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2017/01/11

九州大学に「産総研・九大 水素材料強度ラボラトリ」(HydroMate)を設立
-水素脆化現象を根源的に解明し、理想的な耐水素脆化材料の開発を目指す-

国立研究開発法人 産業技術総合研究所【理事長 中鉢 良治】(以下「産総研」という)は、平成27年12月24日閣議決定の「まち・ひと・しごと創生総合戦略(2015改訂版)」に基づく、平成28年3月22日「まち・ひと・しごと創生本部」決定の「政府関係機関移転基本方針(*)」を踏まえ、平成29年1月11日に「産総研・九大 水素材料強度ラボラトリ」(AIST-Kyushu University Hydrogen Materials Laboratory; HydroMate)を国立大学法人 九州大学【総長 久保 千春】(以下「九大」という)と共同で設立しました。

気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)における2020年以降の新しい温暖化対策の枠組みの中で、我が国は2030年までに26%のCO2排出量削減(2013年比)に取り組みます。水素は利用段階ではCO2を排出しない究極のクリーンエネルギーと言われており、再生可能エネルギーなどを用いて製造することで大幅にCO2排出量を削減することができます。また、気象によって変動する再生可能エネルギーを水素に変換して蓄えることで、エネルギーの輸送や貯蔵が可能となり、地域を超えてエネルギーを有効活用することができます。一方で、水素をエネルギーとして活用する「水素社会」の実現には、水素を安全に製造・貯蔵・輸送できるインフラの整備とその低コスト化が必要であり、安全性とバランスの取れた規制の確立や、信頼性が高く低コストの水素インフラ用材料の開発が不可欠です。

産総研と九大は、平成18年7月から平成25年3月まで、「水素材料先端科学研究センター (HYDROGENIUS)」を共同で運営し、水素を安全・簡便に利用する技術・指針を産業界に提供するとともに、水素社会実現に向けた基盤整備を行ってきました。また、平成25年4月以降も連携を継続し、水素ステーション用材料の鋼種拡大や燃料電池自動車用材料の水素適合性試験法作成に関するNEDO研究開発プロジェクトも協力して実施しています。

九大は、高圧水素ガス中での材料強度評価に関して世界最高レベルの実績をもち、充実した実用鋼のマクロ強度データベースの構築やそれに基づく水素脆化現象の把握、さらには水素の影響を受ける材料の使用・設計指針の提案などに取り組んでいます。一方、産総研では水素環境中での材料の評価・観察に関して世界レベルの技術をもち、金属材料中の水素原子の挙動を把握することで、ナノレベルでの水素脆化現象の解明に取り組んでいます。さらに、両者は産業界との連携を通して、水素ステーション用鋼種の拡大や自動車用圧縮水素容器の基準の整備、国際基準との調和に貢献しています。

今般、産総研と九大は、新たな産総研の研究拠点を九大伊都キャンパスに設置し、九大がもつ世界トップレベルの高圧水素ガス中でのマクロレベルの材料強度評価技術に基づく機械工学的な視点と、産総研がもつ水素環境中でのナノレベルの材料組織評価技術に基づく材料工学的な視点を融合し、水素の安全で経済的な利活用のため、水素用材料の脆化現象の解明とそれに基づく新規材料の開発を目指した基礎的研究を行います。さらに、産学官ネットワークを構築して、これら成果の民間企業への「橋渡し」を実現してまいります。

産総研・九大 水素材料強度ラボラトリの模式図
図1 産総研・九大 水素材料強度ラボラトリ(HydroMate)

ラボラトリでの研究と他のプロジェクトとの連携の図
図2 ラボラトリでの研究と他のプロジェクトとの連携

水素材料強度ラボラトリで行う主な研究

ナノ・メソ・マクロ解析による水素脆化の基本メカニズム解明
複雑な水素脆化現象を解明し、理想的な耐水素脆化材料を開発するためには、ナノレベルからマクロレベルに渡る幅広い知見の集約が必要です。本研究では、高純度鋼などを対象として、引張試験やナノインデンテーションなどのマクロレベルでの材料強度評価を行うとともに、有限要素シミュレーションによるき裂先端部の応力・ひずみ解析や、走査型プローブ顕微鏡(SPM)をはじめとする顕微鏡を用いた材料の破面や表面状態のナノレベルでの観察を通して、水素が材料の強度や組織に与える影響をナノからマクロレベルまでシームレスに把握し、水素脆化現象の根源的な解明を進めることで、既存材料を超越する革新的な耐水素脆化材料の開発を目指します。

*「政府関係機関移転基本方針」(平成28年3月22日「まち・ひと・しごと創生本部」決定)抜粋 《参考》
移転対象地域 対象機関 移転の概要 移転の内容
福岡 (独)産業技術総合研究所
(産総研)
水素材料強度研究連携拠点の設置 平成28年度より、九州大学伊都キャンパスに産総研の研究連携拠点(「水素材料強度ラボ」(仮称))を設置し、同キャンパス内において産総研つくばセンターの水素分野の研究者が参画して研究を実施する。九州大学、産総研という日本の水素研究の2大拠点において、人的交流の促進等を通じた研究連携の強化を図り、相互に強みのある分野を発展させるべく、我が国最先端の水素材料強度研究に取り組む体制を強化する。


用語の説明

◆水素脆化
金属材料中に侵入した水素によって、金属材料の引張強さや伸びなどが低下する現象。水素の影響により延性が低下し、マクロには材料が脆性的に破壊することから、この現象は古くから水素脆化と呼ばれている。しかし、材料によっては、ミクロには局所的な塑性変形を促進する結果も報告されており、水素脆化という用語は現象のミクロな実体を的確に反映しない。ミクロな実体の説明としては、格子脆化説(水素が金属原子の結合力自体を低下させると考える説)や局所塑性変形助長説(水素が局所的な塑性変形を助長すると考える説)などがあり、現在も活発な議論がなされている。[参照元へ戻る]
◆ナノインデンテーション
先端形状がナノメートルサイズの微小な圧子(主にダイヤモンド)を材料表面の微小領域や薄膜などに押込み、荷重と押込深さを計測することで、材料の微小領域の硬さ、ヤング率などを評価する方法。国際規格としてISO14577がある。[参照元へ戻る]
◆走査型プローブ顕微鏡
先端形状がナノメートルサイズの微小な針(プローブ)を用いて材料表面を走査し、表面形状を計測する顕微鏡。針と材料表面間の相互作用を利用して、様々な表面現象の評価が可能。原子間力顕微鏡(AFM)、走査型トンネル顕微鏡(STM)、走査型磁気力顕微鏡(MFM)などの総称。[参照元へ戻る]

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