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産総研論文賞2022

賞の概要

産総研研究者は、科学技術におけるイノベーション創出の先導者として、自ら向上心と使命感を持って研究を遂行し、質の高い論文を世界に向けて発信していきます。そこで、産総研として誇れる高水準の論文を発表した研究者に対して、2014年度より毎年「産総研論文賞」として顕彰しております。

※受賞者の所属は受賞時点のものです。

過去の受賞一覧

受賞論文

III ‐ V//Si multijunction solar cells with 30% efficiency using smart stack technology with Pd nanoparticle array
(スマートスタック技術でⅢ-Ⅴ族//Si タンデム太陽電池で効率30%を達成)

Kikuo Makita, Hidenori Mizuno, Takeshi Tayagaki, Taketo Aihara, Ryuji Oshima, Yasushi Shoji, Hitoshi Sai, Hidetaka Takato, Ralph Müller, Paul Beutel, David Lackner, Jan Benick, Martin Hermle, Frank Dimroth, Takeyoshi Sugaya
Progress in Photovoltaics: Research and Applications(vol.28, no.1, pp.16-24, 2020)

受賞者

  • 牧⽥ 紀久夫(ゼロエミッション国際共同研究センター)
  • ⽔野 英範(再⽣可能エネルギー研究センター)
  • 太野垣 健(再⽣可能エネルギー研究センター)
  • ⼤島 隆治(ゼロエミッション国際共同研究センター)
  • 庄司 靖(ゼロエミッション国際共同研究センター)
  • 齋 均(ゼロエミッション国際共同研究センター)
  • ⾼遠 秀尚(再⽣可能エネルギー研究センター)
  • 菅⾕ 武芳(ゼロエミッション国際共同研究センター)

選出理由

現在最も⾼効率な太陽電池は、複数のⅢ−Ⅴ族化合物半導体太陽電池を積層した多接合太陽電池であるが、製造コストが⾼く、主に宇宙⽤途以外では使われていない。低コスト化を⽬的として、最も普及しているSi 太陽電池を多接合太陽電池のボトムセルに使⽤する研究が⾏われているが、接合する⽅法⾃体がこれまでは⾼コストであった。スマートスタックはそれに⽐べて低コスト、簡便であり、さらにハイドライド気相成⻑法(HVPE)で作製したInGaP/GaAs トップセルを使うことで、現在宇宙⽤に限定されている⽤途を、無⼈⾶⾏機や⾞載⽤途へと拡⼤することができる。
今回、スマートスタックを⽤いて世界で初めて30%を超える変換効率を達成し、またその⾼信頼性を実証したことで、次世代太陽電池としてのポテンシャルの⾼さを⽰すことができた。超⾼効率多接合太陽電池の研究は世界的に盛んであり、本論⽂がIF の⾼いProgress in Photovoltaics 誌に掲載されたことで、掲載後3 年弱ではあるが、被引⽤数は順調に伸びている。本論⽂の内容は、太陽光発電に関する世界的な国際会議である36th European Photovoltaic Solar Energy Conference and Exhibition(EU PVSEC 2019)のプレナリートークとして推薦され、当該研究分野における産総研のプレゼンス向上に貢献した。さらに、後発論⽂として、Si 同様の低コスト太陽電池であるCIGS をボトムセルにするスマートスタック太陽電池の作製にも成功し、こちらの変換効率28.1%は現在世界記録として公式公認され、世界的に⼤きな評価を得ている。また、スマートスタックを⽤いてHVPE で成⻑したInGaP/GaAs トップセルとInGaAsP ボトムセルを接合した3 接合太陽電池に関する発表は、The International Photovoltaic Science and Engineering Conference (2022 PVSEC-33)においてBest Paper Award を受賞している。

受賞者代表(牧⽥ 紀久夫)(右)の写真
受賞者代表(牧⽥ 紀久夫)(右)

