発表・掲載日:2005/03/29

北海道太平洋岸の津波浸水履歴図を作成

-産総研、地質学調査と津波シミュレーションの研究成果で地域防災に貢献-

ポイント

  • 17世紀の巨大地震によって発生した北海道東部太平洋岸地域の巨大津波による浸水域を地形図上に図示
  • 2003年十勝沖地震による津波のデータと17世紀の巨大地震によって発生した北海道東部太平洋岸地域の津波のデータとの比較が可能
  • 北海道の地域防災計画作成の基礎資料として活用されることで、より効果的な防災計画の立案が可能

概要

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)活断層研究センター【センター長 杉山 雄一】及び地質情報研究部門【部門長 富樫 茂子】は、これまでに北海道東部太平洋岸地域で実施してきた、地質学的手法による現地調査と津波シミュレーションの研究成果により、『北海道太平洋岸の津波浸水履歴図』(以下「履歴図」という)を作成した。

 産総研は、全国の活断層や海溝で発生する大地震の長期予測のために、過去の地震履歴の調査・研究を実施している。本履歴図は、その一環として行った北海道東部太平洋岸地域の地質学的手法による調査結果と津波シミュレーションをもとに作成されており、17世紀に千島海溝で発生したプレート間地震の連動による巨大地震によってもたらされた北海道東部太平洋岸地域の津波と2003年十勝沖地震による津波のデータが収録されている。

 本履歴図により、17世紀の巨大地震によって発生した北海道東部太平洋岸地域の津波の津波高が明らかにされるとともに、2003年十勝沖地震による津波のデータとの比較が可能となった。また、この中の5箇所については、詳細な浸水域や浸水深、最大流速等が地形図上に示されている。

 地方公共団体等はそれぞれ地域防災計画を策定しているが、本履歴図は、北海道の地方公共団体等が策定する地域防災計画の改定の際の基礎資料として、利用することが可能である。これにより、これまでに発生した巨大津波のデータを元に、今後起こりうる巨大津波の被害予測が出来るようになるため、より効果的な防災計画の立案が可能となる。また、北海道以外の地域においても、津波災害予測図等を作成する際の基準になるものと期待される。

 産総研では、今後、海溝で発生する大地震の長期予測のため、北海道太平洋岸地域沖の千島海溝沿いで堆積物や地質構造調査を実施するとともに、北海道以外の太平洋岸地域においても津波堆積物調査を実施する予定である。また、海外では、南米チリやスマトラ沖地震による津波堆積物調査を予定している。

 本履歴図は、CD-ROMとして出版され、委託販売先* より購入可能である。

* 「北海道太平洋岸の津波浸水履歴図」 地質調査総合センター 地質図類購入案内
 

北海道太平洋岸の津波浸水履歴図の表示例の図
図.北海道太平洋岸の津波浸水履歴図の表示例(17世紀の巨大地震による津波と2003年十勝沖地震による津波の、根室市南部沼、浜中町霧多布湿原、厚岸町床潭沼、音別町馬主来沼、及び大樹町生花苗沼の5箇所についての津波の到達時間と津波高の比較図)

研究の背景

 産総研では、全国の活断層や海溝で発生する大地震の長期予測を行うため、過去の地震の履歴を調査・研究している。その一環として平成9年度以来、北海道東部の太平洋岸において、過去の地震・津波・地殻変動の痕跡調査を行ってきた。

研究の経緯

 北海道東部の歴史記録は19世紀初頭(西暦1800年頃)以降しかないため、それ以前の地震や津波については、地質学的手法で調査・研究を行う必要がある。平成15年度には、津波堆積物の調査と津波シミュレーションから、17世紀に北海道南東沖の千島海溝でプレート間地震の連動による巨大地震が発生し、巨大な津波が発生していたことを明らかにした(2003年8月7日産総研プレス発表)。

研究の内容

 産総研は、北海道東部太平洋岸地域において、これまで行ってきた津波堆積物調査と、断層モデルに基づく津波シミュレーションにより、北海道東部太平洋岸地域の津波浸水履歴図を作成した。

