産総研:ニュース

お知らせ記事2008/08/28

公募したサービス工学の適用実証委託事業に5件採択
-サービスにおける科学的・工学的手法の普及・啓発に向けて-

ポイント

  • 産総研は、経済産業省から受託したサービス研究センター基盤整備事業の一環としてサービス工学の適用実証事業を公募し、採択事業を決定。
  • 事業内容と波及効果に関する審査を経て5件の課題を採択。
  • 産総研は、これらの事業との連携を含め、サービスの生産性向上における科学的・工学的手法の有効性を示し、その普及を図る。

概要

独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)サービス工学研究センター【センター長 吉川 弘之】は、経済産業省から受託した平成20年度サービス研究センター基盤整備事業の一環として、科学技術をサービスの現場に適用した先導的なプロジェクトの成果を蓄積・共有することによりサービスにおける科学的・工学的手法の普及・啓発を図るため、平成20年6月6日から27日にかけて適用実証委託事業を公募いたしました。これに対して21件の応募があり、有識者による厳正な審査の結果、5件の事業を採択しました。

サービスは、雇用においても国内総生産(GDP)においても日本を含む先進諸国の経済の7割を占め、さらに市場が拡大しています。しかし、国内の製造業や国外のサービス業に比べて日本のサービス産業の生産性の伸び率が低いため、その生産性の向上が急務となっています。

産総研は、これらの適用実証委託事業の実施を支援するとともに連携を図り、サービスの生産性向上における科学的・工学的手法の有効性を示すことによって、この手法の普及と発展のための契機にしたいと考えています。

サービス工学の適用実証委託事業概要図

背景

サービス産業は、日本経済の7割(GDP・雇用ベース)を占める非常に重要な産業です。少子高齢化など社会構造変化に対応したサービス需要の増大、製造業中心に業務のモジュール化が進むことによるアウトソーシングの拡大、さらに、公的市場の民間開放や規制改革による新たなサービス市場の創出などを背景に、今後もサービス産業の重要性は高まり、一層の市場拡大が見込まれています。

しかし、サービス産業の役割のこのような拡大にもかかわらず、わが国の製造産業や海外のサービス産業と比べてわが国のサービス産業の生産性が低いことが指摘され、サービス産業がイノベーションと生産性向上をいかに達成するかが、わが国経済の発展にとって重要な課題となっています。

このような状況の中、わが国のサービス産業におけるサービスの品質を高め、かつサービスの提供をより効率的に行うために、サービスへの科学的・工学的手法の適用の促進が求められています。

経緯と事業内容

このような背景を踏まえ、経済産業省は、サービス産業におけるイノベーションを促進する新たな事業として、平成20年度から『サービス研究センター基盤整備事業』(平成20年度の事業規模は375百万円)を立ち上げ、これを受託した産総研は、その一環として適用実証委託事業を公募しました。

この適用実証委託事業では、科学的・工学的手法のサービスへの一層の適用促進を図るため、広く技術を活用することによってサービスの生産性を向上させる先導的なプロジェクトを公募により実施し、その成果を蓄積し社会的に共有することにより、サービスの生産性向上への科学的・工学的手法の普及・啓発を目指します。具体的には、サービスに適用する技術が既に一定程度確立しており、1~2年以内に実用化が見込まれ、フィールドにおける実験が必要なものについて実証実験を実施します。

産総研は、平成20年6月6日から27日にかけて適用実証事業を公募し、企業や大学から合計21件の提案が行われました。これらについて、内部の審査委員による書類選考、内部および外部の審査委員による一次および二次審査委員会での厳正な審査を経て、採択課題5件(5コンソーシアム、合計16団体。課題の概要は下表の通り)を決定しました。