A nanoscale metal organic frameworks-based vaccine synergises with PD-1 blockade to potentiate anti-tumour immunity
(抗体医薬の課題を解決する多孔質無機ナノ材料の開発)

Xia Li, Xiupeng Wang, Atsuo Ito, Noriko M. Tsuji
Nature communications (vol.11, no.3858, 2020)

受賞者

  • 王 秀鵬(健康医⼯学研究部⾨)
  • 伊藤 敦夫(健康医⼯学研究部⾨)
  • Xia Li(健康医⼯学研究部⾨)
  • 辻 典⼦(細胞分⼦⼯学研究部⾨)

選出理由

本研究は産総研所属の研究者のみ(当時在籍)によって達成されたものであり、産総研の研究レベルの⾼さを国内外にアピールするものとして、産総研のプレゼンス向上に⼤きく貢献するものである。
本研究成果は、世界的に著名な学術誌であるNature Communications 誌(インパクトファクター:17.694)に掲載されていることからもわかる通り、国際的に⾮常に⾼いインパクトを持つ研究である。また、当該論⽂はこれまでに42 回もの引⽤がなされており、世界的に進展の著しい当該研究分野に⼤きな影響を与えている。責任著者の王秀鵬⽒は、本研究の成果をもとに産総研エッジランナーズやAMED、JSPS など⼤型研究資⾦を含む複数の外部資⾦を研究代表者として獲得していることから、本研究は学術分野において極めて⾼い評価を受けている。
王秀鵬⽒は筆頭として、本研究と関連する特許2 件を⺠間企業と共同出願している。また、コア技術に関する特許を基軸としながら、領域連携推進室と密に連携することで着実に社会実装に向けて研究を展開している。事実、王秀鵬⽒らはAMED 橋渡し研究戦略的推進プログラム(慶應⼤学拠点)に採択されており、本技術に関わるシーズを育成しながら医師との連携を含めた実⽤化へ繋ぐための体制構築を進めている。
本研究は、⽣体材料学を基盤としながら、免疫学や細胞⽣物学に関わる学術分野との融合研究で得られた学際性の⾼い成果である。
現時点では本研究は王秀鵬⽒を筆頭とする⽣命⼯学領域の研究者のみで実施しているが、今後は開発した複合免疫療法技術の臨床試験における有効性や安全性を計測・評価することが社会実装の実現には重要となるため、計量標準総合センターなどとの領域融合研究を想定している。また、今後はメソポーラスシリカを含む新たなアジュバンド開発を材料・化学領域と連携していくことも期待できる。

受賞者 王 秀鵬(右)の写真
受賞者代表(王 秀鵬)(右)

Pre-training without Natural Images
(実画像を⽤いない画像認識AI の事前学習)

Hirokatsu Kataoka, Kazushige Okayasu, Asato Matsumoto, Eisuke Yamagata, Ryosuke Yamada, Nakamasa Inoue, Akio Nakamura, Yutaka Satoh
International Journal of Computer Vision (vol.130, pp.990-1007, 2022)

受賞者

  • ⽚岡 裕雄(⼈⼯知能研究センター)
  • 岡安 寿繁(⼈⼯知能研究センター)
  • 松本 晟⼈(⼈⼯知能研究センター)
  • ⼭⽥ 亮佑(⼈⼯知能研究センター)
  • 佐藤 雄隆(⼈⼯知能研究センター)

