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発表・掲載日:2005/04/04

金属ガラスの新しい創製技術の開発に成功

-金属ガラスの実用化に活路-

ポイント

  • 急冷に頼らずに金属ガラスができる
  • 電場と磁場とを同時に印加することにより発生する電磁振動力を利用
  • 大型素材の製造が可能
  • 金属ガラスの構造材料への展開が可能

概要

 独立行政法人産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)サステナブルマテリアル研究部門【部門長 鳥山 素弘】は、電磁振動力を利用して、従来金属ガラス作製に必要とされた急冷に頼ることなく金属ガラスを創製するという新たな技術を開発した。金属ガラスは、機能材料のみならず構造材料としても優れた特性を有しており、地球環境問題や循環型社会の構築に必須の産業材料として大きな期待がかけられている。今回開発した技術は、金属ガラスの実用化を推進する重要な成果である。

 金属ガラスは、原子配列が全く不規則なガラス状態の非晶質金属である。結晶体ではないため粒界がなく、そのため強度、耐食性、磁性などにおいて優れた特性を示す。例えば、金属ガラスは結晶質合金に較べて遙かに高い強度を持っていると同時に大きなたわみ性を有している。また、外部磁力にも直ちに反応する優れた軟磁気特性を持つ。さらに金属ガラスは、二次加工性にも優れているため、ネットシェイプ加工することが可能である。これらの特性から、電子機器、自動車用部品、マイクロマシン部品、化学プラント部品、医療機器部品などのニアネットシェイプ部品の加工工程を省くことができるため、省エネルギーへの貢献が期待できる。しかしながら、従来はバルクの金属ガラスを創製するためには、できるだけ急冷することが必要であった。

 今回、産総研サステナブルマテリアル研究部門凝固プロセス研究グループは、凝固中の合金に対して、交流電場と直流磁場とを同時に印加して電磁振動力を発生させることにより、従来のように急冷方法に頼ることなく金属ガラスを創製できることを世界で初めて見出した。

 今回、開発したプロセスでは、従来のように金属ガラスを得るために高速で急冷する必要がない。これにより、粉末、細線や箔帯のような小さな素材ではなく、棒材などの大型の素材が容易に作製できるようになった。優れた特性を持ちながら、これまで構造材料への応用が難しかったバルクの金属ガラスを容易に製造できるようになり、例えば輸送機器等の部材として、金属ガラスを利用する道を拓いた。

 この成果の詳細は、英国科学誌Nature Materials 2005年4月1日号(速報電子版3月6日)に掲載された。(題目:Electromagnetic vibration process for producing bulk metallic glasses 著者:田村卓也、網谷健児、ルディ ラクマット、水谷予志生、三輪謙治)

 なお、本研究開発は、平成14年度から開始した「革新的部材産業創出プログラム事業 高機能高精度省エネ加工型金属材料(金属ガラス)の成形加工技術プロジェクト」において、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託のもとに行われた。


研究の背景

 金属ガラスは、従来急冷が必要で、粉末、細線や箔帯のような小さな素材しか作製できなかった。しかしながら、それの持つ特性を活かすことで、電源の小型化や高効率化を必要とする電子機器、強度を必要とする自動車用部品、マイクロ成形加工を必要とするマイクロマシン部品、耐食性を必要とする化学プラント部品、耐食性やマイクロ加工性を必要とする医療機器部品などへの応用が大きく期待されている。そこで、冷却速度の影響に左右されにくい金属ガラスを創製する方法の開発を目指した。

研究の経緯

 金属材料はその結晶粒組織をできるだけ小さくすることが、強度を初めとする種々の特性を向上させる最も良い方法である。我々の研究グループでは、凝固中の金属に交流電流と直流磁場を同時に加えると、図1に示すように電磁振動力を発生し、それによって凝固中にできる結晶が著しく微細化されることを見出し、種々の合金に対して電磁振動により結晶粒を微細化する技術を開発してきた。このプロセスは、凝固中にできる結晶粒子を電磁振動力によって粉々に砕くことにより微細化させるものである。結晶は液体からできる時に、結晶の基となる数個の原子の集団(クラスター)を核としてさらに原子が吸着して大きく成長し目に見える大きさの結晶となる。このクラスターの状態を電磁振動力でさらに小さくすることができれば、液体から結晶ができてこなくなることが類推される。通常の合金では、クラスターをより小さい状態に保って、結晶に成長させないようにすることは非常に難しい。しかし、原子配列が全く不規則なガラス状態の金属では、クラスターをより小さくすることにより、結晶に成長させずに金属ガラスとして凝固させる可能性がある。そこで、金属ガラスに比較的なり易い合金系を選んで開発に取り組んだ。


