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お知らせ記事2016/03/30

エネルギー安定供給や気候変動抑制における太陽光発電の役割を考える国際ワークショップを開催
-テラワット太陽光発電時代に向けた、日独米によるステートメントを策定-

ポイント

  • 独フラウンホーファー研究機構、米国国立再生可能エネルギー研究所および産総研の3者でワークショップを開催
  • テラワット太陽光発電時代実現に向けた、日独米による共同のステートメントを策定・公表
  • 将来のロードマップを示すことにより、太陽光発電の導入・普及を加速するための重要課題の解決や研究開発の推進への貢献に期待

概要

 国立研究開発法人 産業技術総合研究所【理事長 中鉢 良治】(以下「産総研」という)は、平成28年3月17日から3月18日に、独フラウンホーファー研究機構太陽エネルギーシステム研究所(以下「Fraunhofer ISE」という)及び米国国立再生可能エネルギー研究所(以下「NREL」という)と合同で「The Terawatt Workshop」(以下「ワークショップ」という)を開催し、テラワット(10億キロワット)太陽光発電(以下「PV」という)時代実現に向けた日独米による共同のステートメントを策定・公表しました。

 太陽光発電システムは固定価格買取制度などの政策によって世界各地に着実に導入普及が進み、重要なエネルギー源の一つとして認識されるようになりました。今後の継続的な研究開発によって競争力がさらに向上し、2030年には全世界で3テラワット程度の太陽光発電システムが導入されるものと予想されています。一方、将来のエネルギー安定供給や気候変動抑制において重要な役割を担うには、2040年までに20テラワット規模での導入が必要になります。本ワークショップの目的は、世界各地域(ヨーロッパ、アジア、米国、中東、アフリカなど)においてテラワット太陽光発電時代の実現の障害となり得る課題とその克服法を明確にするとともに、その課題解決に向けたアクションプランを策定・共有し、そして具体的な行動に移すための羅針盤を示すことです。

 本ワークショップは、世界の太陽光発電研究を先導する産総研、Fraunhofer ISE、NRELの3研究機関のリーダーを始め、日独米の産学官(研究所、大学、政府系研究開発統轄機関、製造メーカー、金融機関など)メンバー(各国から15名程度、全体で約50名)により構成され、全員参加型のワークショップとして開催されました。

 本ワークショップでは、将来のテラワット太陽光発電時代に向けて、太陽光発電に関するデバイス技術、製造技術、流通、リスク軽減、系統統合技術などに関する個別課題の共有及び総合討論を行うとともに、日独米の3研究機関のコンセンサスのもとに課題解決に向けたアクションプランを策定・共有し、そして本ワークショップの成果物として日独米による共同ステートメントを取りまとめました。

 本ステートメントは、太陽光発電がエネルギーと環境の持続可能性を両立可能にする技術であり、産総研、Fraunhofer ISE、NRELの3研究機関は協力してさらに挑戦を続けていくことを表明するものです。

産総研 小林哲彦理事の開会挨拶の写真
産総研 小林哲彦理事の開会挨拶

ワークショップ会場の様子
ワークショップ会場の様子の写真

ワークショップ開催の背景・経緯

 環境とエネルギーの2つの持続可能性を両立することは、全世界的な要請であり、かつ挑戦的な課題です。太陽光発電はこの要求に対して、重要な役割を担える技術です。太陽光発電は、程度の違いこそあれ、世界中の全ての地域で環境、経済性、エネルギー安定供給の点で優位性を発揮し始めています。太陽光発電は世界的規模で持続可能なエネルギー社会に対して重要な役割を果たせる技術でありますが、その期待に応えるためには、テラワット単位での設備の導入・普及に向けた取り組みが必要となります。そのためには、基礎研究、製造量、資本支出、複雑な社会・経済要因に関する障壁とそれへの挑戦が不可欠です。

 産総研、Fraunhofer ISEおよびNRELの3研究機関は、国際的な連携協定覚書を締結し、これらの国際的な挑戦課題に取り組んでいます。今回、これらの3研究機関が中心となって太陽光発電のテラワット級の導入・普及に関するワークショップを開催し、そしてワークショップでの議論をもとにステートメントを策定しました。本ステートメントは日独米それぞれで本日公表となりました。本ステートメントの日本語版と原文(英語)は、別紙1、別紙2の通りです。

今後の予定

 今回のワークショップでの議論の成果は、産総研、Fraunhofer ISE、NRELの3研究機関が中心となり、学術論文として発表する予定です。また、今後はテラワットPV時代の実現のための重要課題の解決に向けた提言や適切な研究開発を進めるとともに、太陽光発電の未開地への導入・普及を加速するための様々な国際協力を推進する予定です。

