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発表・掲載日:2008/08/04

簡便な方法で酸化タングステンナノチューブの合成に成功

-可視光で働く光触媒として室内での応用に期待-

ポイント

  • 可視光での光触媒活性は、窒素ドープ型酸化チタンよりも8倍、粒子状酸化タングステンよりも3倍以上高い。
  • 低コストで大量合成が可能。
  • 室内の有害揮発性有機化合物の分解・浄化などへの応用に期待。

概要

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)ナノテクノロジー研究部門【研究部門長 南 信次】ナノ構造制御マテリアルグループ 宮内 雅浩 主任研究員とZHAO Zhigang 産総研特別研究員は、簡便な水熱法で酸化タングステンのナノチューブを合成することに成功した。開発したナノチューブは、酸化タングステンの微結晶の集合体からなり、壁の部分にナノメートルオーダーの細孔が存在するナノポーラス構造を持つ。ナノポーラス構造を持つため比表面積が大きく、それによって高い光触媒活性を示す。

 この酸化タングステンナノチューブに助触媒として白金を用いて、可視光を照射して気相アセトアルデヒドを分解したところ、従来の窒素ドープ型酸化チタンよりも8倍、白金助触媒を使用した従来の粒子状酸化タングステンよりも3倍以上の高い可視光での光触媒活性を示した。

 水熱法で合成できるため低コストで大量合成が可能であり、紫外線の少ない室内環境でも有害な揮発性有機化合物(VOC)等を分解・浄化できる「安全、健康住宅部材」への実用化が期待される。

 本成果は、ドイツのWILEY-VCH社発行の学術誌、Angewandte Chemie-International Edition誌(アンゲバンデ・ケミ誌)に掲載される予定。

酸化タングステンナノチューブの走査型電子顕微鏡の写真

酸化タングステンナノチューブの走査型電子顕微鏡写真


開発の社会的背景

 光触媒は光を当てることにより有害物質を分解したり抗菌機能を示したりする。また、外壁材にコーティングすると、汚れがつきにくくなる自己浄化作用を発揮する。代表的な光触媒として酸化チタンが知られているが、酸化チタンは紫外線でしか光触媒機能を発揮しないため、室内などの紫外線の少ない環境での効果は不十分であった。室内の有害なVOCの分解・浄化のようなシックハウス対策への応用など、室内で使うために可視光で働く光触媒が望まれている。近年になって窒素ドープ型酸化チタン等の可視光で機能する光触媒が報告されているが、その性能は不十分であった。一方、最近になって、単純酸化物である酸化タングステン(WO3)の表面に白金やパラジウムの金属粒子や銅化合物等の助触媒を用いると可視光で高い活性を示すことが明らかとなってきた。しかしながら、市販の酸化タングステン粒子はサイズが大きく、比表面積が小さくなるため、必ずしも光触媒のベースとなる材料としては適切ではなかった。また、現状では酸化タングステンのナノ粒子の合成例は乏しく、酸化タングステン系光触媒のさらなる高活性化のため、ナノ構造を制御した酸化タングステン粒子の開発が望まれていた。

研究の経緯

 これまで産総研エネルギー技術研究部門では、酸化タングステン光触媒にパラジウムや銅化合物微粒子を助触媒として混練するだけで、飛躍的に活性が向上することを見出している(プレス発表2008年7月9日)。一方で産総研ナノテクノロジー研究部門では、特にベースとなる酸化タングステンの粒子自体に着目し、ナノ構造を制御することによる高活性光触媒の創製を目標として開発をおこなってきた。

 なお、本開発は独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「循環社会構築型光触媒産業創成プロジェクト」の中で東京大学と共同実施をおこなって得られた成果である。
 

研究の内容

 合成した酸化タングステンナノチューブの走査型電子顕微鏡写真を図1に示す。ナノチューブは100nm以下の微結晶の集合体からなり、ナノチューブの壁の部分に大きさが数10nmの多数の細孔が存在し、高い比表面積をもつナノポーラス構造であった。このナノチューブの大きさは、外径が300~1000 nm、長さが2~20µmである。合成方法は極めて簡便で、密閉容器内で出発原料と溶媒を加熱する水熱法によって収率良く合成することができる。本研究では、水熱反応溶液の中に尿素を導入することでナノチューブの形成が可能になることを見出したことにより、高収率の合成プロセスが開発できた。今回用いた水熱法では、高価な鋳型剤が不要であるため、低コストで、大量合成が可能な製造プロセスとなり得る。

