親水部{例えばポリエチレンオキシド(PEO)}ユニットを外側にしたコアシェル構造の球状体が形成される。この極性溶媒中に各種半導体酸化物の前駆体である金属オキソ種が存在していると、成膜する過程で溶媒が揮発するのに伴い球状集合体が隣接するようになり、溶解している酸化物の前駆体は親水部ユニットと相互作用してシェル付近に集まる。この薄膜を焼結して界面活性剤を除去するとマクロポーラス半導体酸化物薄膜が得られる(図1)。この技術により半導体酸化物の電気的特性とマクロ空間を同時に利用した新たなデバイスの開発が期待される。

 また、TOTO株式会社【代表取締役社長 張本 邦雄】と共同で、色素増感型太陽電池の原理を利用した新たなセンサーを提案した。マクロポーラス半導体酸化物薄膜を電極とし、色素標識した生体分子をマクロ孔内に固定化したところ、極めて選択的な分子認識機能を示す高感度センサーが得られた。

 なお、この技術の一部は、2010年9月19日~22日に千葉県幕張市で開催されるナノ領域のコロイド・表面科学国際会議(NCSS2010)で発表される。

PS系界面活性剤を利用したマクロポーラス薄膜の製造技術の図
図1 PS系界面活性剤を利用したマクロポーラス薄膜の製造技術

開発の社会的背景

 多孔質構造は、分子の拡散性を良くしたり、孔内部に特異反応場を構築したりすることで、材料の機能を飛躍的に向上させる可能性を秘めている。多孔質構造を精密に設計するためには、有機分子を構造規定材として利用する手法が有用であり、均一で規則的な細孔構造をもつ多孔質材料を作製できる。大きなマクロ空間をもつ多孔質材料を製造するために、PSなどの球状粒子の規則的な積層構造を転写する方法があるが、多段階の合成プロセスが必要である。しかも、スピンコート法で成膜すると、溶媒の揮発速度が速いために球状粒子が規則的に積層する前に薄膜が形成され、球状粒子が孤立して薄膜内部に導入されてしまうことが多い。

 最近ではPS系界面活性剤を利用した合成も報告されるようになってきたが、孔径は最大でも30 nm程度であり、数nm程度の小さな孔で連結しているに過ぎない。また、PS系界面活性剤を利用して合成された酸化チタン薄膜では、クレーター状の凹凸構造が生成するだけで、多孔質構造は得られていない。

 半導体酸化物のマクロポーラス薄膜を製造できれば、DNAやタンパク質などの巨大な生体分子を大量に取り扱うことのできるマクロ空間が得られるようになり、半導体酸化物の電気的特性と生体分子の選択的な化学反応を組み合わせた新たなデバイス開発につながると期待されている。

研究の経緯

 産総研では、多孔質構造を制御して高付加価値化した各種酸化物材料の製造技術を開発し、各種デバイス用材料としての利用を積極的に推進してきた。特に界面活性剤を利用した多孔質構造のナノ構造制御に関して、高度な構造制御技術や組成制御技術を開発してきた。

 平成18年度からは、半導体酸化物のマクロポーラス薄膜の製造技術開発と電極材料としての応用に関する研究開発に取り組み、界面活性剤を利用して100 nmを超えるようなマクロ空間を有する薄膜の製造技術の開発を行っている。今回、これまで困難であったマクロ孔の多層化や連結性の制御を、半導体プロセスに適用可能なスピンコート法による一段階プロセスで実現した。

 なお、本研究開発は、経済産業省の戦略的技術開発委託費「高感度環境センサ部材開発(平成18年度~22年度)」を受けて行ったものである。

研究の内容

 本技術は、PS系界面活性剤が極性溶媒中で球状に集合しやすい性質を利用している。PS系界面活性剤は、極性溶媒中では疎水部であるPSユニットを内側、親水部(例えばPEO)ユニットを外側にしたコアシェル構造の球状集合体を形成する。この極性溶媒中に目的とする半導体酸化物の前駆体である金属オキソ種を均一に溶解させておくと、スピンコート法で成膜する過程での溶媒揮発に伴って、溶解している酸化物の前駆体と親水部ユニットが相互作用しながら球状集合体が隣接するようになる。酸化物の前駆体が球状集合体の親水部ユニット付近に集まった構造の薄膜を生成するが、これを焼結して球状集合体を除去すると、その部分が空孔となりマクロポーラス半導体酸化物薄膜が得られる(図1)。

 この方法によって球状集合体、すなわち空孔を多層化することも可能である。また、空孔の直径はPS系界面活性剤の分子量によって制御できる。さらに、PS系界面活性剤と酸化物前駆体の量を変化させて、空孔を孤立させたり、連結させたりすることが可能である。DNAやタンパク質などの巨大な生体分子が通過できるような10 nmを超える大きな連結孔も存在する。この方法で、酸化チタン、酸化スズ、酸化亜鉛などの典型的な各種半導体酸化物のマクロポーラス薄膜を作製できた(図2)。マクロポーラス構造は耐熱性が高く、これらの酸化物は焼成過程で透明性を保持したまま結晶化させることが可能であり、色素増感型太陽電池やガスセンサーなど光電変換デバイスの電極材料として利用できる。

