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お知らせ記事2023/04/11

令和5年度科学技術分野の文部科学大臣表彰を受賞

令和5年度科学技術分野の文部科学大臣表彰受賞者が4月7日に文部科学省にて決定され、産総研から科学技術賞開発部門を1件、若手科学者賞を2件受賞しました。

この表彰は、科学技術に関する研究開発、理解増進等において顕著な成果を収めた者について、その功績を讃えることにより、科学技術に携わる者の意欲の向上を図り、もって我が国の科学技術水準の向上に寄与することを目的として行われています。

 

科学技術賞 開発部門

受賞者

賞状を持つ受賞者の写真

地質調査総合センター 地質情報研究部門 脇田 浩二 名誉リサーチャー
地質調査総合センター 地質調査総合センター連携推進室 斎藤 眞 連携オフィサー
地質調査総合センター 地質情報研究部門 西岡 芳晴 上級主任研究員
地質調査総合センター 地質調査総合センター連携推進室 宮崎 一博 招聘研究員
地質調査総合センター 活断層・火山研究部門 宝田 晋治 上級主任研究員

 

業績名、概要

「デジタル社会の基盤情報となった全国地質図の開発」

地質図は社会の基盤情報地図ながら、専門家の利用に限られていた。また1990年代にデジタル地質図が作られたが、特定のソフトを必要とし、専門家の利用に限られた。

本開発では、インターネットで簡単に閲覧できる日本初の地質図、20万分の1日本シームレス地質図を作成した。当初は凡例数約180の基本版と凡例数386の詳細版を作成し、V2版では構造化した2400超の凡例を用いて自由な表示を可能にした。さらに日本の複雑な地質を表す地質図を世界でも類のない高速で配信し、検索表示や他の地図との重ね合わせにも対応した。

本開発により、地質図が多くのWebサイトに配信で表示され、スマートフォンでも利用可能となった。この結果、資源、防災、土木などの従来の活用方法に加えて、不動産取引、観光・登山、有機農業などにも活用が広がり、日本の標準地質図として広く使われている。

本成果は、地震時地盤災害推計システムにも採用され、ベース・レジストリと言うべき地質図として、防災だけでなく国の基盤情報として安全で豊かな社会に寄与している。

 

若手科学者賞

受賞者

賞状を持つ岡崎 雄馬の写真

計量標準総合センター 計量標準総合センター研究企画室 岡崎 雄馬 企画主幹

 

業績名、概要

「量子電気標準の基盤技術および計測技術開拓に関する研究」

2019年に改訂された国際単位系では、量子力学的観点から電流を再定義して普遍的に単位を定義する方針へと転換した。そのため、単一電子や量子化抵抗など電子の量子力学的状態を精密に制御・計測する必要があり、要素技術の基礎研究が求められている。

受賞者は、量子ドットを利用した単一電子の制御とデジタル変調を組み合わせることによって、量子交流電流標準へとつながる新手法を発明した。さらに、新材料トポロジカル絶縁体を抵抗標準へと応用し強磁場発生装置を用いない世界初の量子抵抗標準を実現した。これらの成果を通じて、電流標準と抵抗標準の2領域の発展に貢献した。

本研究成果は、高精度かつ高信頼性の電気計測の礎となり、日本の科学技術の信頼性や再現性を下支えする基盤の強化につながると期待される。

受賞者

賞状を持つ吉江 路子の写真

情報・人間工学領域 人間情報インタラクション研究部門 吉江 路子 主任研究員

 

業績名、概要

「感情と行為に関する実験心理学的研究」

音楽演奏等の運動行為遂行の際、他者との感情を介したコミュニケーションは重要な役割を果たすが、これまで、感情と行為の相互作用に関する心理学的検討が不十分であった。

受賞者は、音楽演奏者を対象とする質問紙調査、ピアノ演奏時の生理計測実験、手指運動時の脳機能イメージング実験を行い、緊張・あがりによる運動パフォーマンス低下の背後にある心理学・生理学・神経科学的機構を解明した。また時間知覚の錯覚を利用して行為主体感を定量化する心理物理学実験を行い、自己の運動行為に対する他者のネガティブな感情的反応によって、行為主体感が弱まることを証明した。

本研究成果は、音楽演奏やスポーツ等の運動行為遂行時にネガティブ感情を抑え、ポジティブ感情を高める介入法の開発につながり、教育や健康増進に寄与するものと期待される。