発表・掲載日:2005/03/24

水素吸蔵合金の新溶製法を開発

-燃料電池車用超高容量水素搭載システムの構築を加速-

ポイント

  • 低沸点金属を含む水素吸蔵合金を、設計通りの組成に高精度で制御できる新溶製法の開発に成功
  • 従来困難であった溶解時の蒸発による金属微粉の発生を抑制することにより、作業性・安全性が向上
  • 燃料電池車に水素を搭載するための媒体として注目されている超高容量ラーベス系水素吸蔵合金の開発に寄与

概要

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川弘之】(以下「産総研」という)エネルギー技術研究部門【部門長 大和田野芳郎】は、日本重化学工業株式会社【代表取締役社長 米津 淑郎】(以下「日重化」という)と共同で、燃料電池自動車に水素を搭載するための媒体として期待されているマグネシウム、カルシウムおよびリチウム等の低沸点金属を含む水素吸蔵合金について、設計通りの組成に高精度で制御できる新溶製法の開発に成功した。

 これまでマグネシウム、カルシウムおよびリチウム等の低沸点、低融点金属とニッケルなど高融点金属の合金を溶製する場合、低沸点金属が溶解炉内に多量に蒸発し、設計通りの組成の合金を製造する事が非常に困難であり、また浮遊する金属粉による粉塵爆発の誘発などその安全性において問題を抱えていた。

 産総研と日重化は、溶解炉内の雰囲気に使用していた不活性ガスに着目し、これまで使用されていたアルゴンガスに代えてヘリウム混合ガスを用いることによって、これらの技術的課題を解決し、低沸点、低融点金属を含む合金および化合物を精密に目標の化学組成どおりに溶製する技術の開発に成功した。

 今回の成果は、水素吸蔵合金の開発を一層加速し、燃料電池車へ使用される水素搭載システムの実現に向け大きな進展をもたらすものといえる。

 本成果の詳細は、3/29~3/31に横浜国立大学で開催される日本金属学会2005年春期(第136回)大会において発表する予定である。
 

低融点合金用溶解炉の写真
写真1 低融点合金用溶解炉の外観
 
  溶解中の溶融金属の写真
写真2 溶解中の溶融金属の様子
 


研究の背景

 来る水素エネルギー社会を実現するためには、水素を大量かつ安全に貯蔵する技術の開発が望まれている。そのひとつにマグネシウム、カルシウムおよびリチウム等を代表とする軽量金属を主体とした高容量水素吸蔵合金の開発がある。

 新規水素吸蔵合金に用いられるこれら軽量金属の特徴として、融点および沸点が低いこと、溶融金属の蒸気圧が高いことがあげられる。そのため、これらの金属とニッケルなど高融点金属との合金を溶製する場合、低沸点金属が溶解炉内に多量に蒸発してしまい、設計通りの組成の合金を製造する事が非常に困難であった。また蒸発により発生した金属微粉の煙により視界が遮断され、合金が完全に溶融したか否か、撹拌が充分であるか否か等を目視により確認が出来ない等の問題もあった。さらには堆積した金属粉の除去作業や浮遊する金属粉による粉塵爆発の誘発など、その作業性・安全性においても問題を抱えていた。これらのことから、溶解時の蒸発による金属微粉の発生を抑制する技術が求められていた。

研究の経緯

 本成果は、独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構【理事長 牧野 力】の委託事業、水素安全利用等基盤技術開発「高容量水素吸蔵合金と貯蔵タンクの開発」(平成15~16年度)により得られたものである。

研究の内容

 産総研と日重化はこれらの問題を解決するため、溶解炉内の雰囲気に使用していた不活性ガスに着目し、様々な不活性ガスの検討を行った。その結果、これまで使用していたアルゴンガスに代えてヘリウム混合ガスを利用することによって、溶解時の蒸発による金属微粉の発生を抑制し、合金および化合物を目標の化学組成通りに溶製することを可能とする合金の新溶製法を開発した。

 この新溶製法を、現在開発中であるカルシウムとマグネシウムを主体とするラーベス系水素吸蔵合金に適用したところ、精密に目標の化学組成どおりに溶製することが出来、歩留まりも向上した【写真3】。

カルシウム系ラーベス系水素吸蔵合金の写真
写真3 新溶製法によって作製した5%級高容量
カルシウム系ラーベス系水素吸蔵合金

 この成果は、燃料電池車へ安全かつ高容量に水素を搭載するための媒体となる水素吸蔵合金の開発を一層加速するものである。

 また、この新溶製法は、デジタルカメラなどに使用されているニッケル水素電池用超高性能合金を安定に大量生産するためにも極めて有望な技術である。

 さらには、水素吸蔵合金のみならず、低融点、低沸点および高蒸気圧な元素を含む構造材料や機能性材料の開発および実用化に大きく寄与するものと期待される。

今後の予定

 今後は、産総研と日重化は共同で新溶製法を活用した高精度組成制御により安定して5質量%以上の水素を吸蔵・放出できる高容量水素吸蔵合金の開発をめざすこととしている。また、新溶解法の鍵となる技術であるヘリウム混合ガスの効果についても両者で協力して解析と検討を行う予定である。


用語の説明

◆ 水素吸蔵合金
水素を大量に、早い速度で、繰り返し吸蔵する合金。特に液体水素を凌ぐ体積密度で水素を吸蔵することができるので、燃料電池車への水素搭載、ニッケル水素電池の電極材料などに利用される。[参照元へ戻る]
◆ 合金
一種の金属元素と一種以上の金属元素または炭素・窒素・珪素など非金属元素とを混合したもの。様々な組織をもち、各々の構成元素とは違った性質をもつため、材料としての利用価値の高いものも多い。真鍮、ハンダ、鋼、形状記憶合金など様々な形で利用されている。[参照元へ戻る]
◆ 不活性ガス
反応性に乏しい気体の総称。一般的にはヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン、ラドンの6元素を指すことが多いが、本件のように、これらに加えて反応性に乏しい窒素等も含める場合もある。[参照元へ戻る]
◆ 蒸気圧
ある任意の温度において、物質の気体がその物質の液体あるいは固体と平衡状態になるような圧力を、その温度での蒸気圧と呼ぶ。蒸気圧が高い物質ほど、蒸発しやすい。[参照元へ戻る]
◆ ラーベス相(Laves phase
二種類の金属AおよびBからできる合金でAB2の組成比をもち、原子半径比が約1.2:1である一連の化合物。ラーベス構造を持つ水素吸蔵合金も数多く存在し、実用化されているものもある。[参照元へ戻る]
◆ 歩留まり
1から不良率を引いた数値のこと。ここでは溶製後の合金の質量を溶製前の原料質量で割った値を言う。[参照元へ戻る]


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