産総研:ニュース

お知らせ記事2016/06/01

東京大学柏キャンパスに「産総研・東大 先端オペランド計測技術オープンイノベーションラボラトリ」(OPERANDO-OIL)を設立
-実環境動的計測技術の高度化で新材料・革新デバイスの実現を目指す-

国立研究開発法人 産業技術総合研究所【理事長 中鉢 良治】(以下「産総研」という)は、平成28年6月1日に「産総研・東大 先端オペランド計測技術オープンイノベーションラボラトリ」(AIST-UTokyo Advanced Operando-Measurement Technology Open Innovation Laboratory;OPERANDO-OIL)を国立大学法人 東京大学【総長 五神 真】(以下「東大」という)と共同で設立しました。産総研のオープンイノベーションラボラトリ(OIL)は、産総研の第4期中長期計画(平成27年度~31年度)で掲げている「橋渡し」を推進していくための新たな研究組織の形態で、OPERANDO-OILがその第二号となります。

我が国では産業競争力強化に向けた新たな産業創出や価値創成が求められており、そのためには、新素材や革新デバイス技術を開発するための新原理・原則の追究と、製造効率の向上がますます重要になってきています。中でも、実際に材料やデバイスが反応・動作している環境の下で、刻々と変化する分子構造や欠陥状態をリアルタイムで計測する「実環境動的(オペランド)計測技術」は、機能メカニズムの解明や製造プロセスの可視化につながり、材料・デバイス、医薬品の開発を大幅にスピードアップできる基盤技術として期待されています。

東大柏キャンパスには物性研究所や新領域創成科学研究科などがあり、物性物理学で世界をリードする革新的な基礎研究や分野横断的な研究が行われています。一方、産総研は、計測技術開発を長年行っていることに加え、素材メーカーやデバイスメーカー、大学などとの共同研究を通じ、生体機能材料、新素材、革新デバイスなどの産業化につながる研究開発の実績が多くあります。また、平成28年4月には、「つくば-柏-本郷イノベーションコリドー(TKHiC)構想」を掲げる東大が、産総研などのつくばの研究機関・大学と経団連が中心となって運営する研究開発拠点「TIA」に中核機関として加わるなど、学術成果をイノベーションに変えて産業界まで届ける仕組みが着実に整えられてきています。

そこで、産総研と東大は新たな産総研の拠点(OPERANDO-OIL)を東大柏キャンパス内に設置し、相互のシーズ技術を合わせ、素材やデバイス開発分野での新産業創出を目指した研究開発を連携して行い、技術の実用化と社会実装を推進させていきます。さらに、産学官ネットワークの構築による「橋渡し」につながる目的基礎研究の強化や、先端オペランド計測技術を活用した生体機能性材料、新素材、革新デバイスなどの産業化・実用化のための研究開発を行います。

概要図

OPERANDO-OILで行う主な研究

1) 先端オペランド計測基盤技術の開発
産総研と東大がそれぞれ持つ卓越した先端オペランド計測技術の高度化・複合化を目指します。具体的には、東大が強みを持つ軟X線発光分光やX線1分子追跡、レーザー光電子分光、時間分解レーザー分光、時間分解テラヘルツ分光、分極イメージング、ホール効果測定、絶対発光量・画像測定、超高速PL分光などの基礎科学的な電子状態分析法と、産総研が強みを持つ円二色性分光やテラヘルツ吸収分光、大気環境陽電子プローブなどについて、それぞれを高度化して複合的に用い、有機分子や半導体などの分子構造や電子状態の変化過程などを、実環境で計測する複合分析手法の確立を目指します。

2) 生体機能性材料、新素材、革新デバイスなどの創出に向けた研究
上記の先端オペランド計測技術と、東大と産総研が持つ材料・デバイス開発技術とを融合させ、生体分子、生体模倣材料などの生体機能性材料、高移動度有機半導体、メモリー用有機強誘電体、発電用有機熱電変換材料などの新素材技術、新規ナノ材料創製技術(バイオミメティック界面、フィルムデバイス向け高分散ナノ粒子、半導体準結晶など)や高性能ウェアラブルデバイス、有機・無機ハイブリッドアクチュエーターなどの革新デバイスの研究開発を行い、デバイスの長寿命化、製造過程の高速化や生産性向上を目指します。

開所式の様子

平成28年6月1日(水)、東京大学柏キャンパスに設立した「産総研・東大 先端オペランド計測技術オープンイノベーションラボラトリ」(OPERANDO-OIL)の開所式を行いました。 

中鉢理事長の挨拶・設立趣旨説明の後、経済産業省、文部科学省、産業界からのご来賓よりそれぞれご祝辞を賜り、五神総長と中鉢理事長による調印式を行いました。

その後、五神総長の特別記念講演、産業界から2件のラボへのご期待のご講演の後、OPERANDO-OILの研究の方向性を、ラボ長へ就任予定の東京大学 雨宮 慶幸 教授と産総研ナノ材料研究部門 佐々木 毅 研究部門長よりご説明しました。

ラボへの期待の大きさからか、当日は会場に立ち見がでるほどで、盛況のうちに開所式を取り行うことができました。

 

調印式の写真
調印式の様子
  記念撮影の写真
記念撮影の様子


 

用語の説明

◆オープンイノベーションラボラトリ(OIL)
経済産業省が平成28年度から始める「オープンイノベーションアリーナ」事業の一環として行われるもので、卓越した基礎研究に基づく技術シーズをもつ大学などに、産総研が研究拠点を設置し、その大学と産総研が集中的・組織的に研究を行うことにより、技術の実用化・「橋渡し」の加速や、「橋渡し」につながる目的基礎研究の強化を目的としたものです。これまで、平成28年4月に名古屋大学と共同で「産総研・名大 窒化物半導体先進デバイスオープンイノベーションラボラトリ」(GaN-OIL)を設立しています。[参照元へ戻る]
◆実環境動的(オペランド)計測技術
「オペランド」(Operando)とは、ラテン語で“operating”や“working”を意味する言葉で、平成14年頃より触媒分野における動作中分析などに使われ始めてきました。 現在は、触媒だけでなく電池や半導体などデバイスの動作中での計測・分析のことを意味しています。 本OILでは上記だけでなく、細胞中、常温大気中、水中などのデバイスや素材が使われている作動条件やプロセス条件における計測技術開発もオペランド計測として進めていきます。[参照元へ戻る]
◆つくば-柏-本郷イノベーションコリドー(TKHiC)構想
140年の伝統を誇る「東大本郷キャンパス」と新しい学融合を掲げる「東大柏キャンパス」との連携を「つくば」まで延伸させて、学術、技術、人材が活発に行き交う「知の協創プラットフォーム」を創設しようとする東大の構想。[参照元へ戻る]
東大本郷キャンパス、東大柏キャンパスとつくばとの位置関係の図
東大本郷キャンパス、東大柏キャンパスとつくばとの位置関係