選出理由

AI 分野におけるメジャー国際会議ではAward(750 件以上投稿中のトップ2)を獲得し、分野トップジャーナルであるIJCV に採択(IF: 13.369, 本論⽂の閲覧数は掲載後の数ヶ⽉で3.6 万回を記録)、世界的権威のあるメディアであるMIT TechnologyReview に掲載されるなど、学術的にも⾼い評価を得ている。画像認識AI の学習を⾏うための標準的なデータセットであるImageNet は、著作権やプライバシーの問題が指摘されており、商⽤利⽤が禁⽌されている。⼀⽅、⾃らデータセットを構築するためには膨⼤な画像を収集し、それらに対して⼿作業で膨⼤な教師情報を与える必要がある。本⼿法はこれらの社会実装を妨げる問題を根本的に解決するものであり、深層学習を⽤いるあらゆる産業分野への貢献が期待される。既に産業界からの注⽬も⼤きく、複数の企業共同研究で⽤いられるなど具体的な社会実装の取り組みも着実に進捗している。本研究はその汎⽤性から、今後学際的にも⼤きな広がりが期待され、既に画像認識だけでなく、ロボット分野、信号処理分野、医療分野などにおいても応⽤研究が進められている。現状では具体的な取り組みはないものの、今後材料、⽣命、エネルギーなど深層学習の導⼊が進む各領域との融合プロジェクトに発展することも期待される。

受賞者代表(⽚岡 裕雄)(右)の写真
受賞者代表(⽚岡 裕雄)(右)

Gate controlling of quantum interference and direct observation of anti-resonances in single molecule charge transport
(分⼦を介した電気伝導への量⼦⼲渉効果:計算シミュレーション主導の発⾒)

Yueqi Li, Marius Buerkle, Guangfeng Li, Ali Rostamian, Hui Wang, Zixiao Wang, David R. Bowler, Tsuyoshi Miyazaki, Limin Xiang, Yoshihiro Asai, Gang Zhou and Nongjian Tao
Nature Materials (vol.18, no.4, pp.357-363, 2019)

受賞者

  • Marius Buerkle(機能材料コンピュテーショナルデザイン研究センター)
  • 浅井 美博(機能材料コンピュテーショナルデザイン研究センター)

選出理由

本論⽂は、分⼦軌道の対称性が反応性(1981 年ノーベル化学賞)のみならず電気伝導度も決定する事を実証した。⾼いIF 学術雑誌での発表(IF=43.841)であると同時に発表後2年8ヶ⽉の被引⽤数が135 と多く、学術分野での⾼評価を獲得しており、産総研のプレゼンス向上に役⽴っている。また、本論⽂で⽤いた計算シミュレーション⼿法は、産総研の重要課題であるデータ駆動型研究開発に重要な役割を果たす仮想実験環境構築のバックグラウンドをなす重要成果であり、素材メーカーにおける炭素材料の電気機能設計にも活⽤されている。さらに本論⽂で得られた知⾒は、1分⼦・1細胞検出技術などでの活⽤を通じてテーラーメード医療や、次世代ナノエレクトロニクスの開発へつながり、⽣命⼯学領域、情報・⼈間⼯学領域やエレクトロニクス・製造領域にも、その影響が広がる成果である。

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受賞者代表(Marius Buerkle)(右)

45-degree curved micro-mirror for vertical optical I/O of silicon photonics chip
(曲⾯マイクロミラーを⽤いたシリコンフォトニクスの新規垂直光⼊出⼒技術)

Akihiro Noriki, Takeru Amano, Daisuke Shimura, Yosuke Onawa, Hiroki Yaegashi, Hironori Sasaki, and Masahiko Mori
Optics Express (vol. 27, no.14, pp.19749-19757, 2019))

受賞者

  • 乗⽊ 暁博(プラットフォームフォトニクス研究センター)
  • 天野 建(プラットフォームフォトニクス研究センター)
  • 森 雅彦(研究戦略企画部)

