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ニュース

2006/12/19

開発企業のしばりから解放された大規模情報システムの開発に着手
-他の公共機関や自治体にも利用者主導の開発手法を提供-

ポイント

  • 利用者が主体的に仕様を作り、情報システムの開発・運用におけるイニシアティブを取ることを可能に。
  • 情報システムにかかるコストが低減し、使いやすく品質の高い情報システムが実現。
  • この開発手法をパッケージとして幅広く地方自治体等に適用可能。

概要

 独立行政法人 産業技術総合研究所【理事長 吉川 弘之】(以下「産総研」という)次期情報システム研究開発推進室【室長 小野 晃】は、ソフトウェアを開発した特定業者にしばられない利用者主導のシステム開発・運用を可能にし、自治体などにも適用できる包括フレームワークに基づいて、所内の新たな大規模情報システム(AIST EAI2)の開発に着手しました。

 情報システムは組織の運営には欠かすことができません。しかし、これまで一般に、その改修等はシステムを開発した特定業者にしかできず、利用者は保守に関して同一の開発業者との随意契約を続けざるを得ないという、いわゆるベンダーロックインがしばしば生じていました。

 利用者主導で情報システムの仕様を明確化して開発・運用できれば、システムを開発した特定業者に縛られず、業務の相互連携と全体最適化、使い易さの改善、コストの低減などが図れます。このような方法は産総研だけでなく他のさまざまな組織にも適用できます。

 産総研では、その方法を具現化するため、特定業者に依存しない標準的なソフトウェアの開発手法、共通ソフトウェア、開発規約などを開発しました。これらをすべてまとめた包括フレームワークを広く公開し、他の公的機関や企業にも提供することで、全国における業務系ソフトウェアの開発・保守コストの削減と品質の向上を図ります。また、利用者と開発者との間の知識共有を促進し、双方において生産性や労働条件を改善できると考えられます。

 このほど産総研は、横浜市と相互協力に関する協定を締結し、この包括フレームワークを横浜市役所の情報システムの開発に用いることとなりました。これをきっかけとして他の組織への技術の普及を推進し、情報システムの開発・運用法の改革を目指します。

新たな大規模情報システム開発の概要図

背景

 企業体や自治体等の組織の運営においては、財務会計システムや人事給与システムといった業務の基幹となる情報システムの重要性が高まっています。ところが今までは、利用者がそうしたシステムの設計に主体的に参画できず、個別業務の相互連携を含む業務とシステム全体の最適設計ができないために、理想の業務の姿を明確に反映した仕様書が書けず、また開発過程にも利用者が実質的に関わらないために、あるべき業務の姿を利用者と開発者との間で共有することが困難でした。こうして開発作業に多くのやり直しが発生してコスト高を招き、また利用者の期待にそぐわないシステムができてしまうことがしばしばありました。さらに、納入されたシステムの詳細を利用者が理解していないために、システムの保守管理に関して同一の開発業者との随意契約を続けざるを得ず、システムの保有コストも過大な傾向がありました。

 情報社会の進展につれて、このような問題の解決が切望されています。政府のIT戦略本部が平成18年1月に定めた「IT新改革戦略」においては、国・地方公共団体、独立行政法人等は業務・システムの最適化に取り組むことが求められ、各府省はそれに沿った業務・システム最適化計画を策定しています。その策定指針においても、業務とシステムを統合的にとらえた全体最適化を行い、明確な仕様書を作ることによって、特定の業者に依存しないシステム構築が求められています。

経緯

 産総研では、業務・システム最適化計画に準じて、所内の業務の現状分析およびあるべき姿の設計を平成17年から実施しています。これと連動して、利用者主導で業務の全体最適化を可能にする、基幹業務情報システムの新しい構築法に関する研究を進めてきました。

 また、今回の開発プロジェクトの実施運営のために、平成18年10月1日にCIO(情報化統括責任者)を室長とする「次期情報システム研究開発推進室」を設置しました。ここには産総研内の情報技術分野の研究者も多く参加しており、研究上の知見を大規模な情報システムに生かして、新しい情報システム開発方法論を支える包括フレームワークおよびそれに基づく基幹情報システム(AIST EAI2)の開発を推進しています。

内容

 産総研の基幹業務システムの再構築による新たな情報システム(AIST EAI2)は、平成20年度中の完成を目指して開発を進めています。このプロジェクトは、実用システムの開発であると同時に、わが国の行政・企業体の効率化をもたらす情報システム開発の新たな方法論を構築・実証する研究でもあります。その要点は下記の通りです。

1.包括フレームワーク

 包括フレームワークは下記のソフトウェアおよび文書からなり、ソフトウェアフレームワークだけでなく開発プロセス等に関する規程も含むオールインワンのパッケージです。

  • 個別システム(財務会計システムや人事給与システム等)の間で共通に使われる機能を提供するソフトウェアフレームワーク
  • 開発仕様書の書き方、ユーザインタフェースの設計ポリシー、開発の進め方等を定めた、開発プロセス・開発標準・開発体制の規程
  • 開発を支援するソフトウェアツールの選定とその使用法に関する規程を明確にした開発環境フレームワーク
  • プロジェクトの進捗状況の管理する仕方を定めたプロジェクトモニタリングフレームワーク

2.利用者主導の開発・運用

 情報技術の専門家でない利用者でも理解しやすい仕様書の書き方を包括フレームワークにおいて規定することで、現場の利用者が業務の全体最適化に取り組み情報システムの開発に主体的に参画することを可能にし、精度の高い仕様書を作ることができます。また、やはり包括フレームワークに従って利用者がシステム開発に関与することで、開発中のシステムの問題点を早期に発見し修正できます。さらに、発注者が仕様書類を管理することにより、情報システムの保守の効率も高まります。