 本履歴図では、根室市から浦河町に至る北海道東部の太平洋沿岸において、17世紀に発生したプレ-ト間地震の連動による巨大地震で発生した津波と2003年に発生した十勝沖地震による津波の到達時間と津波高がどのように変化するかを図示するとともに、根室市南部沼、浜中町霧多布湿原、厚岸町床潭沼、音別町馬主来沼、及び大樹町生花苗沼の5箇所について、津波堆積物、最高水位、及び最大流速の各分布図を示した。

 また、2003年の十勝沖地震と17世紀のプレ-ト間地震の連動による巨大地震の断層モデルによる海底及び海岸での地殻変動を図示するとともに、断層パラメーターを表に示した。

 さらに、浜中町の霧多布湿原における津波浸水のアニメーション画像も見ることができる。

今後の予定

 地方公共団体等はそれぞれ地域防災計画を策定しているが、本履歴図は、北海道の地方公共団体等が策定する地域防災計画の改定の際の基礎資料として、利用することが可能である。これにより、これまでに発生した巨大津波のデータを元に、今後起こりうる巨大津波の被害予測が出来るようになるため、より効果的な防災計画の立案が可能となる。また、北海道以外の地域においても、津波災害予測図等を作成する際の基準になるものと期待される。

 また、産総研では、海溝で発生する大地震の長期予測のため、北海道東部地域沖の海溝沿いで堆積物や地質構造調査を実施するとともに、仙台平野や南海トラフ沿岸域等、北海道以外の太平洋岸地域においても津波堆積物調査を実施する予定である。さらに、海外では、南米チリやスマトラ沖地震の津波被災地等において、津波堆積物調査や地震に伴う地殻変動の研究を計画している。


用語の説明

◆津波シミュレーション
津波はその波長が水深に比べて十分大きいため、流体力学的には長波(浅水波)として扱うことができ、その伝播速度は水深にのみ依存する。実際の海底地形を数10~100 mの格子で与え、地震による海底地形変動を初期条件として、津波の伝播をコンピューターでシミュレーションし、沿岸の水位や遡上範囲を計算する。陸上への遡上を計算する際には、非線形効果が重要となるので、非線形長波の理論を採用する。[参照元へ戻る]
◆プレ-ト間地震
沈み込む海洋プレ-トと、陸側のプレ-トとの間に歪みが蓄積し、それが一気に解放されることによって発生する地震。世界中の巨大地震の多くはこのタイプで、北海道南東沖の千島海溝における1952年十勝沖地震(M 8.2)、1973年根室沖地震(M 7.4)、2003年十勝沖地震(M 8.0)がこれに含まれる。通常のプレ-ト間地震は、同じ破壊領域が100年程度の繰り返しで発生するといわれているが、数100年に一度隣り合う破壊領域が連動して巨大地震を発生させることがある。千島海溝では、津波堆積物の観察結果と津波のコンピューター・シミュレーションから、17世紀に十勝沖・根室沖の領域が連動して巨大地震を起こしたことが明らかにされている。[参照元へ戻る]
◆地質構造調査
人工的に地震波や音波等を発振し、その反射波を記録・解析することにより、地下の地質構造を明らかにするための調査。これにより、地殻変動や断層運動を把握することができる。[参照元へ戻る]
◆津波堆積物調査
地中に埋積された津波堆積物を検出することにより、過去の地震履歴や、津波の遡上範囲、浸水深、流向などを明らかにするための調査。堆積物が津波起源であるかどうかについて、堆積物の粒度や含まれる微化石等を解析することにより、総合的に検証する必要がある。[参照元へ戻る]
◆断層モデル
地震の震源を、ある有限の広がりを持った断層面としてとらえ、地震波を、その断層面上のずれの大きさや広がり方等によって説明するためのモデル。[参照元へ戻る]
◆断層パラメーター
各地の地震計に記録された地震波を解析することにより得られる、断層面の広さやその中でのずれの方向・大きさなど、断層の性質を表す数値。[参照元へ戻る]

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