用語の説明

◆フラウンホーファー研究機構太陽エネルギーシステム研究所(Fraunhofer ISE
ドイツ全土に67の研究所・研究ユニットを持つ欧州最大の応用研究機関であるフラウンホーファー研究機構の中の一研究所。太陽エネルギーに特化した研究を行っており、同分野における欧州最大の研究機関です。[参照元へ戻る]
◆米国国立再生可能エネルギー研究所(NREL)
米国エネルギー省傘下の国立研究機関。米国で唯一、再生可能エネルギー全般と省エネルギー技術に関する研究開発を実施。世界トップレベルの太陽光発電の研究機関であり、関連する主要な国際標準規格の制定にも深く関わっています。[参照元へ戻る]

別紙1

エネルギー安定供給や気候変動抑制における太陽光発電の役割を考える国際ワークショップを開催
―テラワット太陽光発電時代への移行―

 世界を代表する太陽光発電研究機関による国際同盟(GA-SERI: Global Alliance of Solar Energy Research Institutes: 産業技術総合研究所、フラウンホーファー研究機構太陽エネルギーシステム研究所、米国再生可能エネルギー研究所で構成)は、太陽光発電の将来の方向性を議論するため、日本、ドイツ、米国を中心に世界各地から太陽光発電の専門家を招集し、ドイツ フライブルグ市において「The Terawatt Workshop」を開催した。2015年の太陽光発電(PV)システムの世界の年間導入量が現在の年間生産能力に近い60GWに達する中、本ワークショップでは、産学官(研究所、大学、政府系研究開発統轄機関、製造メーカー、金融機関、等)を代表する専門家約50名が参加し、エネルギー安全保障、経済成長、気候変動抑制に果たすべきPVの役割を議論し、テラワット(1000GW)PV時代に向かう新たな段階へと踏み出したことを宣言した。

 PVシステムの急激なコスト低減の流れからみて、継続的な研究開発と投資を続けていけば世界のPVの累積導入量は2030年には3TWを超えると予想される。PVのコスト低減の見通しは、この技術が低コストで地産地消可能な電力源として魅力的な選択肢となることを示している。地球規模での気候変動対策目標に大きく貢献するためには、2040年までに20TW規模での導入が必要となる。この目標は、PVのさらなる製造コスト低減や性能・信頼性の向上なしには達成不可能であり、世界全体での継続的な研究開発への投資が不可欠である。

 より柔軟な電力系統の整備、低コストな電力貯蔵技術、電力需要管理技術等の開発はPVの導入を加速するために重要な役割を果たす。PVは世界の総電力量の中で大きなシェアを占める可能性を持つだけではなく、自動車や熱供給等の市場に対しても低コストなエネルギーを供給できる潜在能力を秘めている。

 フライブルグ旧市街に位置する歴史的建造物(Kaufhaus)において2日間にわたり活発な議論が行われた。目標達成に必要な規模まで生産と導入規模を拡大するという挑戦的課題は、産学官連携による短期から長期までの総合的な研究開発プログラムによって解決可能であるとの結論に至った。

 太陽光発電研究機関による国際同盟(GA-SERI)は、産総研、フラウンホーファー研究機構太陽エネルギーシステム研究所、米国再生可能エネルギー研究所の三者間で2012年に締結されたMOUに基づいている。


別紙2

Global gathering addresses PV role in energy prosperity and climate change mitigation and announces transition to a new stage that will carry PV to the terawatt range

 The Global Alliance for Solar Energy Research Institutes (GA-SERI) convened a worldwide gathering of experts from Germany, Japan, the USA and beyond to discuss the future of photovoltaics (PV).  With annual global PV installations reaching 60 GW in 2015, approaching global production capacity,  50 participants gathered in Freiburg Germany for the initial GA-SERI Terawatt Workshop.  Representatives from research institutes, industry and funding and financial organizations discussed the contributions of photovoltaics (PV) to energy security, prosperity and climate change mitigation and announced the transition to a new stage that will carry PV to the terawatt scale.

 In view of drastically reduced PV costs, cumulative global installations in excess of 3 TW are anticipated by 2030, continuing current R&D and investment paths.  PV cost projections make this technology increasingly attractive for low cost domestic electricity supply.  To provide a major contribution to global climate goals, total installations on the order of 20 TW will be needed by 2040.  This will require continued investment in worldwide R&D to reduce production costs, increase efficiency and improve reliability.

 An increasingly flexible electricity grid, increased availability of low-cost energy storage and demand side management will also play key roles in enabling accelerated PV deployment.  In addition to providing a significant fraction of world electricity, PV has the potential to provide low cost energy for mobility and heating market demands.

 Following two days of spirited discussion in the Historical Merchants Hall in Freiburg’s old city, the group reached a consensus that a fully integrated research program among institutes, universities and industry, spanning both near and long term needs can address challenges to scale manufacturing and deployment to the levels required.

 The Fraunhofer Institute for Solar Energy (Germany), the National Institute of Advanced Industrial Science and Technology (Japan), and the National Renewable Energy Laboratory (USA) are the member institutes  of GA-SERI.  GA-SERI was founded in 2012.