 このように利用者が主導権をとって業務全体の効率向上を図りシステムを開発するには、情報システムに関する利用者の知識や技能の向上が必要です。包括フレームワークに基づく開発は、そのような人材育成も含みます。

3.コストの低減と品質の向上

 仕様書が曖昧だと、情報システムの開発において多くの誤解や無駄な作業が発生します。これが開発されるシステムと利用者の期待との食い違いを生んだり開発・改修コストを押し上げたりすることがしばしばありました。

 しかし、包括フレームワークを使えば、ソフトウェアフレームワークによって個別システムの開発工数を圧縮し、個別システム同士を連携させるだけでなく、利用者の要求に合致した精度の高い仕様書が作れるとともに、開発中のシステムの問題点を早期に発見し修正することが可能になります。これにより、業務全体の効率を改善し、利用者の要求に合致する品質の高いシステムを作り、なおかつコストを低減させることができます。

4.公正な調達と効率的な開発

 これまでは、曖昧な仕様で開発を業者に発注していたために、利用者・発注者が理解できない品質の悪いシステムができてしまい、その改修を同じ開発業者に随意契約で発注し続けざるを得ないという、いわゆるベンダーロックインが多く発生していました。また開発業者の側でも、曖昧な発注のせいで多くの作業が無駄になって開発スケジュールが遅れ、長時間の過重な労働を強いられる等の弊害が生じていました。これはさらに、先進的な技術を導入する動機と体力を開発業者から奪い、業界全体の技術的進歩を阻害してきました。

 包括フレームワークは、利用者・発注者の主体的な参画を通じて仕様を明確化し、開発過程を適確に管理することにより、ベンダーロックインを防ぎ開発作業の効率を高めます。これは、利用者・発注者にとって上記のような情報システムのコスト低減と品質の向上をもたらすだけでなく、開発業者においても、作業をスケジュール通りに進めて労働環境を改善することにつながります。また、開発における大きなリスクの積算が不要になるため、入札価格も適正化されます。こうして入札における技術的な優位性の効果が高まり、また開発が計画的に遂行できることにより、実用システムの開発における先進技術の導入が進むと期待されます。

5.自治体等への技術移転

 包括フレームワークを用いることにより、特定の業者に依存せずに業務改革とシステム構築が行えるという意味で、今回のプロジェクトは、国、地方自治体、独立行政法人等が従うべき業務・システム最適化計画策定指針に合致しています。そこで産総研は、早期に包括フレームワークの公開を始めることとしました。

 この度、その第一弾として2006年12月14日に横浜市と相互協力に関する協定を締結しました。この協定の下で、包括フレームワークの完成度を高めつつ、これを自治体向けに拡張・改良し、その運用を通じて横浜市役所の情報システムの開発プロジェクトを支援します。これを通じて包括フレームワークが地域情報プラットフォームの仕様を満たすようにすることにより、自治体や企業の間での業務の連携もサポートする予定です。

今後の方向性

 産総研では、この包括フレームワークを横浜市以外への組織にも展開し、大規模な情報システムの開発・運用法の改革を進めるとともに、さらに先進的な情報技術の研究成果を併せて活用することにより、費用対効果に優れ利便性の高い情報システム構築法の普及を目指します。

用語の説明

◆包括フレームワーク
財務会計システムや人事給与システム等の個別のアプリケーションプログラムに共通の機能を提供するソフトウェアフレームワークだけでなく、仕様書の書き方やプロジェクトの進め方に関する指南書も含めた、情報システム開発のための包括的な枠組。[参照元へ戻る]
◆ベンダーロックイン
情報システムの正確な仕様が特定の開発業者にしかわからず、その改修等がその業者にしかできなくなること。システムを保守するにはその業者に随意契約で発注を続けるしかないという弊害を生ずることが多い。ベンダーロックインの主な原因のひとつは、発注者が不明確な仕様で開発を業者に発注することである。[参照元へ戻る]
◆全体最適化
個々の業務ではなくそれらの全体を最適化すること。個々の業務の局所的な最適化は他の業務との関係において必ずしも全体としての最適化につながらない。全体最適化には、個別業務の相互連携をとらえる必要がある。また、業務における情報システムの役割が拡大しつつある今日では、業務とシステムの両方を統一的な視点から捉えて最適化することが求められる。従来は、業務の全体像を把握することなく個別の部署ごとに情報システムを調達していたため、システム間の連携および業務の全体最適化を図りにくかった。[参照元へ戻る]
◆IT新改革戦略
政府のIT戦略本部が平成18年1月に定めたITに関する新しい改革戦略で、「いつでも、どこでも、誰でもITの恩恵を実現できる社会の実現」を目指し、2010年度までのIT政策の方向性を展望している。[参照元へ戻る]
◆業務・システム最適化計画
情報通信技術への投資管理に不可欠な業務と情報通信技術の双方を同時に企画するための設計・管理手法として、各府省は業務・システム最適化計画を策定しており、独立行政法人においても平成19年度末までに策定することが求められている。[参照元へ戻る]
◆CIO(Chief Information Officer
情報化統括責任者。業務、システムの最適化を実現するため、業務全般に責任を持つ。独立行政法人では平成17年度に配置した。[参照元へ戻る]
◆地域情報プラットフォーム
自治体における業務の効率化や住民サービスの向上のため、自治体の業務の標準化や自治体同士および自治体と民間企業との業務連携を実現する技術的な共通基盤。自治体や開発業者が参加する総務省の協議会において仕様を策定しつつあり、平成18年度末に公表の予定。この仕様に基づく具体的な地域情報プラットフォームの開発は開発業者等に委ねられる。[参照元へ戻る]

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国立研究開発法人産業技術総合研究所