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お知らせ記事2020/10/01

「プラットフォームフォトニクス研究センター」を新たに設立
-フォトニクス技術による計算チップ間から広域まで、ネットワークの飛躍的な性能向上の実現を目指して-

国立研究開発法人 産業技術総合研究所【理事長 石村 和彦】(以下「産総研」という)は、2020年10月1日に新たな研究推進組織「プラットフォームフォトニクス研究センター」【研究センター長 並木 周】を設立しました。

概要図

2030年頃をターゲットとした、プラットフォームフォトニクス研究センターが目指す技術開発イメージ

わが国の重要戦略として掲げられる「Society 5.0」の実現に向け、ビッグデータを高速、高効率に処理するコンピューティング技術や、Beyond 5G、6Gなどに代表される膨大で多様な情報の高速通信を可能とする技術の創出が急務となっています。しかし、半世紀以上にわたり微細化による半導体デバイスの性能向上を実現してきたムーアの法則が終焉に近づき、従来技術の延長では情報処理・通信デバイスの性能向上が困難な状況となっています。そのようななか、近年、クラウドからエッジにわたるシステム全体の最適化による性能向上を目指し、コンピューティングとネットワークをフォトニクスにより融合する技術の開発が期待されています。当研究センターは、広帯域・低遅延・省電力・高セキュリティーを同時に実現するフォトニクスとシステム最適制御技術を活かして、計算チップ間から広域、モバイル領域にまでわたる多様なネットワークを10 Tbit/s級まで低消費電力でシームレスに仮想化し、コンピューティングがこれを自在に操るプラットフォームフォトニクス技術の開発を推進します。

また、これまで産総研は、独自に開発してきた世界最高水準のシリコンフォトニクス技術を基に、世界で最も低損失のシリコン光導波路、世界最大規模のシリコンフォトニクススイッチ、高効率高速変調器などさまざまな光デバイスを実現してきました。このシリコンフォトニクス技術を活用して企業・大学などが光デバイスを試作できる研究開発試作体制をTIA推進センタースーパークリーンルーム産学官連携研究棟(SCR)に整備し、技術の橋渡しを推進します。

 

用語の説明

◆シリコンフォトニクス
シリコンが近赤外領域の光に対して透明であることを利用した光集積回路技術。半導体製造設備をそのまま活用できることから大規模化が可能な上、量産性・低コスト性に優れている。また、光を活用した技術分野を総称してフォトニクスと呼ぶ。
◆大規模光チップ
シリコンフォトニクスの特長を利用し、さまざまな光回路が大規模に集積化されたチップ。
◆光スイッチシステム
光信号を光のまま切り替えるデバイスを光スイッチという。光スイッチを用いることで、電気スイッチに比べ数桁の低電力化が可能となる。また、大規模光スイッチチップを遠隔から自在に制御可能とするシステムを光スイッチシステムという。
◆光トランシーバー
光信号と電気信号の変換を双方向で行う光通信用デバイス。
◆光電コパッケージ
電気的な入出力の帯域・電力限界を克服するために、大規模集積回路のパッケージに、シリコンフォトニクスによる集積型光トランシーバーを内蔵する技術。
◆Society 5.0
サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)。狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)に続く、新たな社会を指すもので、第5期科学技術基本計画においてわが国が目指すべき未来社会の姿として初めて提唱された。
出典 https://www8.cao.go.jp/cstp/society5_0/index.html [参照元へ戻る]
◆Beyond 5G、6G
第5世代の移動通信システムを5Gと呼ぶが、その次の世代をになう高速移動通信システムをBeyond 5G、さらにその先を6Gと呼ぶ。[参照元へ戻る]
◆ムーアの法則
半導体チップの微細化に伴い、その集積度が1~2年の間にほぼ倍増するように進化するとした法則。近年では、微細化が物理的な限界に到達しつつあり、終焉が近づいているとされる。[参照元へ戻る]
◆シームレス、仮想化
多様でそれぞれが独立していたネットワークについて、その垣根をなくすようなネットワークの運用をシームレスと呼び、また、ハードウエアにより個別のネットワークや計算機を物理的に構成・再構成するのではなく、ソフトウエアによってこれらを構成・再構成することで高い柔軟性と効率的運用を実現することを仮想化と呼ぶ。[参照元へ戻る]
◆変調器
光に情報を乗せるために光の振幅あるいは位相を変化させる光学素子。[参照元へ戻る]
◆TIA推進センター
オープンイノベーション拠点TIAの事務局の一翼を担い、多数のプロジェクトや施設・サービスの企画・運営と人材育成活動を行う産総研内組織。
出典 TIA推進センターホームページ https://unit.aist.go.jp/tia-co/ [参照元へ戻る]
◆スーパークリーンルーム産学官連携研究棟(SCR)
床面積3,000 m2のクリーンルーム(クラス3)中に、300 mmウエハーに対応した半導体プロセス装置をそろえた産総研の施設。[参照元へ戻る]