選出理由

経済産業省の半導体・デジタル産業戦略において、情報通信の⾼性能化と省エネ化を両⽴させ得る光電融合は、2030 年以降(Step 3)におけるゲームチェンジ技術として、今後注⼒すべき技術に挙げられている。本論⽂で報告された⾯直⽅向の光⼊出⼒は、光電ハイブリッド多層回路基板を実現するうえで重要な要素技術であり、現在、NEDO プロにおいて基板メーカーとの共同研究が進んでいる。また、半導体パッケージ基板関連企業等約20社からなる産総研コンソーシアム(次世代グリーンDC 協議会光電コパッケージ技術検討部会)の設⽴にも⼤きく寄与している。半導体産業サプライチェーンにおいて、パッケージ基板/回路基板分野は⽇本が断トツのシェアを確保しているお家芸であり、本論⽂の成果はこれを更に強化するものである。また、Optics Expressというフォトニクス分野のトップジャーナルに掲載され、発表後3 年半で被引⽤数18、閲覧回数1,918 件と⾼い反響を得ている。2021 年に開催された主要国際会議において筆頭著者の乗⽊⽒とテーマリーダの天野⽒がそれぞれ招待講演を⾏ったことは、産総研のプレゼンス向上にも寄与している。

受賞者代表(乗⽊ 暁博)(右)の写真
受賞者代表(乗⽊ 暁博)(右)

Sound-driven single-electron transfer in a circuit of coupled quantum rails
(半導体中で単⼀電⼦を⾼精度に移送・制御する技術を開発)

Shintaro Takada, Hermann Edlbauer, Hugo V. Lepage, Junliang Wang, Pierre-André Mortemousque, Giorgos Georgiou, Crispin H.W. Barnes, Christopher J.B. Ford, Mingyun Yuan, Paulo V. Santos, Xavier Waintal, Arne Ludwig, Andreas D. Wieck, Matias Urdampilleta, Tristan Meunier, Christopher Bäuerle
Nature Communications (vol.10, no.4557, 2019)

受賞者

  • ⾼⽥ 真太郎(物理計測標準研究部⾨)

選出理由

本論⽂では、国際共同研究チームの中で被推薦者が中⼼となって試料構造の改良に取り組んだ結果、従来の3倍を超える距離を99 %超の移送効率で単⼀電⼦を移送できることを⽰した。この結果は、表⾯弾性波を⽤いた単⼀電⼦移送の⽅法の信頼性の⾼さを⽰すものであり、新たな計量標準の開発にも通じる⾼度な単⼀電⼦の制御技術によって達成されたものである。また、単⼀電⼦の移送経路を⾃在に制御する⽅向性結合器の実装にも成功した。被推薦者が開発したこの技術は固体中を⾶⾏する単⼀電⼦の量⼦状態を⾃在に制御することで、電⼦を⽤いて量⼦光学的な実験を⾏う量⼦電⼦光学実験という新たな研究分野を拓くコア技術となるものである。さらに、本研究ではピコ秒スケールの電圧パルスを⽤いて単⼀電⼦を移送するタイミングを制御することに成功した。この技術は多数の単⼀電⼦を同期して運ぶために必要不可⽋なものであり、量⼦情報の伝送、及び量⼦電⼦光学実験に応⽤される重要技術である。
上述の成果を上げ、Q1 誌に掲載された本論⽂は、公開から3年ほどで29 回の被引⽤数を獲得しており、著者はこの仕事に関連して国内外のワークショップや権威ある国際学会での招待講演に3件呼ばれている。また、本研究を発展させる形で東京⼯業⼤学と提案した研究は著者を研究代表として科研費基盤B にも採択されている。最近では、この研究成果をさらに発展させ、⾼効率を保ったまま周囲の量⼦ビットへの擾乱を起こさずに電⼦を移送する技術を確⽴(J. Wang et al. Phys. Rev. X 12, 031035(2022))、有⼒紙に記事掲載されるなど、産総研のプレゼンス向上につながっている。量⼦技術は現在国の重要技術の1つとして位置付けられ、産総研にも量⼦拠点が設置され、盛んに研究が進められている。本研究は、半導体電⼦系の拡張性の向上に貢献する重要技術であり、本研究で培った技術を元に提案した研究課題がムーンショット型研究開発事業に採択されるなど、今後量⼦技術開発における産総研のプレゼンスの向上に⼤きく貢献しうるもである。

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受賞者代表(⾼⽥ 真太郎)(右)