焼成後の各種マクロポーラス薄膜表面の走査型電子顕微鏡像の写真
図2 焼成後の各種マクロポーラス薄膜表面の走査型電子顕微鏡像

 各種半導体酸化物のマクロポーラス薄膜を電極部材として用い、色素増感型太陽電池の原理を利用したセンシング機構を示す。生体分子に色素分子を標識して色素増感型太陽電池のエネルギー伝達経路を形成させる。光を照射すると色素分子は励起状態になり、光励起したエネルギーが電極に移動すれば電流として検出できる。例えば、生体分子1分子に色素分子を1つ標識しておき、まず蛍光を測定して色素分子の吸着量(= 生体分子の吸着量)を正確に決める。色素吸着量と電流値との関係を予め測定しておくと、電流値から生体分子の吸着量を定量的に求めることができるセンサーとして利用できる。また、電流として検出できるので装置の小型化が可能になる。

 マクロポーラス酸化チタン薄膜をフッ素導入酸化スズ(FTO)基板電極上に成膜し、色素で標識したDNA分子を吸着させて、上記のセンシング機構について検証した。FTO基板電極(凹凸表面)自体やメソポーラス酸化チタン薄膜(FTO基板電極上に成膜)ではDNA分子は薄膜の表面にしか吸着しないが、マクロポーラス酸化チタン薄膜では薄膜内部の空孔にもDNA分子を取り込むことができるので、吸着量が3倍程度増大した(図3)。標識色素を光励起して発生する光電流を計測した結果、マクロポーラス酸化チタン薄膜では他の薄膜と比べて光電流が100倍以上も大きくなっていた(図3)。色素標識DNA吸着量の増大だけでなく、マクロポーラス薄膜ではFTO基板電極の近くにもDNAが吸着しているので、効率的なエネルギー移動経路ができ、電流値の飛躍的な向上につながったと考えられる。

マクロ孔内への色素標識したDNAの吸着実験と色素増感型太陽電池の原理を利用した光電流の測定の図
図3  マクロ孔内への色素標識したDNAの吸着実験(左)と色素増感型太陽電池の原理を利用した光電流の測定(右)

 今回作製したマクロポーラス薄膜の空孔は、生体分子が関与するより複雑で選択的な反応系にも適用できる。5-10 nm程度の巨大なタンパク質が3分子(1次抗体XG69、2次抗体5A6、抗原PSA、2次抗体の標識色素Cy5)関与する免疫検定(イムノアッセイ)系をマクロポーラス薄膜内に構築した(図4)。それぞれの分子は空孔を連結する孔を通過できるので、空孔内部のマクロ空間で3分子が関与する抗原抗体反応を進行させることができる。薄膜電極表面に1次抗体を固定化しておくと、抗原が存在する場合だけ2次抗体が結合することができる。2次抗体を色素で標識し、マクロポーラス酸化スズ薄膜を電極部材として上記の抗原抗体反応系を構築したところ、蛍光により測定した色素吸着量と2次抗体を標識した色素分子から発生した光電流値とは良い相関を示した(図4)。マクロ空間を利用することで、生体分子の極めて高い分子認識機能を活かした選択的なセンサーができるものと期待される。

マクロ孔内での免疫検定系の構築の図
図4 マクロ孔内での免疫検定(イムノアッセイ)系の構築

今後の予定

 空孔内部のマクロ空間を利用した特異反応場の構築などを通じて、新たなデバイス開発を行いたい。併せて、孔径の範囲の拡張、複合組成材料の開発を進め、各種の応用での機能を向上させるための多孔質半導体酸化物薄膜の最適構造モデルの提案につなげたい。


用語の説明

◆マクロポーラス
孔径分布が50 nmより大きいことを示す。IUPAC(国際純正応用化学連合)の定義では、多孔質材料は孔径分布で分類されており、2 nm未満のものをミクロポーラス、2-50 nmのものをメソポーラス、50 nmより大きいものをマクロポーラスと呼ぶ。[参照元へ戻る]
◆スピンコート法
溶液を基板上に滴下し、その基板を高速回転させることで溶媒を除去して成膜する方法。[参照元へ戻る]
◆ポリスチレン(PS)系界面活性剤
界面活性剤とは、分子構造中に親水部と疎水部を同時にもつ両親媒性分子のことを指す。ポリスチレン系界面活性剤には、例えば、疎水的な役割を果たすポリスチレン(PS)ユニットと親水的な役割を果たすポリエチレンオキシド(PEO)ユニットから構成されたブロック共重合体がある。[参照元へ戻る]
◆コアシェル構造
文字通り、卵の中身と殻のように、材料の中心部分(コア)と外側部分(シェル)で組成や構造が異なる構造。[参照元へ戻る]
◆金属オキソ種
オキソ酸(酸素酸)は分子中に酸素原子を含む酸であり、ここでいう金属オキソ種とは極性溶媒中でオキソ酸から水素が解離して生じる陰イオンのこと。[参照元へ戻る]
◆色素増感型太陽電池
可視光を吸収しない銀塩や酸化物半導体表面上に、色素を吸着させることにより可視光応答性をもたせる色素増感作用を太陽電池に応用したもの。[参照元へ戻る]
◆分子認識機能
酵素反応に代表されるように、タンパク質の分子構造中の特定部位が特定の分子とだけ反応する性質を示す。化学物質の受容により感じる味覚や嗅覚なども分子認識に基づくものである。[参照元へ戻る]
◆構造規定材
ゼオライトなどの無機多孔体合成の際に添加される有機アミン類や有機アンモニウム塩のことを指し、無機化合物が結晶化する過程で構造内に取り込まれる。焼成により有機分子を除去すると均一細孔が形成する。界面活性剤などの分子集合体を構造規定剤として利用すると、より大きな孔をもつメソポーラス物質などが得られる。[参照元へ戻る]
◆免疫検定(イムノアッセイ)
抗原と抗体の反応を利用して物質を定量的に測定する生化学的試験を示す。[参照元へ戻る]
◆抗原抗体反応
抗原と抗体が特異的に結合する反応のこと。[参照元へ戻る]


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