これらの研究課題について、採択コンソーシアムの代表団体との契約に基づき事業が開始されます。

表 採択事業一覧
事業名
代表事業者
【所在地】
概要
無意識かつ非拘束なセンシングシステムによる見守り支援の実現

(株)きんでん
【京都府】

無意識かつ非拘束に見守ることができるセンシングシステムを特別養護老人ホームに導入し、介護従事者による介護対象者の行動予測を支援します。人手が少なく重労働となる夜間の介護従事者の負担の軽減と生産性の向上を、介護従事者の行動と活動量、疲労度の測定に基づいて検証します。
意味的構造化を可能とする動画共有ポータルの開発とサービス情報循環の実証

(株)リオ
【愛知県】

事業者が動画CMを安価に制作して無料公開でき、消費者もそれを編集できるポータルサイトを提供し、消費者の「知りたい情報」と事業者の「知らせたい情報」をマッチングできるようにします。動画CMを中心とした情報の集約・蓄積・再利用による共有循環を通じて消費者と事業者のコミュニケーションを促進し、地域社会のサービス生産性の向上を実証します。
医療サービスの改善と安全性向上のための知識循環モデルの適用実証

宮崎大学
【宮崎県】

クリニカルパス(医療の手順書)を作成するソフトウェアツールを開発して電子カルテと連携させ、治療の目的に関する患者と医療者との合意形成等、医療現場での知識の共有・循環の促進を目指します。病院での運用実験を通して、治療効果の向上や医療の安全性の向上等の効果を、質的評価等から得られる知見に基づいて検証します。
生活習慣の継続的モニタリングと行動変容に応じた健康改善サービスの検証

宮城大学
【宮城県】

生体データのガイドライン的指標と主観的指標による健康度の他、知識レベルと自己効力感(モチベーション)の3要素よりなる健康モデルを提案します。このモデルの3要素をバランス良く向上させる健康改善サービスを行動変容理論(習慣化した行動の変化に関する理論)に基づいて構築し、実証実験においてこれら3要素の向上を検証します。
SCIM技術による顧客サービスの最適設計と生産性向上の実証

東京工業大学
【東京都】

コストと人手のかかる顧客サービスにおいて、どのような場面でどの程度のスキルを持つスタッフが必要か等を「見える化」して、(1)人員の再配置、(2)人材の採用、(3)人材の教育、(4)情報技術(IT)の活用等の施策で最適化することにより、サービスの生産性と付加価値の向上を同時に実現する手法(SCIM)の有効性を実証します。自動車販売業に加え、その他サービス業への応用可能性も検証します。

 

詳細資料

今後の予定

サービスの生産性向上における科学的・工学的手法の有効性の普及のため、平成20年12月18日に東京臨海副都心の日本科学未来館にて公開シンポジウムを開催し、これら適用実証委託事業の中間報告を兼ねて、サービスにおける科学的・工学的手法のさらなる展開についての意見交換の場を設ける予定です。

用語の説明

◆サービス工学研究センター
サービスの生産性を向上させる科学的・工学的手法を産学官連携によって研究するために産総研が平成20年4月に設立した研究センター。
http://www.aist.go.jp/aist_j/news/announce/pr20080305.html [参照元へ戻る]
◆サービス研究センター基盤整備事業
サービスの生産性の向上に関する研究の拠点を整備するために経済産業省が平成20年度に開始した事業。科学的・工学的手法によってサービスの生産性を高めるための共通基盤的な技術や方法論を具体的なフィールド研究を通じて創造するとともに、本適用実証公募事業等を通じて科学的・工学的手法の普及・啓発を図ることを目的とする。産総研はその公募に応募して実施機関として採択され、サービス工学研究センターを中心としてこの事業を実施している。[参照元へ戻る]
◆科学的・工学的手法
サービスにおける科学的・工学的手法とは、サービスのモデルを経験的データに照らして検証・改良すること(サービスの現場を観測し、得られたデータを分析し、それに基づいてサービスのモデルを再設計し、それを現場に適用すること)の繰り返しによってサービスの生産性を高める方法である。ここでいう生産性は効率と付加価値の両方を含む。[参照元へ戻る]