電磁振動の説明図
図1 電磁振動の説明図

研究の内容

 金属ガラスが比較的できやすいマグネシウム合金(Mg-Y-Cu)を選んで、凝固中に交流電流と直流磁場を同時に加えてやると電磁振動力を発生し、その状態で凝固させると、特定の電磁振動条件において図2に示すように金属ガラスができることを見出した。特定の電磁振動条件以外では金属ガラスがわずかしかできないか、または全く金属ガラスにならず、普通に凝固させた場合と同様の結晶ができる。また、電磁振動力を加えるタイミングは、図3に示すように液体状の合金が凝固する直前が重要である。


電磁振動力による金属ガラス形成能の変化の図
図2
電磁振動力による金属ガラス形成能の変化
(磁場強度を可変し、電磁振動力を変化)
印加電流:5A、電流周波数:5000Hz

金属ガラス形成能に及ぼす液体状態での電磁振動印加の図
図3
金属ガラス形成能に及ぼす液体状態での電磁振動印加
時間の影響
印加電流:5A、電流周波数:5000Hz、磁場強度:10T

このプロセスの有効性は、マグネシウム系以外の合金系(Fe系)でも確認している。

今後の予定

 本研究で開発した金属ガラス創製技術を他の合金系にも適用して、容易に創製できる条件を求めると共に、金属ガラスの実用化に向けて、大型素材が量産化できるシステムの開発を行う。


用語の説明

◆金属ガラス
金属ガラスは、原子配列が全く不規則なガラス状態の非晶質金属である。結晶体ではないため粒界がなく、そのため強度、耐食性、磁性などにおいて優れた特性を示す。例えば、金属ガラスは結晶質合金に較べて遙かに高い強度を持っていると同時に大きなたわみ性を有している。また、外部磁力にも直ちに反応する優れた軟磁気特性を持つ。さらに金属ガラスは、二次加工性にも優れているため、ネットシェイプ加工することが可能である。金属ガラスの中に、微細なナノ結晶が分散していても質的には変わりがなく、これを含めて広義の金属ガラスという。[参照元へ戻る]
◆電磁振動力
導体に直流電流と直流磁場をそれぞれ直行する方向に同時に加えることにより、これらの両場と直行する方向に力が発生する。今、この電流を交流にすると、発生する力もこの交流電流と同じ周波数で振動する。これを電磁振動力という。溶融金属は導体であるので、同じように電磁振動力を作用させることができる。機械的な振動と違って、電磁振動力の場合は、電荷単体に振動力が作用するため、導体に均一に振動を与えることができる。[参照元へ戻る]
◆ネットシェイプ加工
素材が最終製品となるまでに、通常は何回かの加工工程を経る。しかし、加工法によっては、一度の加工工程で最終製品に仕上げることができる。このように、一度で最終製品となる形状を付与する加工法のことをネットシェイプ加工と言う。例えば、ダイカスト法では、溶けた金属を射出成形機で金型へ圧入することにより、最終製品を得ることができる。[参照元へ戻る]
◆ニアネットシェイプ部品
ネットシェイプ加工に較べて、最終製品を得るために、さらに1~2工程多い成形加工プロセスをニアネットシェイプ加工といい、それによって得られる部品をニアネットシェイプ部品という。[参照元へ戻る]
◆バルク
粉末や箔帯や細線のような細かなものと違って、棒材や塊状物のようなある程度のまとまった大きさ、量のあるもののことをいう。細かなものを構造材料として使用するためには、ある程度の大きさにまで固めて大きくする必要がある。バルク材では、圧延、押出、成形加工により形状付与することにより、種々の構造部材として使用することができる。[参照元へ戻る]


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