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発表・掲載日:2008/02/26

金属型と半導体型のカーボンナノチューブを高い回収率で分離

-簡便・安価に大量生産が可能-

ポイント

  • ゲル電気泳動法により金属型と半導体型のカーボンナノチューブの分離に成功
  • 簡便、安価に金属型と半導体型のどちらも高い回収率で分離でき、大量生産が可能
  • カーボンナノチューブデバイスの開発を強力に推進

概要

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)ナノテクノロジー研究部門【研究部門長 横山 浩】自己組織エレクトロニクスグループ 片浦 弘道 研究グループ長、田中 丈士 研究員は、ゲル電気泳動の手法を用いて、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)を金属型SWCNTと半導体型SWCNTに簡便に分離することに成功した。

 カーボンナノチューブ(CNT)には、金属型と半導体型の相反する性質のものが存在する。しかし、金属型または半導体型SWCNTの選択的な合成法や、量産可能な金属型と半導体型SWCNTの分離手法がなかった。今回、産総研は、アガロースゲル電気泳動法を用いることで、簡便に金属型と半導体型のSWCNTを分離できることを世界に先駆けて発見した。特に、SWCNTを前もってゲルに閉じこめた状態で電気泳動を行うという手法を開発し、ほぼ全てのSWCNTを金属型と半導体型に分離することができた(図1)。この手法は、回収率が高く、分離時間も短いという特徴がある。また、電気泳動法の設備は安価・簡便で、大型化も容易であり、金属型、半導体型SWCNTの大量生産につながると考えられる。

 成果の詳細は、2008年3月3~5日に名城大学で開催される第34回フラーレン・ナノチューブ総合シンポジウムと、2008年3月27~30日に日本大学で開催される第55回応用物理学関係連合講演会で発表予定である。

SWCNTのゲル電気泳動による金属型・半導体型分離と分離後の光吸収スペクトルの図
図1 あらかじめゲル中に封入したSWCNTのゲル電気泳動による金属型・半導体型分離(左)と分離後の光吸収スペクトル(右)半導体型が多く含まれる領域1は緑色に、金属型が多く含まれる領域2は青みを帯びた灰色となる。


開発の社会的背景

 SWCNTは炭素原子の並び方によって、金属的な性質のものと半導体的な性質のものが存在する。通常、SWCNTはこれらの相反する性質のものの混合物となっている。もし、高純度に分離精製できれば、金属型SWCNTでは、資源の確保が問題となっている希少金属を用いた透明導電材料の代替品として液晶ディスプレイや太陽電池パネル用の透明電極への利用が期待される。また、高純度の半導体型SWCNTでは、高易動度・高速・透明トランジスタや超短光パルス発生、光スイッチなどとしての利用が見込まれている。

 現状では、これらの電気的性質の異なるSWCNTを選択的に合成する手法がないため、混合物からそれぞれのSWCNTを分離することが試みられている。しかしながら、これまでの金属型・半導体型SWCNTの分離法はいずれも、回収率や純度、コストなどに問題があり、大量に分離精製する段階には至っておらず、安価で大量処理が可能な金属型SWCNTと半導体型SWCNTを分離する手法の開発が強く望まれていた。

研究の経緯

 上記の様な背景のもと、産総研はSWCNTの金属型・半導体型分離技術の開発を最重要課題の1つに設定し、研究を推進してきた。その中で、SWCNTと同程度のナノスケールのサイズを持つ、DNAやタンパク質などの生体分子の分離に、ゲル電気泳動の手法が多用されていることに着目し、ゲル電気泳動によってSWCNTを分離精製することを試みた。

研究の内容

 寒天の主成分であるアガロースをゲルとして用いるアガロースゲル電気泳動法は、生物学分野でDNAの分離に広く用いられている手法である。まず、SWCNTに適用するため、超音波処理や遠心分離などを用いて、SWCNTを分散させた水溶液を調製した。このSWCNT分散溶液を試料として、アガロースゲル電気泳動を行ったところ、電気泳動先端と後端でSWCNTの色の違いが見て取れた(図2)。