酸化タングステンナノチューブの走査型電子顕微鏡写真

図1 酸化タングステンナノチューブの走査型電子顕微鏡写真

 得られた酸化タングステンナノチューブの表面に助触媒として白金微粒子を担持し、気相アセトアルデヒドの分解試験をおこなった。波長400nm以上の可視光の照射によってアセトアルデヒドの濃度が減少するとともに、分解生成物である二酸化炭素が発生し、可視光による光触媒活性を示した。図2に可視光の照射による二酸化炭素の発生速度を示す。今回開発した酸化タングステンナノチューブ(図2(4))は、従来の窒素ドープ型酸化チタン(図2(2))と比較して約8倍高い活性を示した。また、市販の粒子状の酸化タングステンに同様に白金を担持したサンプル(図2(3))と比較しても、白金を担持した酸化タングステンナノチューブは3倍以上高い可視光による触媒活性を示した。

 また、今回開発した酸化タングステンナノチューブは、可視光の照射でアセトアルデヒドを二酸化炭素に完全分解できることも確認した。

可視光を照射した場合のアセトアルデヒド分解試験結果の図

図2 可視光を照射した場合のアセトアルデヒド分解試験結果

今後の予定

 酸化タングステンナノチューブの高い可視光活性の要因は、大きな比表面積を持つナノポーラス構造によるところが大きい。今後は、ナノチューブの内壁、外壁に選択的に助触媒を担持することで、さらなる高活性化をめざす。また、コーティング部材への応用を考えた薄膜化プロセス等を開発していく。


用語の説明

◆水熱法
水を含む高温高圧の溶媒の中で行われる化合物の合成方法のこと。常温常圧では溶媒に溶けない物質も容易に溶解するため、通常は得られないような物質の合成、成長が可能である。通常はオートクレーブと呼ばれる密閉容器中に出発原料を入れ、容器を密閉したまま加熱することで、生成物を得る。人工水晶などがこの方法で得られる。[参照元へ戻る]
◆ナノチューブ
直径がナノメートルオーダーの管状物質のこと。炭素からなるカーボンナノチューブが良く知られている。[参照元へ戻る]
◆ナノポーラス
構造中にナノメートルオーダーの細孔を持つ多孔体のこと。国際純正応用化学連合(IUPAC)の分類によれば、マイクロポーラス固体(孔径が2nm以下)、メソポーラス固体(孔径が2nmから50nm)マクロポーラス固体(孔径が50nm以上)に分類される。本研究は、メソポーラス孔径の材料の研究となるが、本文中では「ナノポーラス材料」と表現する。[参照元へ戻る]
◆光触媒
光触媒は光吸収により励起され、酸化反応および還元反応を引き起こす触媒物質である。光触媒は光照射によって化学反応を促進させるがそれ自体は変化しない。不均一系の半導体光触媒や均一系の色素光触媒などがあるが、本発表は前者。半導体触媒は伝導帯と価電子帯が禁制帯で隔てられたバンド構造を持つ。バンドギャップ以上のエネルギーを持つ光により、価電子帯の電子が伝導帯に励起され、伝導帯に電子が、価電子帯にその抜け殻の正孔が生成する。伝導帯に励起された電子は価電子帯の電子よりも還元力が非常に強く、暗時では起こらない還元反応を起こすことができる。同様に、正孔も強力な酸化反応を起こす。[参照元へ戻る]
◆助触媒
光触媒の表面に添加することで活性を向上させる物質のこと。助触媒自体には光触媒機能はない。助触媒として、例えば、白金や銀等の金属や銅イオン等が良く使われている。助触媒の役割は、活性サイトとして働いたり、電荷の蓄積により多電子反応を促進したり、電荷分離を促進するなどさまざまである。[参照元へ戻る]
◆窒素ドープ型酸化チタン
酸化チタンの結晶格子の中に窒素イオンがドープされている物質のこと。ドープされた窒素イオンが不純物準位を形成することで可視光を吸収することができ、近年では有望な可視光応答型光触媒として期待されていた。[参照元へ戻る]
◆可視光での光触媒活性
可視光は400nm(380nm)から800nmまでの波長領域の光である。代表的な光触媒である二酸化チタンはちょうど可視光より短い波長の光を利用する紫外光応答性光触媒であるので、一般には二酸化チタンの吸収より長い波長の光を利用できる光触媒が可視光応答性光触媒とされる。[参照元へ戻る]
◆揮発性有機化合物(VOC)
常温常圧で大気中に容易に揮発する有機化学物質の総称のこと(Volatile Organic Compounds)。大気や土壌などへ放出されると、シックハウス症候群や土壌汚染等の健康被害を引き起こすことから問題視されている。[参照元へ戻る]
◆鋳型剤
一般にナノポーラス材料を合成する際に用いられる添加剤。界面活性剤の凝集体(ミセル粒子)が良く用いられる。界面活性剤の種類に応じて一定の大きさと構造をもつミセル粒子が形成され、しばらく静置すると、ナノ粒子が周期的に配列した構造体であるコロイド結晶となる。例えば、メソポーラスシリカを合成する場合には、コロイド結晶を含む溶液中にシリカ源と触媒を加え高温で焼成する。これにより、コロイド結晶が分解・除去されて、シリカ中にメソポーラス構造が形成される。[参照元へ戻る]

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