産総研:研究ハイライト 全ての光を吸収する究極の暗黒シート

計量標準総合センター
全ての光を吸収する究極の暗黒シート
-光の計量標準から生まれた新素材。耐久性をまとい、産業応用が視野に-
  • 物理計測標準研究部門雨宮 邦招

掲載日:2020/10/09

世界初!高い光吸収率と耐久性を併せ持つ黒色素材

シリコーンゴムなどの表面にミクロな凹凸「光閉じ込め構造」を形成することで、紫外線~可視光~赤外線のあらゆる光をとらえて逃がさない、柔軟で耐久性にも優れた「暗黒シート」を開発しました。

暗黒シートと表面の光閉じ込め構造の電子顕微鏡の写真
(左)開発した暗黒シートと(右)表面の光閉じ込め構造の電子顕微鏡画像
 

黒さを極める―光の精密計測・応用分野で開発競争、課題は耐久性

黒色素材は、太陽エネルギー利用、光センサー、熱放射体など、光の応用分野に幅広く用いられています。特に、カメラ内部の乱反射防止や、分光分析装置内の迷光除去などの用途では、100 %に近い光吸収率の黒色素材が必要とされています。産総研の光の計量標準でも、光を全て吸収・検出することで光の強さの基準を決めており、やはり極めて黒い光吸収体が必要です。これまでに世界で開発された非常に黒い素材には、可視光の99.9 %以上を吸収するものもあります。しかし、表面に触れると性能が損なわれるなど耐久性には乏しく、取扱いに注意が必要で、一般環境での利用は困難なものでした。

暗黒シートと市販の黒色ゴムシートの写真
 

ミクロな凹凸が光を閉じ込める―イオンビームで作る鋳型から転写

そこで産総研では、あらゆる光を吸収して、高い耐久性も併せ持つ、新しい光吸収材料の研究開発に取り組みました。その結果、丈夫な材料の表面にミクロな凹凸構造を作製し、その鋭さや、サイズ等の条件を調整すると、光吸収率を極限まで大きくできることを見いだしました。この「光閉じ込め構造」は、高分子基板にサイクロトロン加速器からのイオンビームを照射した後、化学エッチングによって、その表面に多数の微細な円錐状の空洞を形成して作製しました。これを鋳型として、カーボンブラックを混練したシリコーンゴムの表面に凹凸を転写して作製した「暗黒シート」は、紫外線~可視光~赤外線の全域で99.5 %以上の光を吸収し、特に熱赤外線に対しては99.9 %以上という世界最高レベルの光吸収率を示しました。また、シリコーンゴムの柔軟性を保っており、曲げても触っても性能が劣化せず、高い光吸収率を維持できることがわかりました。

雨宮研究グループ長の写真
 

目指すは、黒さ世界一と産業応用展開/社会課題解決への貢献

今後は、可視光に対しても99.9 %以上の光吸収率の達成を目指します。これにより、光の計量標準の高度化に貢献できます。吸収率が高い素材は放射率も高いため、サーモグラフィのように赤外線放射量を温度に換算する装置にとって、暗黒シートは精確な基準赤外線放射体にもなると期待されています。また、高い耐久性と、転写製造の量産性を活かして、広く一般環境でも使用できるよう、実用化のための研究開発を進めます。

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本研究テーマに関するお問合せ先

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物理計測標準研究部門 応用光計測研究グループ

研究グループ長 雨宮 邦招(あめみや くにあき)

〒305-8563 茨城県つくば市梅園1-1-1 つくば中央第3

メール:nmij-info-ml*aist.go.jp(*を@に変更して使用してください。)

ウェブ:https://unit.aist.go.jp/ripm/

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