SWCNT分散溶液のゲル電気泳動による金属型・半導体型分離と分離後の光吸収スペクトルの図
図2 SWCNT分散溶液のゲル電気泳動による金属型・半導体型分離(左)と分離後の光吸収スペクトル(右)

 光吸収スペクトル測定により金属型・半導体型の比率を評価したところ、ゲル下部の青みを帯びた灰色の部分に金属型SWCNTが、ゲル上部の緑色の部分に半導体型SWCNTが濃縮されていた。すなわち、アガロースゲル電気泳動では、金属型SWCNTは半導体型SWCNTよりも早く移動し、分離できることが判明した。しかしながら、90%以上のSWCNTはゲルの中央部に混合物のままで残るため十分な回収率が得られなかった。

 回収率の向上のため様々な条件での分離精製を検討して、SWCNTを水溶液試料とするのではなく、あらかじめSWCNTを分散状態で含ませたゲル(SWCNT分散ゲル)を調製し、その試料に対して電気泳動を行うと分離効率が劇的に改善されることを発見した(図1)。つまり、SWCNT分散ゲルに対して電気泳動を行うと、金属型SWCNTだけが移動して、はじめに含まれていたゲル部分から抜け出すが、半導体型SWCNTは、最初の試料位置から移動しないという現象が起った。結果として電気泳動に使用した試料のほぼすべてを金属型と半導体型に分離することが可能となった。通常のゲル電気泳動では分子量や長さの違いにより試料が分離されるが、SWCNTに見られる現象は全く異なる原理によるものと考えられる。

 さらに、平均直径や直径分布の異なるSWCNT試料について、SWCNT分散ゲルを用いた電気泳動による分離を行なった(図3)。これらの場合でも金属型と半導体型のSWCNTに分離することができ、直径分布に対応した異なる色調をしめすSWCNTを得ることができた。このことは、金属型と半導体型の分離が、様々な種類のSWCNTに対しても有効であり、この手法の汎用性が高いことを示している。

異なる種類のSWCNTのゲル電気泳動による金属型・半導体型分離の図
図3 異なる種類のSWCNTのゲル電気泳動による金属型・半導体型分離(試料はSWCNT分散ゲル)

今後の予定

 今回のアガロースゲル電気泳動による金属型と半導体型のSWCNTの分離手法は、産総研で独自に開発したものであるが、まだその分離原理の詳細は明らかでない。今後は、未知の分離原理の解明に向けた研究を進め、より純度や効率の良い分離手法の開発を目指す。

 金属型、半導体型SWCNTの大量生産による産業応用を推進するため、大量分離精製および、分離精製したSWCNTを用いたデバイス開発を目指すパートナー企業を求めている。


用語の説明

◆ゲル電気泳動
電荷をもつ物質を電界中におくと反対の符号を持つ電極の方へと移動する。これが「電気泳動」であるが、この電気泳動をゲル中で行うものが「ゲル電気泳動」である。一般的なゲル電気泳動では、ゲルの網目構造が分子ふるいとして働き、物質は分子量や長さなどの違いで分離される。[参照元へ戻る]
◆単層カーボンナノチューブ
単層カーボンナノチューブ(SWCNT)は炭素原子からなる、直径0.7~4 nm(1ナノメートル:10億分の1メートル)程度の筒で、黒鉛と同じく、6角形のネットワークによってできている。6角形の並び方の違いで、半導体的性質を示したり、金属的性質を示したりする。金属型と半導体型は、直径がほぼ同じであっても、全く異なった光吸収スペクトルを示すことが知られている。[参照元へ戻る]
SWCNTの構造による金属型、半導体型の変化の図
SWCNTの構造による金属型、半導体型の変化 図中(n,m)は構造の指標を表す。白丸と赤丸が重なるようにシートを丸めると金属型SWCNT、白丸と青丸が重なるようにシートを丸めると半導体型SWCNTとなる。合成直後のSWCNT試料は金属型SWCNTと半導体型SWCNTの混合物であり、全体の約1/3が金属型となる。
◆アガロース
海藻に含まれる多糖類であり、寒天の主成分。熱水に溶かした後、冷やし固めることによりゲル化する。分子生物学分野では、このゲルを使用したアガロースゲル電気泳動がDNAの分離手法として日常的に用いられている。[参照元へ戻る]


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